第8話 揺れる想い-8

 冷たいタオルが顔に被せられて、あたしは意識を取り戻した。

 開いた目には、眩しい太陽の光が全天に輝いているように見えた。

「あ、あたし…?」

「大丈夫?」

覗き込んだ顔は、小早川先輩だった。そして、中嶋先輩や川井先輩もいた。

「あたし……、ごめんなさい……、…また…ダメでした……?」

「なに言ってるのよ。四位よ。上出来よ」

「え……?」

「四位。よくやった」

はっきりと言い切ってくれたのは、中嶋先輩の笑顔だった。

「あたし…が……?」

「そう。よく頑張ったわね」

「こんなに無理しなくてもいいのに」


 後は、よく覚えていない。泣いたようにも思える。そのまま、意識を失ったようにも記憶している。どこまでが、現実で、どこからが、夢なのか、わからなかった。全身を隈なく包み込む熱病にうなされているような気分だった。

 あたしの記憶は、次の日の朝まで、不明瞭なままだった。


 目覚めた朝は、いつもより早く、いつもより多くの雀がさえずっているのが聞こえた。カーテンを開け放した空には、ぽっかりと浮かんだ雲が、白く、そして微かに琥珀色に輝いていた。その瞬間、ようやくレースが終わったんだという実感が沸き起こった。

 昨日、間違いなく、家まで帰ってきて、夕食も食べて、お風呂にも入ったはずなのに、全ての記憶がぽっかりと抜け落ちていた。

 いま、あたしは、時間を取り戻すことができた。

 そして、あたしの体が何かを欲していた。そう、あたしの中で、はっきりと結論が出ていた。


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