下世話な出歯亀根性と、「それを自覚させてやりたい」という欲求

 エロ・グロ・ナンセンスを題材に取材を行うライターの男性と、その取材を受けたもうひとりの男性の、とある秘密の趣味にまつわるお話。
 隠れざるをえない趣味を持った人々の物語です。実録ルポ風、というわけではないのですけれど、取材を行うライターの視点を通じて物語を追っていくため、それと同等の効果があるところが魅力的でした。より正確には、それによる主人公との同化効果そのものが、お話のギミックとしてきっちり綺麗に作用しているような感覚が素敵。

〈 以下はネタバレを含みますので注意 〉

 伊勢さんの行動の可愛らしさ、あるいは女々しさみたいなものが好き。こんなことのために一週間もかけるというのもそうなのですけれど、なによりわかりやすいのが「誰も傷つけない/搾取しない」という露骨な限定。きっと「誰にも迷惑をかけない」とまでは言えなかったのだろう、と、ついそう思ってしまうところ。
 極論を言うなら、どんな趣味嗜好であれ、それが完全に誰の迷惑にもならない、と断言するのは難しいのですけれど。でも「人からとやかく言われるほどには」迷惑をかけていない、という話であればまあわかるもので、でも作中の彼らの場合は、そこに明確な違法行為(あるいは何か対処していたとして、脱法行為)を含んでいるために、そうとも言いづらい。
 確かに誰も傷つけてはいないけれど、でも人のことをあれこれ説教できるほどには無謬とも思えず、ましてや最初からこの結末に持っていくつもりでわざわざ取材を許可した、と考えると、なるほど彼もまた守谷さんと同程度には悪趣味だなあ——という、この互いの「人間らしい何か」の巡る感じが楽しいです。
 と、一度そこまで考えた上で、マクガフィンの部分をそっくり別のものに入れ替えて想像するのがもう本当に楽しい。
 伊勢さんの趣味、彼の属するコミュニティを、何か別の集まりに。例えば性的少数者の会合でもいいし、また食肉や革の加工などの組合でもいい。そう置き換えた上で、さてさっきと同じ感想を抱けるか? みたいなことを想像すると、もう胃にギリギリ来るわ頭痛はするわで本当に最高でした。
 考えさせられる、という言葉はちょっと違うのですけれど、勝手にどんどん横道に逸れたことを考えちゃうお話。なかなかにおっかない作品でした。