第4話 父の覚悟

 斜陽差し込む、お父さんの執務室の前__。


 今日のことなんて言えば良いんだろう……。


 10歳のお子様らしく苦悩中__。


 皇太子との婚約(将来婚約破棄確定)を取り付け、しかも、いずれは家門から出ていくことまで勝手に決めてしまった。


 勿論、事前相談はしていない。


 父は全力で反対するだろうから_____。


 しかし、手をこまねいていては暴動が起きる。


 悔しいかな、今の10歳の私では打つ手が限られる。

 しかも相手は腐っても皇太子、公爵令嬢とでは、発言力が違いすぎる。


 お父さんが3年も地方に飛び回っていては、私は成すすべもなく、地獄の婚約&結婚生活。

 ぬぁんで、私が、彼奴等の生贄にならなきゃいけないわけぇ!?!?


 絶対嫌っ!!!!


 意を決してドアをノックする。


 コンコン。


「入りなさい。」


「失礼します。お父さん。」


「アリス……、緊張してどうした。」


 お父さんの顔が不安に曇る。


 どうしよう、泣けてきた。


 前世のことや来世のこと、どう説明したらいいかわからないし、

 お父さんを死なせたくないけど……。


 やっと今チャンスが巡って、助けられるかもしれないのに、私、ちゃんと側に……。


 お父さんの側にいたかったのにっ____!


「ごめんなさいお父さん……。」


「アリス!?」


 結局私は、泣き出してしまった。


 泣いて泣いて、もうボロボロになった私は、結局何も言えないまま、寝落ちてしまった。

 恨めしや、お子様体力___!


 そして、その日の晩_______。


 私の全く預かり知らぬところで、父と陛下の密談が行われた。

 勿論、私がした提案のことで、だ。


「あぁ。ミカエル……。そなたの娘は女子おなごにしておくには惜しいほど優秀じゃ。」


「有難きお言葉です陛下。」


 一口果実酒を口に含み、陛下は続けた。


「優秀じゃ。優秀であるがゆえに、儂らでは見えぬ先のことまで憂い、背負うとしているようじゃ。」


「娘が?……それは、買い被りでは?」


 ミカエルは不安を覚えた。

 近頃娘は、少し前まで貴族たらんと背伸びをしているようだったのに、急に甘えるようになった気がする。


 勿論、皇太子との折り合いが良くないのも原因かもしれないが……。


 やはり、派閥内の力関係を考えると、我がローヤル公爵家ほど政略の相手に相応しい家は、無い。と、言うことだろうか?


「ふむ……。何から話すべきか……。

 まず、父親として……アロルドのことはすまなんだ。

 父親として王として、あれを一人前にしようとするあまり、かえって良くない結果を招いた。

 それを……臣下の娘だからと、そなたの娘にその責任背負わせるべきではなかった。

 しかし……。

 娘から聞いておるか?」


「何をでしょう?」


「そなたの娘から提案されたのだ。

 _____________________________、と。」


 ミカエルは、衝撃を覚えた。


 とても10歳の少女が下した判断とは考え難い。


 しかも、先のことを見越して、家門と私を守るために…………。


「自分を犠牲にしようとしている?

 あのは一体何をそんなに恐れているのですか!?

 失礼ながら、殿下との間で何か____?」


「分からぬ。

 しかし、……並の覚悟ではないことだけは疑う余地もない。」


「あ、あの娘は、非凡な才能に恵まれたかもしれませんっ。しかしっ! まだ10歳の子供なのです!! 

 どうか……っ!! 

 この先、何があろうとも、私が皇太子殿下をお支えし、守り抜きます!! 

 ですから_______!!!!!」


 娘だけは連れて行かないでくれっ!!!!!


「分かっておる。アロルドにも、そろそろ自覚させる時がきたのだ。己がいかに、令嬢に甘えていたのか__、な。」


「陛下……。」


「アロルドとローヤル公爵令嬢との婚約はそもそも無かった_____。

 まぁ、幸いにもこの国の貴族はそれなりにおる。どうとでもなろう。」


 ハハハと、陛下は笑った。


 ミカエルは心底安堵した。

 最初こそ、この婚約を娘は喜んでいたようだが、皇太子とは

 彼のことは、生まれが生まれなだけに不憫には思うが、やはり、娘が傷つくことは看過しがたい。


 こうして、朝_____。


「アリス。起きなさい。」


「え?」


 ベッドの脇にはお父さんが……。


「お父さん!?」


「お早う。朝食の後に話がある。着替えたらおいで。」


 と、優しく頭を撫でられた。


 何だろう? 心なしかお父さんの機嫌がいい気がする……。


 そして、朝食の後______。


 談話室で食後のお茶を楽しみながら、話をすることに。

 季節は夏前、爽やかな庭木の緑が、陽の光を透かして輝く。


「アリス。」


「はい。」


「昨晩、陛下がお見えになられた。」


 え_________。


 やっぱり、私の提案を……。

 と、期待したのもつかの間。


「お前と皇太子殿下との婚約は、なかったことになった。」


 !? 私の提案は受け入れられなかった!


 じゃぁ……まさか____。


 アリスはできるだけ取り乱すまいと、静かにティーカップを置いた。


「と、いいますと? 私が提案しました競馬は取り入れず、庶民たちから搾取すると……。」


「アリス……。では聞くが、増税に反対する理由は何だろう?」


「……。貴族は、これまで、飢饉が起ころうとも、減税にはかなり難色を示し、この場合、各領主の裁量により決めてきました。

 その流れがあり、今、この国で、民を守ろうとする、ノブリス・オブリージュがどれ程機能しているでしょうか?

 

 民を支配すれば事足ると、そんな単純なものではありませんでしょう?

 でも、そう考えている貴族が大半を占めている。

 ですから、もし増税などしようものなら、今度、下げることが出来ません。


 陛下も、そのこと、随分お悩みでしょう?」


「アリス……。

 なんということか___。


 我々大人が不甲斐ないばかりに……。君にどうやら随分負担をかけたようだ。


 しかし、どうか一人で抱えないでくれ。


 臣下としては失格かもしれないが、私は……、どうあっても、君が何より大事なんだ。」


 お父さんは私の手を取り、額にあてた。


「お父さん……。」


「陛下には増税の件進言しておく。それから競馬に関してだが、適任者がいないか探してみよう……。」


「それは駄目っ!!!!!!!」


 私は思わず声を張り上げた。


 だって、競馬は増税対策だけじゃない。


 新たな社交場として、ローヤル公爵家が牛耳れば、貴重な情報収集源として大いに役立つ。


 それに、


 敵は、ローヤル公爵家を最初から狙いに定めていたはず……。


 油断を誘い、私という餌に食いつかせる。


 私は今、子供!

 怪しまれずに油断を誘える。


 それに……、

 誰が敵か判らないのに、競馬なんて重要な情報源と資金源になるようなもの、他人の手に渡せない!!!!!


「競馬は必ず私にさせて下さい!! 

 それから不本意ではありますが、私はにならなければなりません。」


「アリス!!」


「お父様、お願いです。家門から勝手に出ていくようなことはしません。ですから……。」


「君は、何を恐れているんだ……。」


「っ……_________。」


 答えに窮し、ドレスの裾を掴んだ。

 そして私は……、


「皇太子殿下は……、私を、お恨みでらっしゃいます。彼はいずれ、我が家ごと私を排除するでしょう。」


 少ーし、飛躍的な予測に見せかけたを話した。


「……それは、殿下との間で何があった!?」


「何も。

 ただ……殿下が私にお求めになられたのは、貴族としての責任だけでしたから。

 私は、愛し愛される夫婦でありたい。

 私がそれを……望んだら______。」


 とても憎まれた_______。


「……あの人は私を、憎んでいます。

 なぜなのか、分かりませんが_____。」


「そうか……。君は、そう思っているのだな?

 しかし、それは_____イヤ……。

 では、

 君は、どうしたい?」


 お父さんは言葉を濁した。

 けれど、当たらずも遠からず、といった印象を受ける。


 今は聞けないけど、彼が私に対して、が存在することお父さんは知ってるんだ_____。


「………………。

 私は、皇室をどうこうしたいわけではございません。アロルド殿下が帝位につくことも、依存ございません。


 ただ、彼とは、近くて遠い他人でありたいだけです。

 例えば、疎ましいが、力関係や発言力などを考えると、排除したり、敵対することは好ましくない、彼にとってそんな相手でいたいのです。」


「臣下として仕えることは構わない、が、親しい間柄ではいたくない。と、いうことだな?」


「はい。」


「ならば、せめて_______。」


 私は少し驚いた。


 まさか、あの父がこんなことを言い出すとは思わなかったからだ。


 父は、とても誠実で真面目で、正義感の強い人だ。


 そんな父に…………。


 話が終わって、サーシャにポツリと呟いた。


「私…………、せっかくお父さんを救おうと思ったのに……。親不孝ばかりよね?」


「お嬢様?」


 サーシャは何のことだか分からず、とても不安な顔をした。


「ごめんね。何でもないの。」


 父の覚悟。


 私も、全力でかからなきゃ____!!



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前世二回目とかあり得ねぇ 泉 和佳 @wtm0806

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