第3話 お金は絞るのではなく自ら出させるものです!!

「帝国の太陽にご挨拶いたします。陛下。」


 私は陛下を前にカーテシーをすると、


「座りなさい。」


 と、デスク前の椅子に座るよう命じられた。

 そして、程なくして


「父上。ただいま参りました。」


 皇太子アロルドもやって来た。


 アロルドは私を見るなり、しかめっ面になりそうなのを、グッとこらえていた。


 私は席を立ち、アロルドに挨拶する。


「帝国の小さな太陽にご挨拶いたします。」


「ローヤル公爵令嬢。楽にするがいい。」


「お気遣い感謝いたします。」


 一連の、ほぼ形式とかしたやり取りを終え、席につく。そして、


「皇太子も来たことだし、早速本題に入ろう。

 さて、先触れにも出した通り、税制に関して二人の意見を聞きたい。先ず皇太子から……。」


「はい。先ず、前年より豊作が続いておりますので、増税を提案いたします。」


「ふむ。確かに。」


 やはりそうきた! 確かに、前年を含めた3年は豊作の年だった。でも……。


「お待ち下さい。」


 アロルドはあからさまに私を睨む。

 陛下は興味深そうに私に視線を送る。


「令嬢。それは私の発言を遮ってまでのことか?」


 アロルドは私に厳しく問う。


「……。ではお尋ねいたします。今まで貴族が減税に同意したことがありましたか?」


「……それは税収を増やすことと関係あるのか?」


「では、税収の大部分を担っているのは誰ですか?」


「農民達だろう。それがどうしたというのだ?」


「農民達から無限に搾取できると、お思いですか?」


「令嬢! 民に少し負担が増えるかもしれないが、それは国全体のためだっ! それに……。」


「民の生活が豊かであると?」


「今は苦しくとも最終的には……。」


「それまでに、飢饉が起こらぬ保証はございません。」


「そんないつ起こるともわからぬものでっ_________!!」


“どう貴族達を納得させ国をまとめるのか?”ってこと?


 そんなの決まってるわ。


「そもそも……。無いところからではなく、あるところから吐き出させれば良いのです。」


「あるところ? 結局は増税ではないのか?」


「いいえ。貴族達から出させます。」


 !?!?!?!?!?!?!?


「そんなことは_____。」


 無理に決まっているだろう!? とアロルドの顔に書いている。


「いえ、できます。賭博場を作るのです。」


「賭博場!!? そんないかがわしい場所____。」


「興味深い。」


 陛下はニッと微笑み私を見つめる。

 その光景に、アロルドはショックを受けた。


「では、続けてもよろしいでしょうか?」


「ぜひ聞かせて貰おう。」


「はい。一般的に賭博といいますと、カードですが、私が導入したいのは“競馬”です! 

 もともと、貴族に馴染みのあるスポーツですし、あちらから金貨を差し出すに違いありません。これを、王家の名で作り新たな社交場とするのです。」


「なるほど。これは良い! 貴族が集まるなら見栄を張り合い、使う金額も自ずと増えるだろう。」


「えぇ。義務的に出させるのではなく、出したくなるように仕掛けるのです!」


 私はチラッとアロルドを見やった。

 彼はプライドを傷つけられ、ギュッと拳を握っていた。


 陛下からの心象は良くなってしまったが、彼からの心象は、より一層悪くなってくれたようだ。


 最初から好かれる必要などない男だ。

 どうでもいい。


 大事なのは、我が家がどれだけ力を持つか、簡単に排除できないほど影響力を持つことが私の最終目標……。


 そして、アホルドとの結婚阻止のために____。


「しかしながら、皇太子殿下がご懸念されているように、“賭博”を王家の名で許すと、享楽的な印象を与えてしまうのも事実、ですので……、

 私をお使いください。」


「どういうことだ? 今王家の名で作ると言っていなかったか? なのにそなたを使う? どういう意味か!?」


 アロルドはキッと睨みながら私に噛みつく。


「アロルドっ!」


 陛下が一喝。


「皇太子たるもの、客観的な判断が出来ずになんとするっ!!」


 しかし、


「父上! しかし! 賭博など……貴族達の風紀を乱しますっ!! 貴族の風紀を乱れれば国が乱れます!!!」


 風紀ねぇ……。

 別にいいや、ココははっきり言ってやろ。


「因みにですが、殿下が仰せの風紀とは何でしょうか?」


「なっ……!!

 そのような享楽的なもの公的に認めれば、礼儀や秩序は蔑ろにされ、ひいては王権の失墜をもたらすであろう!! 

 令嬢はそれを解らないというのか!?」


「では知っておいでですか? どうやって行くの当てのない貧民が増えていくのか?」


「そんなもの、彼らが街での一攫千金を夢見て畑を放棄するからだろう!」


「違います。」


「何!?」


「貴族が生計も成り立たないほど搾取してゆくからです。」


「_________そんなはずは……。」


「なぜ陛下と貴族院が対立してきたかご理解なさっておいでですか?」


「それは______!」


「よい令嬢。これは儂の親のしての怠慢じゃ。」


 陛下が憂いの影を落として仰せになられた。


「陛下…………。」


 アロルドが少し恐れるように、陛下に視線を送り呟いた。

 しかし、


「令嬢、先程の続きを頼む。

 確かに、公に賭博を許すと王家の体面に良くない。そなたは自分を使えと申したが?」


「えぇ……。」


 アロルドの話はここで打ち切られた。

 陛下はこうして、度々アロルドに対して厳しかった。

 父として、王として、頼りない息子に少しでも成長してほしくて、という想いからなのだろう……。


 こうして見ると、なんだかアロルドの背が小さくか細く感じる。


 今の私は彼の3歳下だが、中身が前世と前前世合わせて、59年分の人生経験があるからだろうか_____。


 情に流されるなっ! 

 コイツは私とお父さんを断頭台送りにした! 

 憎き仇!!


 絶対忘れないわ……。

 だから______、


「私を殿下の婚約者とし、私が造らせたことにすればよいのです。」


「ほう……。」


「私は、我が儘で愚かな公爵令嬢を演じますから、私を利用して不正を働く貴族をあぶり出し、貴族の勢力自体を弱め、その隙に彼らを監視監督できるよう庶民に実力をつけさせるのです。」


「ふむ。これは……幾年も先を見越した政策じゃな。

 しかし、そうなると……。そなた自身はどうするのか? 彼らと共に失脚してしまうのではないのか?」


「えぇ。ですから、そうなる前に、家門から破門していただき、私の地位は返納いたします。

 その代わり、陛下から一筆賜りたく存じます。死罪にはならぬように____。」


 そうすれば、父や家門を失わない。

 自由を手に入れられる! お嬢様生活ほどラグジュアリーじゃなくても、もう勝手な人達に振り回されなくていいわ……。


「______。儂は……臣下の娘だとばかりに……少々甘えが過ぎておったか。

 アロルドの嫁にと望んだこと、すまなんだ。そなたが望むなら、他所の国ででも良き相手を探そう。どうする?」


 陛下は申し訳無さそうに申し出てくれた。

 でも______。


「陛下。私もこの国を支える貴族。陛下に頼られるは、我が誉れでございます。」


 きっと、この国自体をどうにかしなきゃ、私自身の運命は変えられない気がするから……。


 日本で私を、◯しやがったあのショタ神。


『あっちの人間全滅しちゃって! 

 知的生命体って進化までちょー時間かかるだろ? 

 このままじゃ責任問題に発展しちゃうの!!

 だから! オマエ行って!! チートやるから自堕落バカ聖女を抑えてゲームチェンジャーになれって言ってんの!!』


 って……。

 不吉なこと言ってたし。


 さて、アホルドは……。


 私は横目でチラッとアホルドの様子を伺う。


 アホルドは悔しそうに両方の拳を握り、私と目が合ったかと思えば、すぐに顔を背けた。


 彼もお年頃の少年。

 自分の意見が認められず、年下の女の子を贔屓する父親____。


 ひねくれるには十分か____。


 そなたの意見は内密に審議すると、陛下からお言葉をいただき、その日は帰ることになった。

 おそらく採用されるだろう……。


 そして……。


「ローヤル公爵令嬢。待ちたまえ。」


 アホルドに呼び止められる。


 小言かな? 八つ当たりかな? と、待ち構えていると……。


「令嬢は……地位でなければ何を望むのだ。

 いくら父上から一筆頂いたとて、地位を失い国外追放となろう。

 見知らぬ土地で、一人生きてゆくの、は公爵令嬢には過酷ではないか?」


 あら、ちょっと意外。私の心配してくれるなんて……。

 どういうわけか、年端もゆかぬ頃から、私のこと嫌いだったのに……。


 まぁ、でも……。


「嫌いな私の心配するなんて、お心の広いことで……。」


「君こそ! どうしてそう憎まれ口ばかりっ!!」


 アホルド君、ちょっと泣きそうなお顔。

 泣きたいのはこっちだよ……。

 私は、キミ顔見てるだけで嫌なことばかり思い出して憂鬱なのに……。


 なに傷つきましたって顔するわけ?

 自分だけ辛い思いしたとでも?


「令嬢?」


 思わず涙が流れてくる。

 言ってやりたい。


 今コイツは何もしていないけど……。

 いずれ…………。


 アホルドが流石に心配して手を伸ばす。


 それを私は


 パンッ___________!!!

 と、その手を払い除けて


「アンタなんか大嫌いよっ!!!

 アンタなんか!! 

 アンタなんか!!

 _________________っ!!!!」


 アンタなんかの先は続けなかった。


 『いなければ良かったのに!!!!』


 言えなかった。

 それは、自分自身にも言ってるような気がして……。


 ヤツはショックを受けた顔をしている。


 何でアンタが傷つくわけ!?!?!?!?


 とは思うものの、足が勝手に動いてその場から逃げ出していた。


「まさか……母親のこと、思い出したのか____?」


 アロルドは、遠ざかるアリスの背を見ながら問いかけた。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る