賢者の称号を持つ少年は、勇者と共に戦いと冒険の運命を背負うことになる。
こんな感じで賢者や勇者が旅をするというのが、スタンダードな王道ファンタジーと言えるでしょう。しかしこの賢者、戦いなんてしたくないと、スローライフを目指して逃亡することを決意します。
……と、ここまでなら、最近流行っているスローライフな異世界ファンタジー。そんな本作最大の特長は、賢者が逃亡先でまわる土地の数々。
一部を挙げてみますと、チーバ、サイの国、イバラーギ。なんだかどこかで聞いたような響きではありませんか。
もちろん似ているのは名前だけでなく、その土地毎の文化や気候、名産品だってそう。賢者の逃亡劇の間に盛り込まれる、旅行記や観光ガイドともいえるイベントを見ていると、次は自分の住んでいるところ(と、よく似た場所)に来てと思ってしまいます。
その一方でこういったファンタジーのお約束である、聖女や魔王軍の将軍様が絡んだラブコメもしっかり完備。
全国津々浦々を巡りながら、愛とスローライフを目指してそれぞれの思いが交錯します。
勇者は魔王を倒す使命が与えられ、聖女や魔法使いの称号を持つ者は、勇者のパーティーとして彼をサポートしなければならない掟がある世界。
15歳になる賢者の少年も勇者の仲間にならなければいけないのですが、冗談じゃない。僕は畑を耕して農家になるという夢があるんだー!
というわけで勇者の仲間になることを拒否った賢者は逃亡。全国各地を逃げる羽目に。
このお話、異世界を舞台としているのですが、どこかで聞いたことのある地名がちらほら。
ハコダテやクマモトなど様々な土地に移動しながら物語は展開され、ご当地ネタが各所に盛り込まれています。
農家を目指す賢者と、それを追う聖女。はてや魔王軍の将軍など、様々なキャラクターが話に絡んできますけどシリアスなバトルものにはなりません。
本人達は真面目でも、どこか笑えるコメディ色の強い作風となっていて。サクサク読める楽しいお話です。
賢者と聞いて皆様はどんなイメージが頭に浮かびますか?
石、孫、タイム(不応期って言うんですね)
ちなみに架空の職業として定義されているみたいですが、英語的にはsageやwise manと訳されます。
sage?
つまりダウナー系の陰キャを表している?(表してません)
賢者の考察はさておき、物語は、賢者の称号を得た少年が、スローライフを求め逃げ回るという紀行文になっております。
似て非なる地名や名産が随所に現れ、コロナ渦で閉塞感漂う世界の中で、疑似的な旅と冒険を味わえます。
そんなほのぼのとした序盤から、続く旅の中で物語は様々な変化を重ねます。
作者様の豊富な知識と見識、その慈愛に満ちた思考は、本作以外の作品やコメントからも伺うことができますが、この物語に於いて、そこから類推する予想は悉く覆されます。
どれだけの引き出しをお持ちなのか、現在第五部が始まり、どんな展開に至るのか更新が待ち遠しいのです。
さて、「人生に於ける賢者タイム」について愚考したいと思います。
そもそも、賢者タイムの対義語は「愚者タイム」などと言われることが多いですが、私は、リビドーの反語と感じるのです。
そしてリビドーは中二病の燃料。
つまり賢者タイムから中二的な創作は生まれ難い(暴論)
それなりに生きているとですね、枯れてくるのです。
落ち着きを得る代わりに、パトスがしょんぼりしてくるのです。
でも、本作を読むことで湧き上がる、純粋な楽しいという気持ちは「そっか、まだこれからッスよね!」と不思議な力を与えてくれる。
それは子供の頃読んだ冒険物語と同じ昂揚感。
本作は、そんな「人生の賢者タイム」に堕ちた読者に贈る応援歌ではないだろうかと思えて仕方がないのです。
だって、あの頃求めた夢がこんなに詰まってる。
本作は現実世界によく似た地名の異世界を舞台として、転生した主人公がご当地名産品を巡る物語です。
世界でただ一人の賢者スキルが判明した主人公は、同じく唯一の聖女、魔法使い、そして勇者とともに魔王討伐に行くように命じられるのですが、スローライフに憧れる彼は逃亡の道を選びます。
そして、追跡する聖女たちの手を逃れて北上しながら、各地で様々な農作物や料理のスキルを磨いていくのでした。
果たして、賢者は無事に逃げおおせるのか、魔王討伐はどうなってしまうのか、よくある異世界ものと思いきや、各都道府県の名産品が紹介されており、コミカルながらも勉強にもなる美味しそうな作品です。