オートパイロットは乱せない

ちびまるフォイ

自動操縦でいられなくなる

「本校でもオートパイロットを始めることにしました。

 生徒のみなさんは後ろの席に装置を回してください」


オートパイロット装置が回されると、みんな背中にランドセルのごとく装置を取り付けた。

すると体の主導権が装置にゆだねられ、勝手に姿勢を正してくれる。


「すごい。なんにも意識してないのに!」


「オートパイロットが勉強に障害となるさまざまなことをやってくれます。

 これからみなさんは勉強にだけ集中できますね」


先生はそう言った。

オートパイロットの自動筆記でノートはキレイに取れるし、

移動教室も勝手に体を動かしてまちがいなく歩かせてくれる。


頭では別のことを考えていても体はやるべきことをしてくれるので非常に助かる。

よく見ると先生もオートパイロットを取り付けていた。


「先生はどうしてこの装置を取り付けているんですか?」


「毎回同じクォリティの授業を届けるために必要なんですよ。

 体調が悪くても、家庭内でいざこざがあって気分が落ち込んでいても

 いつも変わらぬ最高クォリティで授業することができますからね」


たしかに最近の授業はどれも楽しく、眠くなることが少なくなった気がする。

オートパイロットの便利さにすっかりハマってしまった。


数日もするとオートパイロット装置が日常にも取り入れられるほど流行りだした。


いつも決まった時間に起きて、決まった時間に朝食を取り、同じ電車に乗って、同じ学校へ向かう。


そのルーティーンをオートパイロットにお願いすれば、

どんなに眠い朝でも遅刻することもない。

頭は昨日やったゲームの続きを考えていても電車に乗り遅れることもない。


こんなに便利なものと生きている間に出会えた奇跡に感謝。

そんなある日のこと。


「なんだあの子は……!」


オートパイロットで乗り込むいつもの電車の中に、ひときわ輝く女子に目を奪われた。

同じ制服を着ていることから同じ学校の子なのだろう。

どうして今ままで気づかなかったのだろうか。


それもそのはず。

オートパイロットは事前に指定した行動しか行わない。

自動操縦されている間の頭は別のことを考えているから意識するわけもない。


そして今、同じ電車にこんなにも素敵な人がいることを知ってしまった。


そうなれば1日中がほぼオートパイロットされているこの頭で考えるのは

朝の電車で出会った愛しのあの子のことしか無い。


「また会えるかな……」


その期待は叶えられ、次の日も、その次の日も彼女は同じ電車に乗っていた。

これは運命なのではないかと考えることもあったが、オートパイロット装置が運命説を見事に否定した。


このままオートパイロットを続けていては彼女との接点は平行線のままだ。

なんとかして自分のことを知ってもらわなければならない。


声をかけるためのセリフ集を頭に叩き込んでから翌日の電車に乗り込んだ。


オートパイロットで同じ場所に陣取った彼女に声をかけようと体を動かす。

しかし、自動操縦での姿勢制御が強すぎて体が動かない。


【ワーニング! オートパイロットに逆らおうとしています!】


「ぐぬぬ……!! 動けぇぇ……!」


【ワーニング! 体を元の位置に戻してください!】


「俺は……昨日の俺とはちがうんだーー!!」



【デンジャー! オートパイロットの接続が途切れました!】



ついにオートパイロットでの制御を断ち切り、体の主導権を取り戻した。

久しぶりに動かす体に違和感を感じながらも車両端にいる彼女のもとへ。


「あ、あの!」


声をかけても彼女は反応しない。

オートパイロット状態なので声をかけられるようにできてないのだろう。


「すみません!」


思わず手を引いたことで、予定外に対応できず彼女のオートパイロットが解除される。


「いきなりこんなこと言って驚くと思います。

 でも、僕……前からあなたのことを意識していました!」


「え……その……」


「いいんですっ。答えは出さなくても、単に僕のことを知ってほしくて!」


「わたしも……」


「え?」


「実はわたしも、前からオートパイロットしながらあなたのことを見てて。

 できれば友達になりたくて、あなたのいる電車に乗れるようオートパイロットを更新したんです」


「そ、それじゃあ……!」


「よろしくおねがいします……」


「や、やったーー!!!!」


オートパイロット状態ではけして出ないであろうオーバーなリアクションが出た。

すっかり駅を降りそびれてしまったが、そんなことも気にならないほど幸せだった。


オートパイロットが導入されてから1回も起きなかった遅刻をはじめてした。


学校につくと大騒ぎになっていた。

それは自分の告白ではなかった。


「いったいこの騒ぎはなんなんだ?」


「大変なんだよ、今日からオートパイロット使えなくなるんだ!」


「はぁ!? なんでそんなことに!?」


「どっかの誰かが電車で告白したことで、電車で降りる人数の自動操縦が乱されたんだ。

 それにより電車が遅れて、他の人のあらゆる自動操縦が乱れて使えなくなった。

 見ろ! ニュースでも大騒ぎだ!」


友達が見せたスマホには明日から世界大恐慌が起きるという記事があった。


自動操縦で行われていたあらゆる行動が、たったひとつの想定外の行動によりかき乱されて経済は大崩落。

急に手動に切り替わっても、任せきりだったルーチンを突然対応することなどできやしなかった。


「まったく、誰だよ! 勝手にオートパイロットを解除したのは!!」


「だ……ダレダロウネー……」


僕はそっと自分のオートパイロットを「知らんぷり」モードに切り替えた。

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