Scene2:歓楽街の誘惑。

トリッシュ:「さーて、話を聞く限り、下町、歓楽街の方とか行けばいいかなー?」

プリムラ:「こういう時、うらぶれた酒場でぐだぐだしていると、怪しい大人が声を掛けてくれるんじゃないですかね? と、純粋な二歳の僕が言いますよ」

トリッシュ:「そっかそっか。じゃあ新人っぽく、地図を見比べながら歓楽街に行ってみようかー」

プリムラ:おのぼりさん感!


――歓楽街へ、街の入り口『入門街区』まで戻りながら、脇道にそれ南下する。

 周囲を歩く人々の様子も、身なりの整った人々から、粗末な服装の人たちへ変わっていく。トリッシュは見慣れない地図を片手に、敢えてきょろきょろしながら歩いていた。通りがかりの白衣を着た男性が声をかけてくる。


白衣の男:「冒険者さん。こんな所にどんなようかな。迷い込んだのかい?」

――2人は突然声を掛けて来た男に警戒をしていた。

トリッシュ:「えっとー、ここどこー?」

白衣の男:「名も無い下町さ。俺はこの先の施療院で仕事をしている男でな。慈善病院の医者、エックスと言う。あんたたちみたいなおのぼりがいると、きっと良い思いはしない場所だ。今来た道を戻ることをオススメするよ」

プリムラ:「いやーその、探し物をしていましてー。なかなかこー、良い成果を得られなくて……そんな冒険者にオススメのものがあるって聞いてきたんですよね」

トリッシュ:「どこに売ってるのかもわかんないんだよねー」

プリムラ:「そうそう、なんでもたちまち元気になる薬だとか――」

エックス:「シッ――それ以上はいけない。ちょっと、付いてきてくれるかい?」


――プリムラの言葉を遮り、エックスは2人を自分の施療院へと案内した。2人は警戒を続けながらも、エックスへとついていくことにした。到着したのは、裏さびれた木造長屋を改築した建物。無理やり施療院として使っている場所のようだ。だが見た目に反し、その掃き出しは掃除が綺麗に行き届いている。このエックスと言う男の、人となりが見えるようだ。施療院に付くと、鍵の掛かる部屋、音の漏れない部屋へエックスは案内する。密室と言うことで2人は警戒をするも、声を潜めるエックスにその真意を理解するのだった。


エックス:「さて、こんな所まで来てくれてすまないね。君たちの探し物についてだが、それは『ナイトアイ』のことじゃないか?」

トリッシュ:「ないとあい?」

エックス:「ふーむ、聞き覚えもないのか……。そうか、君たちは本当に噂を小耳に挟んだだけのようだね。君たちが求めるそれは、多分『ナイトアイ』と呼ばれる飲み薬だ。君たちのような新人の冒険者に急に流行っていてね。とてもアブナイ薬なんだ」

トリッシュ&プリムラ:「あぶないくすり」

エックス:「うん。飲んだ瞬間はスッキリするらしいんだが、飲んだ後、蛮族の穢れが溜まっていくんだ。……実際にどうなるか、この扉の先を見てくれ。くれぐれも大きな声は出さないようにね」


――と言って、エックスは鍵の掛かる部屋を出て、長屋の廊下奥、入院患者のいる病室へと案内してくれた。

 扉を開くと、八台びっしりと並んだベッドに、茫然自失とした人々が寝転がっている。ぼんやりと虚空を見つめる人、時折何か叫んだりする人。ベッドのシーツを巻いてはほどき、ほどいては巻く人。

2号:ああやばい。これはやばい(笑)。

GM:うむ。やばい!(笑)。

1号:はっはっは(笑)。


――エックスは扉を閉める。

エックス:「見えたかな。あれが薬を飲んだ人たちの顛末さ。君たちもああなりたくないなら、薬なんて求めずに、コツコツと成果を重ねることをオススメするよ」

――と、諭されます。

プリムラ:「確かに。悲嘆に暮れて冒険者ギルドでうなだれて居たら、こういう物があるんだよねーと噂を耳にしたのだけれど、どんな物かって話は全然無かったです。風の噂になってしまっているんだろうなー。噂していた彼らも別に、街角ニュース、異国の妄想程度で話をしていたのだろうな。実態が知れただけ、僕たちはむしろ、運が良かったのかもしれない」

エックス:「そうだね」

プリムラ:「しかし……流行っていると言う噂だけで、気安く手に入るものなのかな? 蛮族の穢れを受けてしまうような、そんな薬がそんな簡単に」

エックス:「そうだね。ここ最近、急に噂が広まったのでね。精製に長けた者が現れ、荒稼ぎしているのかもしれない――と、僕は考えているよ」

プリムラ:「なるほど……」


***


1号:うーん、このエックスさんが信用できる人なら、『実は~』ってぶっちゃけちゃうんですけれど。信じていいかちょっと悩む。だから、言わずにどう情報を引き出せるかなーって考えてるんですよ。

2号:なるほど。具体的にはどんな情報を聞き出したいんです?

1号:実物。もしくは、入院している人たちの身元とか、いた所が聞ければ、どの辺りで手に入るか分かるんじゃないかなーって。

2号:入院患者さん、目の前にいるんですよね。その人たちを観察とか?

1号:話聞くとか? あ、さっきの描写的に難しいか。

GM:声を掛けるのは一つの案だと思いますよ。


***


トリッシュ:「ねえ、彼らに話を聞ける?」

エックス:「いいけど……どうする気だい?」

――当然、エックスはトリッシュ達をいぶかしむ。

トリッシュ:「むしろ注意をするって意味で、どの辺で手にしちゃったのかーってわかってれば、近づかずに済むかなって」

――エックスは眉根に皺を寄せて悩んだ。


***


GM:この会話の流れとエックスさんの人となりを考えると、貴方達が『なんとしてでも薬を手にしようとする、危なげな冒険者』に見えてきますね。

2号:なるほど。

1号:こっちもこっちで、自分の素性を明かして良いのかなーって悩んでいるから。

2号:なら周囲を見て、治療の実態があるのかとか、しっかりした人なのかって納得できる判断材料を見つけるのも良いのかなと。

GM:うんうん。こちらも先にエックスさんが信用に足る人間なのだと理解してもらいたかったので、口を挟む所でした。せっかく提案も頂いたので、エックスさんの人柄を推し量る……そのような形で、『冒険者判定』をしてみましょうか。

 本当にエックスさんは良い人なので、7以上が出れば、十分信頼して良い人だと分かることでしょう。


――TRPGでは、ここまでのようにルールブックに基づいて場面や話の展開を会話して進めていく。ただし、登場人物たちの思惑が重なり合い、全員で合意が得られない際、或いはどのようになるのか断定できない場合、ダイスを利用して出た目の大きさを見比べて結果を考える。ソードワールドは主に1から6までの普通のサイコロを2つ振って足した数字に、キャラクターの素養の数値を足した数字となる。

 なので、7以上の数字と言うのは、とても簡単な数字となる。

1号:トリッシュは18。

2号:プリムラは17です。二人で兎ちゃんのような目で見ていました。

GM:まあ、入り口の様子から伺える通り、エックスさんはかなり善良なお医者さんです。それこそ自分の生活を削りながら、下町の人たちを支えているお医者さん。

1号:そんな名前なのに。

GM:そんな名前だからです。

1号:えー(笑)。でもそういうことなら、ぶっちゃけようかー。

2号:そうですねー。


***


トリッシュ:「エックスさん、ちょっと耳を貸してくれる? 実はね」

――と、トリッシュは依頼のことを打ち明けた。

トリッシュ:「ごめん。迷い込んだのではなくて、ナイトアイの出所を調べに来たんだ。それで、怪しいのはこっちかなって来た訳。だから、彼らに話を聞きたいんだ。ダメかな?」

――エックスは複雑な表情で、何度かトリッシュとプリムラを見返した。大きくため息をつく。

エックス:「なるほど。私が貴方たちを疑ったように、私も貴方達に疑われていたのですね。失礼。新人の冒険者ではありませんでしたか……。確かに、この区域ではそれでちょうどいいですよ。信頼できる腕の冒険者とわかりました。ガーディ君は良い冒険者に依頼しましたね」

トリッシュ:「なんだ貴方もガーディさんを知ってるのかー。それなら話が早いね」

――話の付いた所で、トリッシュとプリムラは病室へと入る。患者の間近に近づくと、上の空の人、ひたすら紙に字を書いている人、ひたすらマナを練っている人など、その異様さが目についた。その中、エックスは静かに眠っている人の元に進み、その肩を叩いた。

エックス:「この方なら、まだ話はできるはずです。マーティンさん。お加減はどうですか?」

――マーティンと呼ばれた患者は、焦点の合わない眼を開きながら、ゆっくりと身体を起こした。プリムラが前に出る。

プリムラ:「僕はプリムラ。マーティンさん。貴方が使った薬について聞きたいのです。どのような経緯で、こちらに来たのですか?」

マーティン:「……うらぶれた新人冒険者だった。闇市で黒いフードの男に声を掛けられたんだ。『一旗あげたいんだろう?』と声を掛けられ、たちまち話を始めるから少し立ち止まったんだ。そこには別の、俺みたいな冒険者たちが居てな。ほら、街角に芸人が立っていたのと同じさ。そこで、あの薬の説明が始まった。『飲めばマナが回復し、夜目も利く。支払いは使ってからの後払いで結構。あと一歩が足りない君たちに、勇気ある一歩を与えてくれるだろう』ってな。そして目の前で飲んで、その効力と安全さを見せられて、試供品と言いながら一瓶渡されたんだ」

プリムラ:「なるほど。なかなか巧妙ですね」

マーティン:「その後のことだ。男の言った通り、迷宮の良い所でパーティが半壊してな。宝も仲間も諦めれば、俺だけでも助かるような所で、胸元に入っていた薬を思い出したんだ。一息に飲み下して、ゴブリンの群れを押し返したよ。お蔭で宝も仲間も諦めずに済んだんだ。それからさ。喜びに通りを歩いていたら、黒いフードの男がやってきたんだ。『使いましたよね。いかがでしたか』ってさ。俺はそんなタイミングだったから、つい次の一本を渡されて、受け取ってしまったんだ。次使えば一本500ガメルだと言われながらな。でも、その時は使わなければ良いだろうと思ったし、この薬で稼げた宝と仲間を考えたら、使ったとしても大丈夫だと思ったんだ。それが失敗さ。どんどん、薬を使うタイミングは早くなった。その内、薬無しではダメになってしまった」

トリッシュ:「常習性があったんだ?」

マーティン:「そうかもな。ダメになっても、この薬を飲めばなんとかなる、って思って……」

 2号:ヤクブツ、ダメ、ゼッタイ!

 GM&1号:ダメ、ゼッタイ!

トリッシュ:「その黒いフードの男に会ったのってどの辺なの?」

マーティン:「冒険道具街区の闇市だったな」

 1号:闇市きた!

マーティン:「闇市自体は、どの区画にもあるんだが、そっちには黒フードが巡回しているって感じだな。黒フードの常駐していそうな場所は冒険道具街区だろう」

トリッシュ:「じゃあちょっと闇市行ってみよっかー。あ、そうだ。ここの誰か、薬残ってて持っている人とかいない?」

 ――何気ないトリッシュの一言で、部屋の空気にぴりっとした緊張感が走った。


***


GM:ないですよ。常習者は薬があれば飲みたいですから。

1号&2号:ですよねー。

GM:はい。

1号:入ってた瓶だけでもいいんだけど。

GM:それも残っていないですね。使い捨ての薬瓶は荷物になるので。使用した証言を拾えば、本当にただの小瓶、って感じです。我々の世界で言えば、栄養ドリンクとか、その中でも小さいタイプの奴。

2号:あ、そうだ。黒いフードが現れるの、時間帯は決まってるんですか? あと……人間ですよね。

GM:現れる時間帯は決まっていないようですね。あとこの街の剣の守りはしっかりしているので、蛮族と言うことも無いと考えられます。

2号:闇市に行けばいつの間にか現れるのか……闇市って簡単に行けるんですか?

GM:そうですね。『闇市』の生き方はマーティンから聞けたということで。その区域の酒場に言って、情報量を払うのが一般的だと教えてもらいます。

1号:へえー。物騒な街。

GM:まあ闇市って、用は市井の便利市場ですからね。危ない薬以外にも、市場に流しにくい、でも有用と言った物が売買される場所です。そういった情報として、市民に密着した酒場が取り仕切っているかな、と。

1号:よしよし、行ってみよっかー。

2号:ふらふら闇市場を歩いてたらトリッシュが美しすぎて攫われてしまう。

1号:なーに言ってんのー!とプリムラをペシンと小突くよ。

2号:やめてください、プリムラの茎が折れてしまいます。

GM:冗談は置いといて、下町の歓楽街酒場を経由して、闇市に向かうと言うことですね。

1号&2号:お願いします!


***


『Scene3:闇市に潜む者。』へ続く。

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