Scene1:挑戦者の旅立ち亭

GM:2人の慣れ染めはわかりましたね。最初からこの街にいることは無さそうなので、合流した街で色々経験を積んだのかなと。数年冒険者として修業した後、何がしかの流れでグランゼールに到着したと言うことで良いですかね。

1号(トリッシュ担当):何がしか(笑)。一か月前くらい、依頼ついでに移動してきたことで良いかな?

GM:トリッシュが言うなら間違いないでしょう。ありがとうございます。あとグランゼールには冒険者ギルドが二つあるんですが。どっちに腰を据えているのか教えて欲しいなと。一つは老舗で安心感抜群の『女神の微笑み亭』。もう一つは新進気鋭の『挑戦者の旅立ち亭』と言う名前なのですが、どちらに腰を据えますか?

2号(プリムラ担当):プリムラはトリッシュに着いていくだけですので(笑)。トリッシュならどっちですか?

GM:ただのイエスマン!

2号:イエスマンです!

1号:えー。トリッシュなら、じゃあ面白そうな方でってことで、新しい方に行こうかな。


***


 トリッシュは地図を読まない。町の入り口を抜けて大通りを進めば、冒険者ギルドに着くだろうと思っている。案内も見ないし、話も聞かない。自分が信じた道を進んで、困った時だけ考えれば良い。それこそが『豪腕のトリッシュ』、トリッシュ・メルヴィルである。後ろをついていくメリアの男はプリムラ。彼女に惚れて、冒険者として付いていくお付きであった。

 豪腕のトリッシュ、彩華のプリムラ。アルフレイム大陸のブルライト地方で最近名の売れてきた冒険者コンビだ。……と言っても、トリッシュが全てを粉砕し、道を作ってきただけなのだが。

 トリッシュはグランゼールへと到着し、三歩でひったくりを張り倒し、十歩で客引きをのして、二十歩でお礼と喝采をスルーし、大通りを真っすぐ歩いていった。

「なんで二つあんの?」

「古いのと新しいのって感じだね~」

通りの左右には、それぞれギルドが看板を掲げていた。右は女神の微笑み亭、左は挑戦者の旅立ち亭と掲げていた。

「うーん、こっち」

トリッシュは二秒悩んだが、名前に惹かれて左に入った。


*****


GM:かしこまりました。『挑戦者の旅立ち亭』ですね。作りが新しく、石造りの中でも装飾に凝った外装をしております。最近の流行にも敏感です。出入りしている冒険者も初心者が多いですね。案内を見る限り、初心者冒険者にも優しいと――メンターさんがいたり。

2号:なるほど!

1号:「ふーん、新しい感じだね。初心者向けだったかー」とトリッシュはぐるぐる見て回るよ。

GM:ひよっこたちをまとめるグループがそちらこちらにありますね。保護が手厚いので、商人の子弟や貴族の子息にも人気がある。

1号:なるほど。儲けもありそうだ。

GM:とは言え、貴方達はひよっこに見えないので、声を掛けてくるのはここのマスター『ヘンリー・カーネル』という元商人です。

1号&2号:ほうほう。力を見る目がある!

GM:彼は、冒険者ギルドが商機の多い場所だと思っているようで、腕のある冒険者の意見は広く聞いています。

1号&2号:なるほどね。


***


――賑わいの絶えない冒険者ギルド『挑戦者の旅立ち亭』に入ると、ヘンリーに掴まったトリッシュとプリムラは立ち話を始める。同時に、この街に歓迎されるのであった。


ヘンリー:「どうだいこの賑わいは! 君たちは新しい仕事を探しに来たばかりかい?」

プリムラ:「本当に、賑わいがすごいですね。ねー、トリッシュ!」

トリッシュ:「そうだねー。こんな町は初めてかも」

ヘンリー:「冒険者が稼ぐにうってつけの迷宮が、街に併設されているのだからね!」

トリッシュ:「うん。街からすぐ行けるのは助かるね」

ヘンリー:「そうだろう? 君たちも早速迷宮に潜っていくのかい?」

トリッシュ:「他にあてもないし、迷宮に潜ってみようか。どう、プリム」

プリムラ:「トリッシュのいうことなら、なんでも聞きますよ! ここで有名になれば、貴方の名も轟くってもんですよ!」

トリッシュ:「……ん? 何が?」

プリムラ:「またまた~謙遜しちゃって~」

トリッシュ:「え~。何か噂されちゃってるの? ネガティブなこと言われてたらやだな~」

ヘンリー:「いいねいいね。活きのいい冒険者は大歓迎だよ。うちの方で厚く歓迎するから。たくさんの仕事をこなして、稼いでくれよ!」


――『豪腕のトリッシュ』と言う名前は、あくまで最初の街でもてはやされた程度の名前。そもそもヘンリーは個々人の冒険者を覚える性格をしていない。あくまで『お金になる』冒険者の、その向上心を買っていると言う感覚の持ち主だった。

 あくまで、力のありそうな冒険者を自分のギルドに引き留める為に声を掛けている。宿を取らせて、そのまま自分のギルドで依頼をこなしてもらおうと思っているのだ。と、宿を取ることを促された所で二人は一瞬躊躇する。


トリッシュ&プリムラ:「あ……どうしましょうか」

ヘンリー:「二人で一部屋だと安いよ」

トリッシュ&プリムラ:「じゃあ同室ですね」(即答)。


――息ぴったり。メリアは植物でもあるので、寝なくて良い種族でもあった。しっかりと節約をしながら、手慣れた感じで冒険者の宿に腰を据える。

 翌日より仕事を探す二人だが、迷宮を見つけたらかたっぱしから入っていくトリッシュ。振り回されるプリムラ。攻略の終わった迷宮や、レベル差のありすぎる迷宮。ひたすら迷うだけ迷わせて宝の無い迷宮。また迷宮と間違えて人の家に侵入してしまったり。そんなことをしている間に、あっという間に一ヶ月が過ぎてしまったという塩梅だった。


トリッシュ:「お宝どこー?」

プリムラ:「明日は初心者案内ツアーにでも連れて行ってもらいましょうか」

GM:2人がそんな湿気た感じで朝ごはんを取っていると、一人の男性が声を掛けてきます。顔を挙げると、闇市で一悶着あった際に出て来た衛士がいました。名前をガーディと言います。

ガーディ(GM):「仕事を受けてはくれないか?」

トリッシュ:「内容次第かなー?」

プリムラ:「トリッシュが受けるなら考えましょう」

ガーディ:「ありがとう」

――ガーディは自分が新人であることを言いながら、今の衛士隊について説明をしてくれます。

ガーディ:「この街の衛士隊はあまり熱心に治安を見ている訳では無くてな。放置されている問題も山積しているんだ」

――トリッシュとプリムラは顔を見合わせる。

ガーディ:「その問題の一つとして、貧民街や切羽詰まった冒険者の間に薬物が流行っていてな。この出所を調査してもらいたいんだ」

プリムラ:「おやおや」

ガーディ:「報酬も悪くないようにする。前金として、一人100ガメル。無事に出所を割り出してくれれば、一人1500ガメルを出そう。もしも摘発して、元締めまで上げてくれれば、追加で一人1000ガメルも出すぞ」

プリムラ:「さすがに2人なのでそこまでは難しいですが。割り出す所ならできるかと」

トリッシュ:「まーやるだけやってみようかー。報酬も美味しいしね。他に情報ないの? ほら、薬の効能とか、どんなものかわからないよ?」

ガーディ:「もちろんさ。引き受けてくれるってんならな」

――そう言うと、ガーディは同じテーブルについて口を開いた。

ガーディ:「薬の名はナイトアイ。水薬で、飲んで効果のあるポーションタイプだ。小瓶に詰めて売られているらしい。効果としては、軽く眠ったのと同じくらい身体が軽くなり、マナが充足されると言う噂だ。しかも飲んだ後は目がスッキリして暗い所もスッキリ物が見えるようになるとのこと。そして問題なのは……飲むごとに穢れが溜まっていくと言う話だ」

――穢れ。それは人族と蛮族を分ける大きな違いだった。魔に侵され、剣の加護から弾かれる呪われし存在。そんな物を人族が身体に溜めると、最悪死に至るだろう。それはこの世界において何よりもの常識であった。

プリムラ:「そんな物、早急に取り締まらないなんて。おかしくないですか?」

ガーディ:「まったくその通りだ。だが、衛士隊の先輩方は、『そんな薬の一つや二つ、三つや十。この街ではいくらでもあるんだよ』と煙に巻いて、相手にすらしていない。そんなことがあるか?」

トリッシュ&プリムラ:「無い」

ガーディ:「だろ? なので、こうしてまともな新人の俺たちが、まともそうな冒険者に協力を願っているって訳なんだ」

プリムラ:「義憤に駆られて……。でも、私たちが悪用しないとも限らないのでは?」

――とガーディの真意を試してみるプリムラに対して、トリッシュはそれより早く素の声が漏れた。

トリッシュ:「そんな気味悪いの使いたくないよ」

プリムラ:「ふふ。そうですね。そもそも何で出来てるかわからないですよね、そんなもの」

トリッシュ:「きっとオエーってなる奴が入ってるよ」

プリムラ:「蛮族の内臓とか入ってるかもしれませんね」

――と言った瞬間、2人でオエーっと吐く真似をする。そんな二人の様子を見て、ガーディはこの二人に頼んで良かったなと思っていた。

プリムラ:「どこで手に入るんですかね?」

ガーディ:「そうだな。闇市場で取引されているとは聞いているが……それが分かっていたら、君たちに頼んではいないよ」

トリッシュ:「そりゃそうだ」

――と言うと、トリッシュはガーディの置いた革袋を握り席を立ちあがる。

トリッシュ:「ご馳走様。さて、ちゃっちゃと情報収集に行ってこよっか」

ガーディ:「それはつまり――!」

プリムラ:「こうなったトリッシュはすぐに事件を解決しちゃいますよ。大船に乗ったつもりで待っててください!」

ガーディ:「恩に着る!」

トリッシュ:「オッケー! そこの朝食代もよろしく~♪」

ガーディ:「……あ、ああ」


――こうして、豪腕・彩華はグランゼールの闇へ切り込んでいくのであった。



***


『Scene2:歓楽街の誘惑』へ続く。



 

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