高橋源一郎「日本文学盛衰史」以来の意表を突かれた

 一言でまとめると、よいものを読めて、気分が晴れやかになった。

 作者の安良巻祐介さんは、カクヨムで370作品を公開しており、私はそれをすべて読んできたが、その中でいちばんできがよかった。すばらしかった。
 以下、良かった点について、ストーリーと文章に分けて感想を述べたい。


・ストーリー
 安良巻さんは、その初期から、独特の作品世界を読み手に提示している。
 独特の作品世界は読み手を選ぶ。過去の作品の中には、私から見て、読み手を置いてきぼりにしていると思える短編もあった。
 しかし、これは難しい問題で、読み手に配慮しすぎれば、オリジナリティが消えてしまい、元も子もなくなる。その点において、この作品は、独特の作品世界を維持しながらも、作品世界の間口が広い。読み物としてバランスがよい。

・文章
 とにかく、意表をつかれた。高橋源一郎「日本文学盛衰史」冒頭の鴎外と漱石の会話を読んだ時ぐらい驚いた。
 合わせて、よく吟味された単語が、要所要所でよいアクセントになっている。
 これから読む人のことを考えて、細かい話はしないが、カクヨムにおいて、私が今まで読んできた文章のなかで、いちばん完成度が高かった。
 であるから、逆に気になる箇所がひとつだけあった。文法的にまちがいではないが、「私なら別の書き方をするのにな」と、数回読み直した箇所が。
 しかし、ここで大事なのは、そこまで読み手に考えさせることこそ、その文章が良文である証拠ということだ。大半の文章には、そのような手間はかけられない。