おまけ

 *頼斗目線のおまけです。こちらも楽しんでいただければ嬉しいです。



 

 学校で会う彼女も可愛いが、私服姿はダントツで可愛い。俺のために迷いながら選んでくれたと思うと、愛おしさが膨れ上がる。付き合って半年が過ぎても、学外で会った瞬間のときめきは褪せない。しゃがみ込んで可愛さに悶えてしまいそうになる。


 骨が溶けるほどメロメロなのに、彼女は自分の良さに気付いていない。いじらしさも魅力的だが、無邪気な様子はときに罪深いものとなる。


「頼斗、具合悪いの? 胃薬飲む?」と本気で心配された暁には、彼女の可愛さに殺られましたとダイイングメッセージを残すだろう。


 デートの三十分前に来て、彼女の服装を予測することがルーティーンになっていた。


 今日も駅の柱に寄りかかり、スマホを眺める。待ち受け画面は実物の可憐さに及ばないものの、悶える耐性を付けるには十分すぎる刺客だ。


 駄目だ。写真だけでも胸が苦しい。

 頼斗は大きく息を吐き、腕時計の文字盤を見る。そろそろ華恋が来るころだ。


 改札に向けていた視線は次第におぼつかなくなる。サイドテールを揺らして華恋が近付いてきた。


「頼斗。おはよう」


 立ち姿は黄薔薇よりレンギョウの花を想起させる。可愛いの集合体だ。


 頼斗を何より翻弄したものは、ワンピースの下に着たキャミワンピだった。生地が濃いものの、光の加減で見えてしまう気がした。


 頑張ったらブラの色が分かるのでは。


 頼斗は心の声を飲み込み、爽やかに取り繕った。


「今日の服、涼しそうだね」


 華恋は悲しそうな顔をした。褒められたいところが違うと言いたげに。


 ごめんよ。保身のためにかっこつけて。でも、華恋に引かれたらデート中に立ち直れない。さすがに変態呼ばわりされて喜ぶ性癖は持ち合わせていない。


 埋め合わせになるとは思わないけど、キスで悲しさを紛らわせてあげる。




 前言撤回。

 やっぱり変態と罵られた方が良かったかもしれない。


 欲望を抑えきれず、何度もキスを交わした。


 少し離れて歩く華恋は、唇を抑えながら耳まで赤くしている。


 頼斗も予定の上映時間をずらすことになるとは思わなかった。映画館に向かう道すがら、ひたすら謝り続ける。

 昼食とパンフレット代を出すことで、ようやく隣に寄ってきた。


 そういえば、後ろのデザインはどうなっているのだろう。


「華恋、くるっと回ってみて」

「くるん」


 くるみボタン一つで留めた華奢なデザインだった。布地とボタンの間に素肌が露出している。朝の時間帯とは言え、不特定多数に見せたことに憤りを覚えた。


「ご飯前に、近くの服屋さんに寄っていい?」

「どうして?」

「カーディガン羽織らせないと悪い虫が付いちゃうからだよ!」


 彼女の可愛さは俺だけが知っていればいい。そんな思いを込めて語気を強くした。


 華恋は小さく吹き出す。


「大丈夫だよ。頼斗くんが守ってくれるから」


 グロスを塗った唇が艶やかにきらめく。


「そりゃあ守るけども」


 悪い虫の中に自分が加わりそうで心配だ。


 キスの日だから魅力的に映るのか、華恋だから何度もキスしたくなるのか分からない。


 煩悩を振り払うように、唇から目を逸らす。


 頼斗は華恋の左手を取ると、手の甲にキスをした。

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キスの日 羽間慧 @hazamakei

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