10日目、ボッチ気質にも自称コミュ障にも向かない仕事

 むか~しむかし。

 じゃなくて。

 ごく最近。

 令和。


 一匹のコジカとメスブタが農業をやっていました。


 専業農家。

 経営作物はトマト。

 いわゆる家族経営の零細農家。


 日本の片田舎。

 いやさ田舎ど真ん中。

 世界の中心の田舎。

 そんな田舎of田舎で農業を営む日々。


 ふと。

 コジカは思い付いてしまいました。


『農業のアレやコレやを文章にしたら、けっこうスラスラ書けるんじゃね?』


 自らの浅薄な思い付きに胸躍らせたコジカは、勢い込んでパソコン画面に向かいました。


『おお。イケルイケル。ネタ、けっこうあるじゃんww』


 しかし、そう思ったのも最初の3回だけ。

 あっという間にネタに詰まったコジカは、そうそうに逃げを打つことにしました。


『あ、ダメだ、コレ。ダメなやつだコレ。中途半端にやってたら、またエタっちゃう。エタの実績増やしちゃう。よし。10回で終わりにしよ』


 あっさりと幕引きを決めたコジカは、そうして今日までを適当に流して……いえいえいえ、必死に脳ミソースをフルに使ってやってきたのでした。


 ♪チャ~ラ~ララ~ラ~ラ~ララ~


 ふふ。


『ホタルの光』を聴くなんて、卒業式以だな……。

 なんだかファンダメンタルズな気分に。

 いや違うわ。

 財務状況な気分ってなんぞ。

 センチメンタルな気分ぞ。

 思わずジャーニーに出ちゃうような気分ぞ。

 旅立っちゃうゾッ♪

 そんでもって逮捕しちゃうゾッ♪

 ってか。


 うわははは。


 今日もビールが旨ぇなぁ~ってか、おい!

 ぐびぐび、ギュビギュビギュビ、ぷぅわぁ~っ!

 ってなもんですよ、コノヤロー! 


 おい、メブ!

 お前もコッチ来て飲めよ!


「……」


 んだぁ?

 コラ!

 ジト目ってか?

 ジト目でゴミを見てますってか?


 ケッ!


 んなもんなぁ、もうこっちゃぁ怖くもなんともないんだよ!


「……(スチャッ。フイッ)」


 おうおうおう!

 バカの一つ覚えでリコーダーですかい?

 振るがいいですよ。

 嬲るがいいですよ。

 コジカのキャノンボールを!

 ほら!


 くぱぁっ。


 おっぴろげてやろうじゃないの。

 見事、真ん中にヒットしたら100点だ!

 特賞はモルディブ2泊3日の旅だ。

 ただし、センチメンタルな気分でだ!


 ほら、来い!

 打ってこいよゴルァアアアアアッ!


「……(ポイッ)」


 んだぁ?

 やめんのか?

 やんねぇのかよ?


「……」


 ってか、さっきからなんで一言も喋んねぇんだよ?

 メブちゃんよぉ。

 もうイヤってか?

 こんなコジカとは口をきくのもおイヤなんですかい?


「……」


 あ?

 これ、イジメ?

 イジメか?

 イジメなのか?

 イジメ、ダメ、ゼッタイ!

 もうっ、めぇ!


「……」


 めー!


「……」


 めー!

 めー!

 めぇええええええーっ!


「…………」


 メ、メブちゃん。


「……」


 ごめん。

 た、頼むから口きいてくんないかな?


「……」


 いや、マジで。

 ねぇ知ってる?

 これ、令和農民。

 今日で最終回なんだよ?


「……」


 終わっちゃうのよ、これ。

 サヨナラ、なの。

 もう次ってないの。

 なのに、その最後で一言も発しないで終わるつもり?


「……」


 いや、メブちゃぁんっ!!

 マジで!

 喋ってって!

 不安になるじゃん!!

 コジカ、びっくりするくらい不安になるじゃん!

 え?

 ええ?

 なんかした?

 コジカなんか悪いことした?

 いや、まぁ心当たりがあるっちゃありすぎなんだけど。

 でもそれが平常運転っていうか。

 コジカクオリティって言うか。


「……」


 いや泣くよ?

 いい加減に泣くよ、コジカ。

 ってか、もう泣いてるからね。

 ホラ見て!

 目の端んところ!

 ちょちょぎれてるから!

 しょっぱいしょっぱい、心の汗が頬を濡らしてるから。

 ダバーッと。

 ダバダバーッっとさ!

 ひっく。

 ぴえん。

 ぴえんぴえん。

 うぎぃっ。

 ぐす。

 うば。

 うばば。

 うばぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああゆうていみやおうほりいゆうじとりやまあきらとらごくえすとだよぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん。


「……うっさい」


 ピタッ。

 喋った……。

 メブちゃんが喋った!

 やたぁあああっ!

 メブちゃんが、メブちゃんが喋ったぁああああっ!!

 ペーター、ホラ見て!

 ペーター?

 ペータァアアー!


「ぺーター探すな。クララが立った、みたいに言うんじゃないよ」


 メブちゃん!

 メブちゃぁん!

 ガバッ!


「だっ! も! しがみつくんじゃないよ。鬱陶しい!」


 メブちゃん!

 メブちゃん!

 グリグリグリグリ。

 クチュクチュクチュ。


「顔をグリグリしてくるな。鼻水なすりつけんな! あああああああああーっ! もう、放せっての!!」


 おふっ。

 ゴロゴロゴロゴロゴローッ。

 からの~。

 ゴロゴロゴロゴロゴローッと戻ってきて~。

 土下座!


 メブちゃん!


「んだっ?」


 いままで……。

 どうもありがとうございました。

 ペコリ。


「あ?」


 メブちゃんが居てくれたから。

 今日までやってこれたよ。

 本当にありがとう。


「……すっげぇ、とってつけた感」


 でも本心さ。


「だろうねぇ」


 辛い時も。

 悲しい時も。

 メブちゃんが居てくれたから、コジカは大丈夫だった。


「大丈夫だったかどうかは、責任もてないけど」


 1人はムリ。

 1人はイヤ。

 1人は死んじゃう。

 アタシを見て。

 アタシを殺さないで。

 ママァッ!


「誰がママだ。アスカ(旧劇版)をぶっこんで来るんじゃないよ」


 農業って、1人じゃ出来ない。


「あぁ、もぅ。また唐突に。流れ、とか考えないの? 考えるわけないわな」


 農業って、1人じゃ出来ない。


「大事なことだから、2度言いましたってか」


 これで最後だから。

 一番大切なことを言っておくの。


「はいはい」


 農業って、1人じゃできない。


「3度目」


 残念だけど。

 ボッチ気質。

 自称コミュ障気質には農業マジで向いてません。


「土いじり、1人でやれそうなイメージだけど?」


 それが農業の全てだとタカをくくっちゃうからダメなのよ。

 農業をイメージすら出来てない。


「おおおww コジカが偉そうに」


 別にえらかぁないよ。

 ってか、コジカも似たようなこと考えて苦労したから、知ってるってだけ。


「一時期、『もう人と関わりたくない』とか言ってたもんねww」


 そうね。

 でもそれはムリ。

 少なくとも農業やってく上では絶対ムリ。

 超、関わる。

 超絶、他人とのコミュニケーション能力が必要。

 なきゃ、速攻でダメになるどころか、そもそも農業やるスタートラインにも立てやしない。


「ここまでで語ってないけど、就農するまでにも準備から数えたら4年。それなりに深く関わった人の数は、両手じゃ足りないもんね」


 そのなかでも。

 一番大切なのは『パートナー』。

 始めるためにも。

 続けていくためにも。

 パートナー必須。

 それは必ずしも『夫婦』って意味じゃない。

 同性でも、仲間ってことでもいい。

 苦楽を共に。

 時間を共に。

 喜びも共に。

 そしてここがキモだけど。


『経営』を共にするパートナーが、絶対に必要。


「ふーん。『経営』ね」


 農業は事業だから。

 利益を上げて。

 続けていけて。

 暮らしていけてナンボだから。

 っていうか。

 世に数多ある他の仕事と全く一緒。


「オーガニックな生活~、とか、田舎でのんびり~、ってのは、あくまでオマケってね」


 そ。

 もしくは、それがメインになるのは『農的生活』ね。

 農作業を暮らしに取り入れたライフスタイルってこと。


「まぁ、そこんとことろは、似て非なる……いや、絶対的に隔たった溝があるよね」


 農的生活なら、ボッチでもコミュ障でも、お金があれば可能です。でも残念ながら農業経営は難しい。ってか、ぶっちゃけムリ。


 もし……


 ・いまの仕事がイヤで。

 ・人と関わって生きるのが嫌いで。

 ・都会より田舎でのんびりしたくて。

 ・農業なら案外チョロそうだから。


 って理由で農業やろうと思う方。

 おられましたら、どうぞ酷い目にあってください。


「おうおうおう。最後だからって、ずいぶんと断定的に言うじゃない」


 ここままで、いっぱいいっぱいに適当な嘘を連ねてきたけど。

 これだけは、マジでマジマジの実感だからね。


「そうだろうけど。でも、相変わらず、言い方は考え直した方がいいな」


 さてさてさて。

 さてさて、さてさてさて。

 いいお時間となりました。

 令和農民妄想垂れ流し日記。

 ここいらでお開きにしたいと思います。


「急。ってか、ホント勝手ww」


 じゃ、メブちゃん最後に一言どうぞ。


「あ? えーとね……」


 はいっ!

 終わりぃいいいっ!

 そこまでぇええっ!


「まだ何も言ってねぇ!」


 遅いよ。

 遅いよ~。

 そんなんじゃ、このIT時代の令和を生きていけないよ~?


「はい! じゃ、コジカから一言!」


 次回は、コジカとメブの【異世界編】でお会いしましょう!


「ハァアアアアアアアアアアアアアア~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!?」


 逝こうヨ!

 2人で異世界へ!


「え? ヤダヤダヤダヤダッ! 絶っっ対に逝かない!」


 2人で異世界転移してさ。

 んでもって、そこで農業やろう!


「ムリだよ、ムリムリ!」


 大丈夫大丈夫。

 異世界持ち込みをタブー視されてる『トマト』を持ち込んでさ、やりたい放題にチーレム無双してやろうぜ!


「そんな炎上しそうなこと、絶っっっ対にヤダッww」


 それじゃ皆様。

 最後まで読んでくれて本当にありがとう。


 ではまた、異世界のどこかで!


「絶っっっ対に逝かないからなぁああああああーっ!!」



 ……おしまい?……

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「令和農民のコジカは田舎で古民家DIYなどして心穏やかに暮らしたい(欲を言えばほんのちょっとの大金とお酒をいくら飲んでも大丈夫な身体を手に入れてSNSでそれなりにバズってもみたい)」 第八のコジカ @daihachi-no-kojika

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