9日目、幸せはキミのナカに 後編
【前回のあらすじ】
『幸せ』ってなんだっけ?
コジカが不意に呟いた、いたって素朴な、しかし全人生を賭しても、果たしてその真の『答え』にたどり着けるか分からない問いかけ。
いや、いまだかつて『それ』にたどり着いた者は、1人も居ないのかも知れない……。
それほどまでに、この問いは人類にとって最大の難問なのであった。
……しかし哀れなコジカは、相棒のメブに
「答えないと、リコーダーでキャンタマ袋を16連射する。あの頃の高〇名人みたく」
という、スターソルジャーもビックリなタマ質宣言を突き付けられ、全裸土下座で打ち震えながら、頭蓋の内で、必死にその梅干し大の脳ミソを高速回転させ、答えを導きだそうとしているのであった……!
「高橋〇人の16連射って、グラディウスじゃなかった?」
スターソルジャーよ。
スターソルジャー!
ハド〇ン!
グラディウスはコ〇ミでしょうが!
「あぁ、そうか」
ちなみにR-TYPEは、いまは亡きアイレムね。
アイレムと言えば、シューティングじゃないけど、コジカ的にはPS2ソフトの『絶体絶命都市』『バンピートロット』『パチンコ風雲録』が超絶傑作だから!
超オススメだから!
「……じゃなくてさ」
え?
でも、この3作は、アイレム3部作って言われるくらいで……
「ゲームのハナシはもういいから。そうじゃなくて、本題」
本題。
本題?
はて……?
「『幸せ』について」
あぁ!
はいはい、幸せ。
幸せね。
「ってかさ、あらすじの時点で説明を間違ってんだよね」
え?
どこが?
メブちゃん、コジカの股間の男性ボーカルユニット、chemistryならぬコブクロをメッタ打ったじゃん!
「そこじゃなくて、質問の内容だよ」
内容?
だから『幸せ』についてでしょ?
「私が聴いたのは、なんでコジカなんかが『幸せ』について考えてんの? ってこと」
あ?
えーと?
「『幸せ』について考える、ってさ。なんかヤバくない? ましてやコジカみたいなのがさ」
え?
えええ?
「まぁ、ヒマな奴ほど余計なことを考えがち、ってのは、あるとは思うんだけどさ。それをコジカが、ってのが、そもそも間違いな気がして」
ド、ドユコト?
「分んないの?」
す、すいません。
「アンタ、ヒマしてて良い身分じゃないでしょ」
うぃ?
「もっと常時汗水たらして、馬車馬の如く働かなきゃいけないでしょうに」
い、いや、コジカは馬じゃないから馬車は引けないっていうか。
「言うと思った。イチイチわざとらしく、比喩の字面をあげつらうんじゃないよ。語彙は理解してんでしょうが」
は、はい。
「貧乏ヒマなし。24時間365日死んでもゾンビになって働く。それが、アンタみたいな令和農民のスタンダードでしょうが」
ちょ、超絶ブラックですやん。
ブラックダイアモンドですやん。
黒光ってますやん。
「いまや、アイドルにだってゾンビがいる時代だよ?」
いや、ゾンビランド・サガは大好きですけども。
「それをなに? 性根は腐っていれども、まだ五体はギリギリ腐ってない身分で」
いや、コジカ、そこまで賞味期限間際じゃ……
「24時間中、何時間働いてんのよ? ほぼ、のんべんだらりと過ごしてるだけでじゃない。そんなんだから『幸せ』ってなんだっけ? とか、余計な事考えるんだよ。腐った思考で余計なこと口にする前に、その身体を腐らせるまで必死に働いて。で、腐ったら腐ったでトットと土に還って、畑を肥沃にして。その畑でより美味しいトマトを育てて、しっかりと売上を立てていく。それぐらいのこと、したらどうよ?」
おぅお。
おぅおぅお。
おぅおぅおっおっおっ……。
「『幸せ』ってなんだっけ? ハッ! コジカはまだ、そんなこと考えられるステージにはいない」
……………絶句。
「アンタがやってんのは『農業』だ。わかるか?」
は、はい。
「しかも、だ。その前には『零細』の2文字がつく。デッカイ、デッカイ2文字だ。なんなら、零細が9で農業が1、くらいの比率だ。違うか?」
いいい、いえ。
違いません。
「毎日毎日、朝から晩までアヒンアヒン言うくらい働いて、ようやくなんとか……って感じだろ」
……アヒンアヒン。
「それを『幸せ』がなんだと、オーガニックなライフスタイルで田舎暮らしをエンジョイしてま~す♪ みたいなこと言いやがって。農業ナメてんのか?」
い、いえ、農業ナメてるわけでは。
「じゃー言ってみろ」
え?
「言ってみろ、つぅんだよ」
な、なにを?
「決まってんだろ! 農業を志した『初心』を、だよ!」
えええええっ!?
「えええええっ!? じゃねぇよ! ホラ、さっさと! そんで詫びろ! 農業を志した頃の初心な自分自身に対して」
いや。
だって、そんなの恥ずかしいし。
「どの面さげて『恥ずかしい』とかぬかすか。その面さげてこの世に出てきた時点で、とっくに恥ずかしいやろがい!」
(ム、ムチャクチャ言われてる)
「オルァッ! お前の大好きなリコーダーが火を噴くぞ!」
ちょ、だっ、わかった!
分かりましたから!
初心。
初心ね。
ええーと……。
「(ブンブンブン、スフィスフィスフィ)」
いや、だから、あの。
コ、コジカもオーガニックなライフスタイルに憧れて~とかじゃなくて。
コ、コジカは『作り手』でいたいから農業を選んだんだよ!
「作り手~?」
そ、そう。
「続けて」
はい。
えーと、コジカはかつて演劇をやってたんだけど。
自分で劇団立ち上げてやる、いわゆる小劇場系ね。
そこで作・演出もやってたりして。
でも、全然プロにはなれなくて。
言うてる間に中年に片足ツッコんで。
生活もカツカツで。
『やっべぇ。このままじゃ、コジカの未来はホームレスコースへ一直線だ』
そう危機感に焼かれましてね。
「ふーん(うわぁ。半端な夢追い人の、お手本のような感じ)」
で、ここらで見切りをつける時がきたな、と。
でも、演劇と並行してやってきた『販売業』とか『営業』とかの仕事は、コジカ自身の性質的に、一生の仕事とするには向いていないな、と。
芝居をやめるとき、それでも残りの人生をやっていくうえで、『作る』ことを続けたかったの。
どうせやるのなら、例え『作品』ではなくても、なにかを『作る』仕事がしたいな、と、そう思った。
それで色々と考えた末に……。
「野菜を作る、農業を選んだ、と」
その通り。
作ったものが売れるし、売れなくても自分で食べられるし、中年でも、まだまだ参入の余地がある業界ということもあって。
「打算?」
生きていけるか、やっていけるか?
その可能性の有無を見て取った、ってこと!
演劇やってて、一番甘かったのは、そこんところの見通しを全くと言っていいほど立ててなかったことだから。
だから、いまは『作る』ことだけに拘泥するじゃなし、いかに『売るか』も考えながらやってる……つもり。
「まぁ、実際コジカのトマトは、全部JA通さずに自分で売ってるしね」
コロナの影響とか、色々あったけど、とりあえず今のところは、なんとかやっていけてる。
道筋も見えてきたと、思う。
「ほーぅ」
だからまぁ、平和ボケてたのかもね。
「ん?」
演劇やってたギリギリの日々とか。
農業始めたてのバタバタだった1年目とか。
そういう波風立ちまくりの日々と違って、最近の毎日が穏やかだったから。
だから『幸せって~』とか、考えちゃったのかも知れない。
「かも知れない、じゃなくて、実際そうなんでしょ」
う、うん。
「はー。まったく腑抜けた感じというか、なんというか」
メ、メブちゃん、ちょっと今回、キツ過ぎない?
「べつにぃ。私はいつも通りよ」
そ、そうかな?
「いつも通り、コジカを追い詰める役回りを務めてるだけだから」
メブちゃんてば、そんな役回りだったっけ?
「……幸せってさ。それが『何か』って考えてる時には、たぶん、その答えは分からないものなんだよ」
え?
はい?
「『幸せ』とは何か? そんなことを考える暇もないくらい、何かに打ち込んでる、夢中になってる、必死に生きている、多分、そういう時間のことをこそ、『幸せ』って呼ぶんだよ。きっと」
メ、メブちゃん……。
「ふふ。ちょっとだけ良いこと言っちゃったかな? わたし」
はい。
あ。
いや……。
「ん?」
……底のあっっっさい決まり文句でドヤ顔されても、ツッコミに困るだけって言うか……ぶっちゃけ死んで欲しい。
「…………(スチャッ)」
く!
いつまでもやられてばかりだと思うなよ!
こちらも……スチャッ!
「ほほう。アルトリコーダーか」
ふふふ。
さぁ、リコーダー剣術の神髄を見せてやる!
「面白い! 返り討ちにしたやるわっ!」
いくぞっ!
うりゃぁああああああああああああああああっ!
「来いっ! どりゃぁああああああああああっ!」
ブブンッ!
スフィイーンッ!
こうしてコジカとメブの闘いは始まった!
コジカたちの闘いはこれからだ!
コジカ先生の次回作にご期待ください!!
※ってか、次の10日目で終わります。
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