魔王軍四天王会議(オンライン) 後編
「勇者だぁ?」
ダイソンが首を傾げる。
勇者と名乗る女性は、強い意志を持って魔王軍と画面越しに対峙する。
「千年前の繰り返しなんかさせない! あなたたちは私が止めてみせる!」
「ゆうちゃん……?」
「そう、私はゆうちゃんの末裔! ……え、ほむらちゃん?」
「だよね、え、ゆうちゃん…………超おひさじゃーん!」
フレイア──ではなく、ほむらは勇者の末裔と馴れ馴れしかった。
「えぇー! 久しぶりー! え、半年ぶりとか、顔見て話すのは」
「そうだよねー、ずっとオンラインだし。なんだかんだで課題大変だもんねー」
「だよねー。え、てかあの美顔器使ってくれてるのー? 嬉しいー!」
「なんだよ、お前ら知り合いなのか」
「そ。友達のゆうちゃん。大学ではいつも一緒なんだー」
「「ねー」」
「
勇者、改め光野は画面内でお辞儀をするので、インベルとダイソンは「「ども……」」と、反射的に軽く会釈する。
「ちょ、やめてよーもうー」
「えへへ……、えっと、ほむらちゃん。あの、どういったご関係で……?」
「あー、バイト仲間」
「バイトだぁ⁉︎」
ドンドン
「そうですー」
「あ、そうなんだ。オンライン飲み会するくらい仲良いんだねー」
「え、そういやゆうちゃん。なんか勇者? とか言ってたけどどゆこと?」
「あー私間違えちゃったみたい。なんか魔王軍四天王会議かなって思ったけど、ほむらちゃんいるから違うみたいだね。あはは、こっちの話だから気にしないで!」
「いや、合っているぞ。光野優。いや、勇者の末裔よ。我等は魔王軍四天王だ」
インベルの冷徹な瞳が光野を見つめる。
しかし、画面越しのためなのか、勇者の加護のためなのか、光野には効いていなさそうだ。
「え……⁉︎ じゃあ、やはりあなたたちが……⁉︎」
「そんな……じゃあ勇者ってゆうちゃんなの⁉︎」
「末裔、だけどね。でも、私たちは代々言い伝えを受け継いできた。私に何か特別に強い力があるわけではないけども、それでも私はあなたたちの侵略を止めなきゃいけないの。この世界を守る……!」
「へぇーなら話は早い。オレらもお前をぶっ殺せばほぼ侵略したも同然ってわけだ」
「そうだな。我等の正体も知られてしまったが、勇者の末裔の顔も知れたとは好都合だ」
ダイソンが起こす風で部屋の壁に掛かるポスターやカレンダーは
あくまで自室が壊れない程度に威圧する。
「ちょっと待ってよ! 私は反対! ゆうちゃんは私の大切な友達なの。例え勇者でも殺したくはない!」
「ほむらちゃん……」
「じゃあ、てめぇは今日から裏切り者だ。嬉しいぜ、てめぇを斬り刻む理由が作れたことによぉ!」
「それでもいい。私は人間ともっと仲良くするべきだと思うのよ。だって人間は、こんなリモート会議を作れる技術もあるし、たくさんのファンがいる文化もある。それに人間には何より優しさがある。だから──」
「ダメだ」
「どうしてよインベル! 頭カチカチに固いわけ⁉︎」
「我等の目的を忘れたのかフレイア。千年経とうと人間界を侵略することに変更はない」
「けど……」
「人間に同情するな」
「そうだぁ! 千年前を忘れたのかフレイア‼︎」
ドンドン
「……すみません、忘れてました……」
ダイソンの感情に合わせて、嵐の勢いがそよ風並みに収まる。
「我等の目的は何があっても変わらない」
「くっ……!」
「ほむらちゃん……」
フレイアは悔しそうに拳を握りしめる。
彼女はこの人間界に完全に馴染んでしまった。目の前にいる親友も、好意を向けている先輩のことも失いたくない。
そこでフレイアはあることを思い出す。
「そ、それが……」
「なんだ」
「そ、それが、ゆうちゃんが今話題の若手声優だとしてもか‼︎」
「……なんだと」
「インベル?」
「去年夏、デビュー作に『俺が異世界に行ったら俺TUEEE過ぎて迷惑かけちゃいますけど大丈夫ですか?』の主人公の妹に抜擢され、」
「え、それ観たアニメ」
「インベル?」
「その後、CDや写真集を発売。デビュー一年目にしては異例の売り上げを果たし、」
「あれ、どこかで見たことある顔……」
「インベル」
「今年の初めには、花達美音莉と姉妹役で共演した声優の“
「え……ああああああああ‼︎‼︎ ほんとだピカリンじゃぁぁん‼︎」
「インベルゥゥ!」
ドンドン
ダイソンは再び黙り込んだ。
「なんだか恥ずかしいなぁ……」
フレイアに紹介され、インベルはデレデレし始めて、光野は気恥ずかしくなる。
「え、あ、勇者がピカリン……? ほんとだ、ピカリンだ、あ、ちょ、声優さんって、え? わ、我ちょっとピカリンのこと気になってたとこでして」
「あ、嬉しいです。ありがとうございます」
「はうっ、かわい。あ、急激にファンになりそ、推しになりそっ。え、てことはみのりんとお友達とかなんですか?」
「はい、そうですね。美音莉ちゃんとは昨日もオンライン飲み会をしまして。お友達というより優しいお姉ちゃんって感じですね」
「ええっ⁉︎ ……なるほどなるほど。ふぅ……我等魔王軍も変わらないといけない時が来たようですね」
「インベル?」
「人間界侵略は諦めましょう」
「おい、インベル」
「「やったー!」」
光野とフレイアは画面に触る感じでハイタッチを擬似的にする。
「おい待てよコラ! なぁに、勝手に決めてんだよ、おい!」
ドンドン
「また大家さん来てるわよ」
「もういいよ! んなこと知ったこっちゃねぇ。オレ一人でも人間をぶっ殺してやる。てめぇらまとめて全員な!」
「……あれ? 後ろの……」
「なんだ? 気を引こうったってそうはいかねぇぞ」
「ゆうちゃん、どうしたの?」
「いえ、その後ろのゴミ収集週間表が見たことあるなって思って」
ダイソンの壁に貼られているたくさんの掲示物の内、光野が気になったのは何とも手書き感満載のゴミ収集週間表であった。
フリー素材なども使わず、花やデフォルメされた人のイラストが満遍なく描かれている。
「あん? これはここのアパートオリジナルだぞ」
「はい、だからもしかして……」
「実は同じアパートに住んでるってか? はん、ならてめぇをすぐにでも殺しに行けるってわけだな!」
「いえ、私はそこに住んでないですよ。そこのアパート、私のお父さんが経営してるので」
「えっ……大家さんの娘?」
「あー、はい。そうなりますね」
「…………いつも大家さんにお世話になってます〜!」
「あ、そうなんですねー」
「はい〜」
「私、まぁ色々と父に言えるといいますか、まぁ口聞けたりするんですけど」
「侵略止めようぜ」
「そだよね」
「そですな〜」
一瞬の変わり身。彼の音速のスピードはここでも活かされることに。
他二人ももちろん同意。インベルに至っては口調までも変わってしまっていた。
「これで世界は守られた?」
「そゆことじゃない?」
「や、やった! これで千年間の戦いに終止符が打てるんだね……」
「随分、ふわっとした終わり方だけどねー」
「あ、大家さんも勇者の血を継いでるからあんなに怖くて強いんですねぇー」
「そういや、さっきからドンドンうるさいけど。そろそろ出た方がいいんじゃない?」
「あはは……あははははは」
ダイソンは怯えながら、玄関へと向かった。
「今度さ、コロナが落ち着いたらどっか遊びに行こうよー」
「うん、いいんじゃない!」
「え、そ、それは我も、ですかな?」
「インベルさんもぜひ!」
「っしゃ〜認知もらった〜もうピカリンは我の推し認定」
「あはは、なにそれインベル。ウケるんですけど〜」
こうして、最後の魔王軍四天王会議はお開きとなった。
その後はオンライン飲み会になる流れとなり、大いに盛り上がった。(ダイソンだけは粛々としていた)
「あれ、なんか忘れてる気がするけど……ま、いっか!」
◇ ◇ ◇
「あれ、聞こえてます? 繋がってるかな……。うーん、聞こえない。止まってる気がする。これはもしかして僕が止まってるのかな? ラグがひどくて困ったなぁ……。あ、切れた」
明かりの消えた部屋にパソコンの光だけが、不気味にトールの顔を照らす。
もう通信環境はどうにもならなそうだ。諦めてパソコンを閉じた。
「……やっぱり部下に頼んで勝手に変なウイルス広げたのマズかったかなぁ。まさか僕たちも自粛するなんて思ってもなかったし。僕たちには無毒化するようにしたんだけどなぁ。抜け駆けでバチが当たっちゃったかな。とりあえず人間何人か殺してみたんだけどさ……」
そこらに転がる黒色の山。全て感電死し、焼け焦げた人間の死体だった。
動けないように、また処分がしやすいようにと乱雑にバラバラしたものもあり、服装が上下スウェットには大量の返り血が付いており、元の色が判別できないほどだった。
「ん? 写真落ちてる。なんだっけ、これサークルってやつのグループ写真かな。あれ、これは……フレイア? なんでこの男と一緒に写ってるんだろうなー?」
のちに、トールが魔王軍の決定に反抗し、他の幹部と勇者と戦うことになるのは、まだ誰も知らない話である。
魔王軍四天王会議(オンライン) 杜侍音 @nekousagi
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