魔王軍四天王会議(オンライン)

杜侍音

魔王軍四天王会議(オンライン) 前編


 ──遥か遠い昔、世紀を十度跨ぐほどの昔のこと。

 かつて人間界を支配しようと、異世界から魔王軍が侵攻してきていた。

 一時は闇に支配されるかにみられたが、諸悪の根源である魔王は勇者によって倒され、世界に平和が訪れる……


 だが、時は経ち現代。

 世界は再び闇に飲み込まれそうになっていた。

 魔王復活を試みる魔王軍最強の四天王が生きていたのだ……! 


 冷徹な分析官──氷魔ひょうまのインベル

 業火の誘惑者──炎艶えんびのフレイア

 残虐な殺戮人──雷霆らいていのトール

 音速の掃除屋──風殺ふうさつのダイソン。


 彼らは世界を支配するため、今日も会議を行う。



「──それでは第1024回魔王軍四天王会議を開催とする。尚、今回は新型コロナウイルスの拡大防止のため、リモートでの会議を行う。各々通信環境は大丈夫だろうか」

「だいじょうぶでーす」

「ひゃっはー! オレ様なら繋ぐのは余裕だぜぇ、あん⁉︎」


 毎回の如く淡々と司会をこなすのはインベル。眼鏡をかけたクールな美青年だ。

 紅一点のフレイアはあまり乗り気ではなく適当に返事をする一方で、タンクトップ姿のダイソンは画面にめり込むほど近い場所でオラついている。


「……つ、なっ、がて…………る、か」

「どうした雷霆のトールよ。電波が悪いのか?」


 他三名の通信は良好だが、トールの画面は暗く、映像が乱れていた。

 音声もまばらにしか聞こえず、何を言っているのか分からない。


「あ、れ……みん、な、、、とまっ……てな、い……っ?」

「雷の使い手が電波弱いのってどーなのよ」

「だらしねぇな。おい。まぁ、こいつは参加しなくていいだろ! オレ様は昔から元人間が幹部ってのは気に食わなかったんだ。これを機にこいつをクビにしたらどうだインベル‼︎」

「トールは優秀な人材だ。約千年前の大戦でも彼は人間を鏖殺おうさつしていた。彼は幹部にふさわしい存在だ」

「チッ、そうかよ」

「だが、待っていても仕方ない。我等だけでも、オンライン会議を進めよう」

「つーかよ、オレ達誇り高き魔王軍がなんで人間共のウイルスごときに振り回されなきゃいけねぇんだ。あぁ? おかしいだろ」

「たしかに〜、魔界の瘴気とかうちらバンバン吸ってたし、肺とか強いけどね」

「世間の目という奴だ。我等魔王軍は身体は強くても精神は弱いものばかりだからな。自粛警察にでも狙われたりしたら敵わん」

「はん! くだらねぇ。そんなクソ雑魚ばかりだからいまだに人間界を支配できねぇんだよ。あいつらはここで何やってんだ」

「人間に化けて人間界を裏から侵食をしている。お笑い芸人や地下アイドルでの活動によってな」

「染まってんじゃねぇよ!」

「今のご時世つらそー。生きてんの?」

「つーかよ、てめぇのその格好なんだ」


 ダイソンはフレイアのチャラチャラした服装が気になっていた。

 以前は、紅色の髪が燃え盛る焔のように逆立っていたはずだが、今は茶髪に染め髪はウェーブに巻き下ろしている。

 肩を出しただけの露出に抑えた服装は流行色を抑えている。昔はほぼ裸同然の黒色の紋様のみだったのに。

 鋭利な爪も、マニキュアを含めた手入れによって魅力的なポイントになっている。


「は? 私? これ今流行りのファッション」

「その顔ゴロゴロしてるやつはなんだ」

「美顔器」

「なに美顔器ゴロゴロしてんだよ‼︎」

「はぁ⁉︎ 綺麗になるために決まってんしょ! 友達にオススメしてもらった超いいやつなんだから! 先輩に振り向いてもらいたいの!」

「せんぱいぃ?」

「炎艶のフレイアは、女子大生に溶け込んで生活しているんだ」


 インベルが代わりに説明する。

 彼は亡き魔王に代わり、現在は魔王軍を取り仕切る存在。誰がどこで何をしているかは常に把握している。


「ほーん、あの燃やすしか能がない醜女が女子大生、しかも先輩にモテたいがために着飾ってるんだなんてねぇー」

「なに、あんた。炎上したいわけ?」

「はん、なんだ、やっぱり人間界に来ても燃やすしか能ねぇな、おい」

「フォロワー1万人いるから、あんたすぐ特定されるよ」

「そういう炎上かよ! 怖ぇよ!」

「静粛に」


 黙り込む二人。

 インベルの冷徹な瞳は見るものを震え上がらせ、戦意を喪失させる。幹部にとっても厄介な能力だ。


「我等の目的を忘れたか」

「……えっと、なにすんだっけ?」

「……ったく、大事な会議を始める前に暴走するな。フレイアは人間に溶け込むのはいいが、ほどほどにな。仲良くなり過ぎると情が湧くぞ」

「はいはーい。分かってるって」

「ダイソンも不必要に煽るな」

「ちっ」

「トールは──」

「……こ、れでき、、、こえてま……す?」

「まだ無理か。我等の目的は魔法様の復活、及び人間界の支配だ。そのことをゆめゆめ忘れてはならんぞ」


 インベルは眼鏡をクイッと上げる。彼の癖だ。


「ところでよぉ、インベル」

「どうしたダイソン」

「後ろの女は誰なんだ」

「あぁ、少し見えづらかったか。すまないな。花達美音莉はなたつ みねりさんだ」

「……だから誰だよ」

「なぁっ⁉︎ 貴様、みねりんを知らないだと⁉︎ 今も昔もこれからもときめき続ける声優さんだぞ⁉︎」

「声優だぁ?」

「声優“さん”だぁっ‼︎ いいか! みねりんはな『五倍の花嫁』で一躍人気となった声優さんだが、昔から応援していてだな。なにせ彼女の魅力というのは、ズバリ──」


 と、ペラペラペラペラと声優の魅力を暴走気味に語るインベル。誰も彼の語りを止められず、もう聞き流すしかなかった。


「はん! なんだよ、揃いも揃って無様だなぁ! フレイアは先輩に好かれたいからかわいくなるだぁ? あの冷酷無慈悲の氷魔のインベルは声優が好きだぁ⁉︎」

「声優さんだ」

「だからどっちでもいいだろ! いいか、人間なんてのはクソ雑魚の下等生物なんだよ! オレらが、そんな下等生物の下についてどうすんだ、あぁ⁉︎ 四天王も千年も経てばここまで腐ってるとはな!」


 ピンポーン


「なんだ‼︎ オレは腹立ってんだよ! 邪魔しようもんならこの場で切り刻んでやるよ‼︎ ──あー、大家さーん。え、どうしました? はい、あ、ちょっとうるさい? ちょっとじゃなくて凄く。あー、えっとそれは、あ、僕の声がってことですかね、はい、そうですね。──いや、仕事です。はい。あ、そうですね、声は、はい、そこまで出す仕事じゃないですね、いえいえ他に人はいないですよ! そんな、だってねー、今のご時世人とか呼べないですし、そもそも僕友達とかいないですし、えぇ……。──いや、それだけは! それだけは勘弁してください‼︎僕、ここが凄く気に入って、そんな追い出されたらもう行くとこないですもん! 大家さんには凄く感謝してます。はい、はい、えぇ、えぇ、あ、是非またさせてください。はい、すみません、静かにします。はい、すみません……」


「「………………」」


「腐りきってんな!(小声)」

「あんたでしょ!」

「ばっ、てめぇ叫ぶんじゃねぇ!(小声)」


 ダイソンはPCから音が漏れないように、イヤホンを繋げる。


「なーにが、下等生物に降るよ。あんたが一番ヘコヘコしてんじゃない!」

「しーっ! しーっ! オレがのたれ死んでたところを大家さんに助けてもらったんだよ。けどめちゃくちゃ怖い人でさ、恩をすげぇ感じてるけど逆らえねぇんだよ……! だから征服する時は大家さんは抜きで頼むぞ」

「無理に決まってんしょ」

「はぁ……どうやらまだ征服は難しそうだな」

「よ、くきこえ……な」

「あんたはまだ繋がんないわけ?」


 すると、トールの画面は完全に消えてしまった。トークルームから外れたようだ。


「……やっと見つけた」

「何者だ!」


 代わるようにして、誰かが入ってくる。

 女性だ。肩まである艶やかな黒髪に、整った目鼻立ち。

 世で言う美人に当てはまるのだろうが、人間を滅ぼさんとする魔王軍の琴線に触れることはない。

 そして彼女は凛とした立ち振る舞いで、画面内で語り出す。


「私は勇者の末裔。あなたたちが人間界征服の会議をしてるという噂を聞きつけて、ここに乗り込んで来たのよ。覚悟なさい」

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