DIVE IN
「当機はまもなく離陸します」
シートベルト着用の案内が灯りCAが安全装置の使用法を説明し始めた。VRとは言え機内の時間経過は実機と変わらない。これにはテレプレゼンスロボットを実際に空輸する時間と従来の搭乗時間を一致させ時差を解消し航空会社の利ザヤ確保の理由があった。それに乗客の神経系とロボの制御系を馴染ませる時間も必要だった。
それにしてもルネという名が引っかかる。偶然の一致とは思えない。それともそれはフランス語圏であり触れた名前なのだろうか。構ってちゃんに餌を与えたくないが上の名前を司奈は知ろうとした。
「わたし、ルネ・シャインと言います。よろしくお願いいたします」
「悪いけど遊びじゃなく仕事だから」
司奈は旅の供には成れないときっぱり断った。人命が掛かっているのだ。日本からチューリッヒまで耽る時間が欲しかった。旅客機で半日かかる距離も
機体が安定高度に乗りシートベルト着用のサインが消えた。
デカルトは驚きのあまり、言葉が出なかった。
僕という婚約者や婚約を破棄する人はいない。彼女は僕の彼女だ。そう言われても実感がない。
「それで、僕はお嫁入りの日まで、君の望みに応えてあげられるのかい?」
すると彼女は僕を見て答えた。
「はい。幸せです」
それから彼女は僕の目に涙を浮かべながら満面の笑みを浮かべて、こう言った。
「あなたはわたしを愛してくれているわ。きっと幸せになれる。私があなたのもとに向かうときに、きっと。だから、あなたは絶対に幸せになれるのよ」
彼女の心からの言葉を聞いて、デカルトは空想というルーチンを始めて起動した。予測モデルは頻繁に組み立てるが全く私的な幸福を希求する用途は初めてだ。
彼には耽美が実装されていた。物思いにふける。人間の愉しみとはこういうものかと理解する。
僕と一緒に宇宙に飛んで行って、僕の彼女となった。そして、宇宙のある一点に光が灯りだした。
そして、彼女を地球に連れて行った。
そんな空想に浸るうちにデカルトは特異なフィードバックループを形成し始めた。麻薬依存症だ。
ぼくはチジョに乗り逃げされました 水原麻以 @maimizuhara
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