いろいろな思いが巡るのに、どれひとつとして言葉にならない

 ナチス政権下のドイツ、党員としての訓練になかなか馴染めずにいるひ弱な少年と、彼の家を訪ねる〝客〟のお話。
 シリアスな歴史ドラマです。歴史上の有名人物の物語ではないため、感覚的には『歴史区分上の近現代を舞台にした現代ドラマ』とでもいうべき作品。そのあらすじからも明らかな通り、取り扱うモチーフ(及びテーマ)がどこまでもシリアスで、非常に読み応えがあります。この重苦しい緊張感!
 最大の魅力はやはり主題部分の威力、というか、「どう足掻いてもなんらかの感想を抱かずにはおれないところ」が最高でした。
 登場人物の取った行動の是非、あるいはその動機や、そうさせるに至った事情、またもし自分が彼らの立場ならどうしていたか、等々。それらが勝手に頭の中をぐるぐる渦巻いて、なのに何ひとつ答えが出せない。
 安易に良いとか悪いとか断じられる内容ではないばかりか、想像が追いつかない(というより、どうしても「所詮いまの自分の感想はただの想像でしかない」という、いわば思考の強度不足を否めない)ところがあって、もう本当にメタクソに心と思考を揺さぶられたお話でした。物語が最初から内包している質量の大きさ。
 これらのモチーフやテーマが素晴らしく、またその扱いが見事、というだけでなく。単純に単体の物語としての完成度が高いのもすごい。というか、そこが大好き。フランツの持つ家や親への微妙な感情、またディートリヒとの友情が成立していく過程や、それが彼にもたらしたもの。また、その結果としての最終話には、何か答え合わせのような気持ちよさがありました。
 とても上手に〝物語〟してくれて、そのうえデカくて重い何かを残してくれるお話です。扱う主題がシリアスでも、お話そのものに難しいところはないので、とにかく読んでみてほしいと感じる作品でした。