第3話 静寂
あの日、身体が重なったのは、気持ちが重なったからだと思っていた。
『ね、冷蔵庫の炭酸取って』
「ン」
私が身体を重ねるのは、そこに気持ちがあるから。
プシュ
「…ひとくち頂戴」
『ン』
あれから何度、身体を重ねたんだろう。
君が私と体を重ねる理由を、何度聞こうと思っただろう。
今日おうちにお邪魔したときの第一声は、
『聞いて、彼女と別れた』
という報告だった。
それを聞いた上でまた身体を重ねて、
水族館に行ったあの日と同じように隣に座っている。
「…ね、今の私たちの関係って、曖昧だよね」
『…そうだねえ』
「そういうお友達だと思ってる?」
『そんなこと思ってないよ』
「…そっか」
わかっているんだ。
この人はきっと今後もこの関係に名前なんかつけてくれやしない。
私が思い描いていた理想の形でも、
そういうお友達でもない。
曖昧なまま時を過ごして、この関係が変わったり、名前がつくという確証もない。
わかっているんだ。
それを理解した上で私はこの人の隣にいるんだと思う。
「……難しいね、男女って」
『…そうだねえ』
今の私には、素直に気持ちを伝える勇気もない。
伝えたところで、きっとそれには応えてくれないことくらい、
なんとなくわかるから。
それなら、嫌われることなく、
面倒な奴だと思われることなく彼の隣にいられる方法を選ぶ。
それは間違ってると誰かに言われたとしても、簡単に離れることも、
嫌いになることもできないのだろう。
『眠くなってきたなあ』
君はそう言って座っていたベッドに寝転がり、ポスンと音を立てて足を下ろすと、
私を見上げながら手を握ってくる。
『一緒に寝る?』
柔らかな笑顔を携えて。
鳴らない炭酸水。 めんたいくりいむ @drop4lol
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます