第2話 発泡


『俺はすきだよ』



片手には缶ビール。


まだ少し慣れない苦みの飲み口から、思わず唇が離れる。


間接照明のみをつけた状態のシンプルな1室。


ひとつしかないベッドに座ってたわいもない会話をしていたはずだった。


あれ、今何の話をしてたんだっけ。


思い出せないのはアルコールが回ってるせい?


どんな話の流れだったっけ。


今、なんて言った?



『俺だけだった?』



まだ半分ほど残っているビールの缶を、私の手の中から奪い取る。


いつの間に飲み切っていたのか、


私の缶を置いたその横にはひしゃげた缶がすでに置かれていた。


私の冷えた手にあたたかい手が触れる。


わかってたはずなのに、どうしてこんなに戸惑っているのか。


同じ気持ちだって確信したはずなのに。


いざ言われると、こんなにもくすぐったいものなのか。



「私も、」



顔が近づく気配を感じて、少しだけ顔を上げる。


目が、合った。



「私もすきだよ」



静かに目を閉じる。


ねえ、くすぐったくなってくれた?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る