#03 戦場

 上空に響き渡る輸送ヘリコプターの音。

 その中には私とエリナが乗っていた。


「ついに実戦だね……大丈夫かなあ」


 先程の応援要請の無線から15分。私達はこれから戦闘激化地区のエリアCへと向かう。

 指揮を執るのは教官のジュリアスだ。彼女は女性兵力最強と呼ばれ、私が所属するこの専門学校を建てた人物でもある。元々、海外で兵士をやっていたらしいが、とある事情で極東地域に赴き今に至る。

 私は手に抱える相棒――M4A1をしっかりと握る。


「エリナ、ついに武器こいつを使う時が来たんだよ」

「はー。いつにも増してやる気じゃん」


 エリナには悪いけど今私にはやる気しかない。

 早く訓練の成果をあげたい。


 その後もヘリは高速で移動し、20分でエリアCの上空まで来た。


「お前たち、準備はいいか。まずは訓練の成果を見せてくれ。躊躇ちゅうちょせず、撃てるときは撃て。いいな」


 無線を使ってオープン回線で指示するジュリアス。

 そしてついに5機のヘリが地上に着陸する。


 生徒は次々と武器を抱えてヘリを降りていく。

 私も地上に足をつける。ついに来た。と、そのときエリナが話しかけてきた。


「そういえば私が兵士になった理由、言ったっけ」

「さあ。聞いてないような」


 エリナはにこっと笑うと、空を見上げた。


「お父さんとお母さんを喜ばせたかったんだよね。ずっと守られてきたからさ。今度は私が守る番!ってね」


 その目はキラキラと輝いていた。本気でそう思っている証拠だ。


「――死なないでね、ユイカ」

「死ねるかって、こんなところで」


 これから私達生徒は15班に別れて行動することになる。それぞれの班は5名で構成され2年生の班長がついている。

 私は今回前線に置かれることになった。エリナは後衛のようだ。

 この有事のために、ジュリアス教官が練っておいた班構成らしい。なんというか、抜かりない。


 班に別れいざ戦場に入ると、遠くから銃撃戦の音が聞こえてくる。そして数日前に行った実地訓練のときに印象に残ったあの硝煙の匂いが鼻に刺さる。この匂いを忘れることはない。


「この匂いにも、慣れておくんだよ」


 そう言って私の方をポンと叩いたのは班長の桐島ウヅキだ。

 彼女もまた実戦経験が豊富で、知識も多い。訓練ではいつも支えてくれた私の恩師でもある。

 そこに一通の無線が入る。エリアCに先に潜入していた【自由兵士】からだ。


『応援ありがとう。躊躇わず暴走している人間を撃て。市民は守れ』


 無線を聞いて、いよいよ戦いが始まると強く実感した。

 何も気を張りすぎる必要はない。訓練でやってきたことを踏まえてやれば、必ず生きて帰れる。

 私は強い。


「私についてきて。戦場では常に物陰に身を潜めて動くこと」


 班長のウヅキが言う。

 ウヅキ班は、ウヅキともう一人の先輩以外の私を含める三人は新入生だ。ウヅキの荷の重さは言わずともわかる。

 ウヅキが歩き出し、私達も続く。

 辺りには空薬莢が落ちている。もちろん死体もだ。

 損傷が激しいものは本当にひどい。四肢がありえない方向に曲がっており、口から吐かれたであろう血と何かが混ざったものが地面に散らばっている。

 見ていて気分のいいものではない。しかしこの現実を受け入れる必要がある。


「ここは前線だからね。実地訓練では危険が少ない場所を選んだりしてるけど……まあひどいよね」


 私の表情を悟ったのか、ウヅキが話しかけてくる。しかしその目線は常に周囲に向けられている。一瞬たりとも油断はしていないようだ。


「一体いつからこんな世界になってしまったんだろうね」


 ウヅキが言う。

 頭にちらつくのはこの世界を作り出したクソ大人ども。

 死ぬべきではない人々が身勝手な争いで命を奪われるなんて、イカれてる。


 戦いたくて、戦ってるんじゃない。

 すべてはいつかの「自由」のために。

 争いのない世界を再び取り戻して、二度と争いなんか起きないような日々を送る。


 そのために私は【自由兵士】になったんだから――。


 決意を新たにしたとき、目の前を見るとそこに男二人組が現れる。私達はすぐに銃口を向ける。相手も私達に気づいて銃を向ける。しかし男たちはすぐに銃を下ろした。


「その胸の紋章……お前ら、【自由兵士】か?」

「……」


 男に問いにウヅキは一言も口を開けない。


「待て。俺たちはあんたらの味方だ。いや同胞だ。信じてほしい」


 男は真っ直ぐな目で訴える。しかしウヅキは銃を下ろさない。私達にも目線で「下ろすな」と指示している。

 訓練でならった通りだ。「いかなる状況でも戦場に現れるものを信用するな」。まさに今の状況だ。

 しかし不思議なのは男たちが【自由兵士】の存在を知っているということだ。この【自由兵士】という呼称は私達の学校でしか使っていない。学校に男の生徒はいないし、一体どういうことだろうか。


「――ッ!!上だ!!」

「!!」


 男が上を指差す。目を向けると――グレネードが降ってきていた。


「散開ッ!!」


 ウヅキが指示を出す。散開。その言葉の通り班員はとにかくその場から離れる。

 直後、グレネードが落下した地点から勢いよく煙が立ち上がる。周辺はたちまち白煙で状況がわかりにくくなる。


「スモークグレネード……」


 その効果は今まさに出ている。白煙がたちこめて何も見えない。催涙ガスとは違い、目にダメージはないが、これを一つ投げ込まれただけでも連携は取れなくなる。

 そんな中で、男二人は違った。


「力を貸そう」


 そう言って男二人は煙の中を突き進んでいく。

 直後、銃撃の音が鳴り響く。


「……何を」


 私達は全員集まる。何も見えない中で銃撃戦の音だけが響いている。

 そしてすぐにそれは止んだ。


「行くぞ、ここは危険だ」


 男が煙の中から後退してきて慌ただしくそう言う。

 ウヅキはその言葉を聞くと、険しい表情ながらも頷いた。


「信じよう。救ってくれたことには感謝するよ……」

「同胞を助けるのに躊躇などいらないからな」


 私達はひたすら走り続けた。どこまでも。

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HIGHT SCHOOL FLONTIER 神条 @kami8a_

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