第15話 妄想

 「ムリ―ナ将軍、大丈夫か!?」


 俺の言葉に将軍は笑みを浮かべたが、作り笑顔にしか見えなかった。

流れ矢の当たり所が悪く、王都にあるこの診療所では懸命な治療が行われている。


 「陛下、大変申し上げにくいのですが・・・。」


 「あ、治療の邪魔だったかな?」


 「いえ、そうではなくて・・・伝えておきたいことが。」


 俺は診療所の女医、ライアルに招かれて別の部屋へと向かった。



 「どうした、まさか・・・。」


 俺が状況を察すると、彼女もまた表情で俺に訴えかける。


 「危ないということか・・・。」


 これに彼女は深く首を沈める。


 「・・・我々も引き続き治療を続けますが、当たり所が悪いうえ

傷口から雑菌が入り込んでおりまして、命を救うのは厳しい状況です。」


 「・・・。」


 俺は少しでも将軍の近くにいてあげたかったが、

公務が待っているため長居できない。


 「将軍、俺は復活を祈っている。だから、大変でも生き抜いてほしい・・・!」


 「へ、陛下・・・。」


 俺は出たくなかったが、仕方なく診療所を後にする。

宮殿に着いた後も気持ちは診療所に残っているようだった。


 

 これは公務が終わった夕方のこと。


 「助かるといいですね・・・。」


 こう言って心配しながらパールが紅茶を注ぐ。


 「彼女は厳しいと言っていたが、どうにか助かってほしいものだ。」


 心配する俺。

そのような雰囲気が流れるなか、この女は空気を読まない。


 「え、将軍って死んじゃうの?」


 「こら、サラス!不謹慎なことを言うべきではありません!」


 パール宮女長がサラスをたしなめるが、

当の彼女はというと変な妄想をしていた。


 (ムリ―ナ将軍が亡くなったら次の将軍はリマ団長。

あのカッコいいリマ団長・・・。)


 「そんな妄想をしてもリマ団長とはくっつきませんよ。」


 「べ、別に変な妄想なんてしてないし・・・!」


 サラスの顔は明らかに赤い。

赤みがかっているどころではなかった。


 (そう言っておいて実は俺目当てということは・・・。)


 ついに俺まで変な妄想がよぎる。

だが、俺など眼中にもないようだ。


 国王陛下、なんだけどなぁ。一応。

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俺が英雄と呼ばれるまで 武田伸玄 @ntin

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