詩・一九八九亜洲(いちきゅうはちきゅうアジア)
Mondyon Nohant 紋屋ノアン
強い光が窓を
そうきっと
僕らが泊まった小さなホテルは港を見おろす
窓から見える夜景の
空を
無数の
結構な暑さなのに彼女はエアコンをとめ
小さな部屋には
世界でいちばん
どうしてテレビがないんだろう
そんな野暮なモノあるわけないじゃない
あのビルもこのビルも満員のラブホテルで
客はみな
一緒に歴史をつくろうと彼女は誘う
僕は彼女の
ファーリーストネッワー
英語は得意だろ?
まあね
でも通訳なんかごめんよ
どこで何が起ころうがここはラブホテル
革命よりも戦争よりも抱き合うほうがはるかにメンタルだから
学校がなくたって図書館がなくたって
ラブホテルだけはちゃんと在る
たとえ今日ミサイルが
明日の朝にはきっと
小さなラブホテルが
たとえいま
今日はちょっと忙しいんだと今日の男は今日の女を抱いて
今ちょっと暇がないのよと今の女は今の男とねるの
チークの机に
ねぇ歴史をつくろうよ
つらい昔もかなしい今もみんな捨てて
たのしい
彼女は僕の首に腕をまきつけ唇をよせた
君の国じゃたったいま
人が
べつに珍しいことじゃないわ
いつでもどこでも人は殺されている
ジンギスカンから そうねポルポトまで
いや もっともっと昔からついさっきまで
人は奪い犯し殺してきて奪い犯し殺している
自分が大人しい歴史の中に居るなんて思うなら
アンタは
何万人死のうがと
僕も知っている
いつどこで何万人殺されようが
朱色の袋の口を開け彼女はまた
ねぇ
漢字で書くとみんな
ここもソウルもサイゴンも人の顔はほとんど同じ
アンタとそっくりの坊さんをラマで見た
窓の
酔っぱらいかな
悲しいことがあったのか何時も哀しいのか
きっとそんなとこ
アンタも私もあの人も同じ
窓のこっちはラブホテル
カーテンをひいてよ裸になるんだから
窓の向こうの人たちが裸じゃなくてアンタと私が裸なら
きっとアンタと私だけが
街のあかりが半分消えた
僕はカーテンを閉め彼女はガウンを脱いだ
二人は抱き合ってベッドに入り黄色い
黄色い
血の汗を
女はねアレがヨかったら頭ん中が真っ白になるの
大きく息を弾ませて彼女は言う
今日は久しぶりに世界が真っ白になった
すごく真っ白になった
しばらくしたらまたヤろうと彼女はささやく
僕はカーテンをわずかに開けた
ラジオから
パラパラパラパラと銃声が流れ出て
外の
詩・一九八九亜洲(いちきゅうはちきゅうアジア) Mondyon Nohant 紋屋ノアン @mtake
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