月さえ見えれば生きていける

多賀 夢(元・みきてぃ)

月さえ見えれば生きていける

 何もない田舎の夜空には、青い光を落とす月がありました。


 私はその光を浴びながら、誰もいない農道で踊りました。


 青い影が長く伸びて、アスファルトが輝いておりました。




 昼の月が見えるときも、私は空を眺めておりました。


 薄くともそこにある月に、私は頼もしさを覚えました。


 細く白い欠けた月は、空に飾られた貝殻のように奇麗でした。




 私の世界は、フランス人形の青い瞳に写った世界。


 この青すぎる空は、お人形の瞳の色。


 本当の世界は、きっと広くてもっと違うのだろう。


 私は一人でいつも空を眺め、瞳の外に出たいと思っていました。




 私は空を見上げ続け、いつしかこう思うようになりました。


『月さえ見えれば、生きていける』


 月はやさしい光。私に寄り添ってくれた光。


 だから、月が見える場所なら大丈夫。


 月を見上げる心があれば大丈夫。




 私は青々とした空の田舎から抜け出しました。


 真っ赤な夕日が映える都会に飛び出しました。


 都会にも月が出ていました。


 途端に私は安心しました。


 都会がなじみ深い田舎と同じに見えました。




 その時、私は確信しました。


 私はどこでも生きていける。


 月さえ見えれば、生きていける。




 私は今でも月を見上げます。


 こっそり、青い影と踊ります。


 長く伸びた手足と同じほど、心を広げて生きています。

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