第53話 決意するみんなと未来が楽しみな私
「僕がハーフレムーラだって話ですね」
「そしてわたしの実家が昔からレムーラ狩りをしてきた家系ってお話かしらぁ」
エミリオくんとパメラ先輩があっさりとなんだかすごい打ち明け話をしてくる。
「わたしとコンラートくんの婚約も、今までどおりインテンツィア家のためにレムーラを狩りますっていう忠誠を示すためなのよねえ」
「つ、つまり復讐って……」
そこまで言われたらさすがにわかってしまうけど、正直わかりたくない……気がするな。
聞いておいて怖じ気づいている私に、エミリオくんは表情一つ変えずにあっさりとうなずいた。
「僕の父の仇にあたるのがパメラ先輩のお祖父様ですね」
はっきり言われてしまった……。うん、やっぱり重い話だった!
「大丈夫ですよ。レムーラ狩りに関わっていないのなら、パメラ先輩をどうこうしようとは最初から思っていませんでした。パルフレン家は伝統的な貴族で、女性を『狩り』に出すことはありませんしね」
「でもねえ、わたしも何も知らなかったわけじゃないしぃ。復讐の対象になるのはしょうがないかなって……」
逡巡するパメラ先輩に、エミリオくんはさっきよりもはっきりと不機嫌そうに、しかしむりやり笑顔を作った。
「先輩は僕を犯罪者にしたいんですか?」
にっこりと笑いかけられたパメラ先輩が、珍しく困った顔になって「そういうわけじゃないけどぉ」ともごもごつぶやく。
「僕としては、今回の騒動で神座の国も一枚岩じゃないということがよくわかりましたし、いっそ合法的に復讐を成し遂げて、レムーラがレムーラ狩りに脅かされずに暮らしていけるようにしたいんですよね」
そこでエミリオくんは、なぜか意味ありげな視線をクライスに投げる。
「クライスウェルト先輩とも利害が一致するんじゃないかと思うんですけど、どうですか?」
それまで静かに様子を見守っていたクライスは、いつもの笑顔じゃなく、すごく真剣な表情でうなずいた。
「そうですね。それについては、私もエミリオ様と協力しあえるのではないかと考えておりました」
クライスの真剣な様子と話し方で、これは私にも関係のあることだと気付いて、私は思わず姿勢を正す。
「リアナに聖女の力が戻らなければ良いと思っておりましたが、そうもいかなくなりましたので。今後、リアナが神殿に縛られずに生きられるように、何ができるだろうか、と」
「そういうことだったら私も協力するわ。……エミリオくんと違って、何ができるってわけじゃないけど」
これって完全に打倒インテンツィア家で結託しようって話だよね、と思っていたら、なぜかリディア先輩が乗ってきた。
「いいんですか? 僕もクライスウェルト先輩もこれからの人生がかかってるからいいんですけど、きれい事ですむような話でもないですよ」
最善の結果になったとしても、インテンツィア家とその周辺からの恨みは買いまくるだろう。そう念を押すエミリオくんに、リディア先輩も重々しくうなずいた。
「もちろんわかってる。前に話したと思うけど、うちの領地、私が結婚しなかったら、隣の伯爵領に吸収されてしまうのね。その伯爵領っていうのがインテンツィア家に連なる家系の領地で……うちとは何度か衝突してるものだから、吸収されてしまったらうちの領民がどんな目に遭わされるかわかったもんじゃないの」
憂鬱なため息をつくリディア先輩の事情も結構重かった。剣を捨てて結婚相手を探しているのにはそれだけの理由があるってことか……。
「ヴィスタ領か……確かに十数年に一度、隣の伯爵領と小競り合いをしている記録がございましたね。インテンツィアの後ろ盾があるということは、リディア様が結婚したとしても何らかの形で領地継承を妨害してくる可能性は高いかもしれません」
「そういうこと。今までは取り得る最良の手段が結婚だと思って我慢してたけど、それ以外にもっと確実な道があるならそっちを取りたいの」
それに、と、リディア先輩はパメラ先輩を真っ直ぐ見つめる。
「インテンツィア家の勢力を削ぐことができれば、パメラ先輩もあの人と結婚しなくてすむかもれないんでしょ? 友だちが幸せになれるなら、協力しないって手はないわ」
「そう言われちゃったら、わたしも協力するしかないわねぇ。リディアちゃんの大好きな領民のみなさんのためにも」
パメラ先輩が困った顔のまま、それでもどこか嬉しそうに微笑むと、オルティス先輩も拳を握ってうなずいた。
「僕ももちろん協力しよう。実家が喧嘩を売った以上、これは僕の喧嘩でもある」
「喧嘩扱いはいかがなものかと思いますが」
「うるさいぞクライスウェルト。先ほどは不覚を取ったが、次は必ず勝ってやるからな」
「楽しみにしております」
あ、クライスがいつもの笑顔だ。オルティス先輩と話してると一瞬でいつもの調子を取り戻せるんだな。勇者ってもしかしてすごいのかもしれない。
「忙しい一日だったのに若者たちは元気だね。結構結構」
推定五百歳超の先生がみんなの様子を見回して偉そうにうなずく。
「まあ確かにみんな先生の十分の一も生きてないですけど」
「ひがむなひがむな。オレも協力してやるぞ。レムーラの平和はオレたちの悲願だったしな」
けらけら笑いながらリディア先輩の頭を撫でて嫌がられている先生のベルトポーチには、先生の親友の瞳が今も入っているのだろう。
「まあでも、何はともあれ、戻って勉強だよね。クライスの魔道書もまだまだ改良の余地があるし!」
このメンバーが集まってからまだほんのちょっとしか経ってないのに、何だかこれが私たちの「いつも通り」なんだなって感じがすごくする。
そのあたたかさを噛みしめながら、私は両手を打ち鳴らした。
「ええ、卒業までに力を蓄えなくてはなりませんね」
「お前が強くなる以上に僕も強くなってやるからな!」
「私も剣を捨てるなんて言ってられないわ。修行を再開しなきゃ!」
「みんなほど時間に余裕はないけどぉ、わたしも今度こそちゃんと魔道士としての力をつけたいわねえ」
「学園は各国から様々な立場の人が集まる場所でもありますからね。卒業までにさらに人脈を広げて、あらゆる情報を集められるようにしておきます」
それぞれに決意を固める私たちを、先生がにこにこと見守ってくれている。
「いいぞいいぞ。やる気のある弟子たちが揃ってくれるとオレが楽できる」
「フン。いい気なものですわね。これからも苦労が続きそうでげんなりしますわ」
先生もニーメアも素直じゃないけど、なんだかんだでやることはきっちりやってくれるんだろうなっていう安心感がある。
少なくとも卒業までは、クライス以外の護衛が来ることも神殿の干渉を受けることもないように、各国の国王やイライアスさんがいろいろな取り決めをしてくれた。
いろんな人たちに守られながら、私たちの学園生活は続いていく。
そう思ったらなんだかワクワクしてきた。これからみんなで青春を謳歌できるんだ。
友だちとは違うかたちになったけど、もちろん、クライスも一緒に!
クライスにまた会えるってドキドキしていた入学のときよりもさらに未来が楽しみな私とみんなを乗せて、いつの間にかウィリーくんの魔法で飛び立っていた馬車は、上空に悠然と浮かぶ空飛ぶ鯨を――私たちの魔法学園を目指して進んでいくのだった。
聖女の力を失ったのに元護衛騎士候補の幼馴染みが過保護を止めてくれない 深海いわし @sardine_pluie
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