第12話

 ポートマフィア本部ビルの一室。

 ヨコハマの街を一望できるこの部屋で紅葉は一人、灯りもつけず夜の街を眺めながら酒を飲んでいた。

「誰じゃ?」誰かが入ってくる気配がした。

「姐さん、いらしてたんでしたか。鍵が開いてるのに灯りが消えていたんで、誰もいないのかと」入って来たのは、幹部の中原中也だった。

「おや、中也か。どうしたのじゃ?」

「それはこっちの台詞です。灯もつけず、何してるんです?」

「あまりにも月が綺麗なんでのう。月を見ながら一杯やっておるところじゃ。そう言うお主は任務終わりか?」

「ええ。今しがた首領へ報告に行ってきたところです」

「そうか。ならちょうど良い。任務が終わったのなら、こっちに来て一緒に飲まんか?」紅葉は中也を隣へ呼んだ。

「あれ? 姐さんからのお誘いなんて珍しいですね」

「今日は気分がよいのでな」

「では、お言葉に甘えて」中也は紅葉の隣の席に腰掛けた。

 二人は街を眺めながら酒を酌み交わした。

「そういえば聞きましたよ、姐さん」思い出したかのように、中也は口を開いた。

「街で泉と会ったそうじゃないですか」

「一緒に買い物をしたり、景色を眺めたり。楽しい時間じゃった」紅葉は猪口に酒を注いだ。

「そりゃあよかったですね。でも、良かったんですか?」中也は問いかけた。

「ん? 何がじゃ?」紅葉は問い返した。

「泉のことです。久々に会って、連れ戻したくなったのでは?」

「確かにそうじゃがのう・・・・・・」紅葉は猪口の酒を飲んだ。

「探偵社は鏡花が自分で見つけた居場所、自分で居られる場所じゃ。それを奪う事はしたくない」空になった猪口に酒を注いだ。

「私は鏡花が元気でいてくれればよい」紅葉は猪口を持った。

「今頃は探偵社の者たちに祝われておる頃じゃろ。今日は鏡花にとって大切な日じゃ」紅葉は猪口を持ったまま遠くを見つめた。



 今日は十一月四日。お誕生日おめでとう。

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