R わたしのアール (最終階)

 屋上に上る。わたしだけの場所。唯一の居場所。そう信じていた場所。


 いつも、そこには誰かがいた。彼女たちに声をかけたのは、別にその悩みに興味があったからではない。ただ、先を越されるのがしゃくなだけだった。


 柵を上り、むこうがわへ。


 今日は誰もいなかった。端に腰を下ろし、中空に足をぶらつかせる。

 わたしは結果として彼女たちの死を止めたことになるけれど、それだけじゃなかった。

 彼女たちを言い負かすことで、わたしも、飛び降りることを先延ばしにしていたんだ。


 しかし、あの子の存在は、それすら許されなくなったことを示していた。


 もう、わたしを止める存在はいない。言い負かす人間はいない。

 邪魔してはくれない。

「……」

 靴を脱ぐ。靴下を脱ぐ。


 わたしは、いうなれば、三つ編みの、背の低い、黄色いカーディガンを着た女だった。


 三つ編みはほどいた。背伸びをして低身長を誤魔化した。

 そして今、カーディガンも脱ぐのだ。強引な手段で。

 隠していたあざ。まるで久しぶりに見たような錯覚さっかくおちいる。


 この傷を、わたしはようやく消そうと思った。先客に声をかけて問題を先送りにするのではなく、この屋上をわたしの居場所として固執こしつするでもなく。


 そう決断したから、今日は誰もいないのかもしれない。もういいだろう、と。どうせもう、ここもわたしの居場所ではないんだから、先延ばしの口実は必要ないだろう、と。


 夕焼け染まる屋上。人生最後の景色。なんて綺麗だ。けれどわたしはこの世界で生きていくことはできなかった。死を選ぶ理由ははっきりしているのに、生まれた理由はわからない、そんな世界では。

「……」

 靴をそろえて、わたしは両腕を広げる。


(一度でいいから、誰かに、本気で愛されたかったな)


 まだそんな女々めめしい感情が残っていたなんて。苦笑してわたしは瞳を閉じた。そして、すっと重心を前に傾ける。


 この落下とともにこの痣は消え、同時に生きる理由を失ったわたしの人生は幕を閉じる。


 自分で望んだ展開のはずなのに、なぜだろう、閉じた瞼の間から、涙がこぼれた。


 引っ張られる感覚。わたしは一つ、息を吸った。





あとがき


 原曲URL【 https://www.youtube.com/watch?v=ocAKhyWuawo 】

 ちなみに、最後に飛んだかどうかは解釈が分かれます。

 歌い手めありーさんの歌ってみたverは、今は残念ながら確認が出来なかったのですが、ある部分から、飛んだという解釈をされたということがわかる歌い方になっていました。

 この解釈小説でもそれにならい、その点をぼかすこととしました。

 引っ張られた感覚、それは重力だったのか、それとも彼女が今までしてきたような、誰かから「やめなよ」と引き留められた感覚だったのか。

 そのあたりは、ぜひ原曲を聞いて考察していただきたいところです。

 

 何はともあれ、ここまで読んでいただきありがとうございました。

 次回解釈をするかどうかはわかりませんが、そのときはまたよろしくお願いいたします。

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【解釈】わたしのアール 蓬葉 yomoginoha @houtamiyasina

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