明滅する概念的点Pとその観測

作者 飛鳥休暇

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★★★ Excellent!!!

『女は海』
それは生命の源であり、破壊的な奔流。
時に穏やかで温かく、時に冷たく底を知らない。
一人の男にナプキンの帆を張らせペンのオールを漕がせ、気まぐれな波で弄ぶ。
誰かはそれを悪だと非難するかもしれない。
しかし海がなければ、帆もオールも腐らせてしまうだろう。
男の航海の先が幸福か破滅かは分からない。
けれどただ朽ちていくはずだったこれまでに比べれば、それはとても幸せなことなのかも知れない。

そんなことを感じさせてくれる物語でした。

★★★ Excellent!!!

なんだか身に覚えのあるような錯覚に陥るシチュエーション。
ああ、そういえばこんな気持ちになった事があったなぁ。喜んでもらいたくて、ただひたすらに書いたり描いたりしたことが。
それが終わって、落ち込んで、その落ち込みをまた書いて、そして喜びにペンを手放して。そしてまた……
創作者の人生とは、まさにこうなのかもしれない。

★★★ Excellent!!!

子どもの頃、裏の白い広告が大好きだった。
せっせと集めては鉛筆を握り、気ままに絵を描く。
そんな思い出がよみがえる作品だった。

主人公の男性は、ネットカフェに寝泊まりをしている日雇い労働者。
備え付けの紙ナプキンに安物のボールペンで絵を描き続けている。
ある日、ネットカフェのスタッフの女性から絵を褒められた主人公は、創作意欲があふれ出してさらに絵を量産してゆく。

主人公の生活と心情が丁寧に描写されている作品である。
ままならない日雇い労働の生活のなかで、心躍ることがあったり、失意のどん底に落とされたり。

それでも、彼は絵を描き続ける。
創作とは本来、心の底から湧き上がる強い感情のようなもので、誰にも止められないものなのかもしれない。それこそ作者本人にさえも。

この作品のもっとも興味深いところは、主人公がほぼ0に近い元手で絵を描いているところ。あるときは備え付けの紙ナプキンに、あるときはもらいもののボールペンで。『弘法筆を選ばず』という言葉があるが、創作をするのに環境や道具は関係ないのかもしれない。
なんならピカソやダリといった巨匠たちが紙ナプキンに絵を描いたという逸話さえ彷彿とさせるのだから、そういうところもまた面白い。

さて、気になるのは主人公の行く先。
彼の人生はひょんなことから変わってゆく。ラストには思わずニヤリとさせられた。
きっとこれからも、主人公は軽率にいろんなものを手に入れたり、失ったりしながら、それでも絵を描き続けるのだろう。

読む人によってどこをポイントに見るかが変わってきそうな面白い作品である。
このレビューを読んでいるあなたも、ぜひこの作品を味わってみて。

★★★ Excellent!!!

ネットカフェで寝泊まりする主人公。彼のちょっとした特技が、人生に小さな明かりを灯す。だが、その明かりは儚かった。

日常をリアルに切り取る描写と、ぐいぐい読ませるストーリー、そして、個性的なキーワード。

オリジナリティと面白さとが両立した、素晴らしい短編でした。