第59話 閑話 輪廻転生
5年前の話。
オードリーは産褥のベッドの上で泣いていた。
あれだけ思っていたアルヴィンの子供を流産してしまったのだ。
もうなんて、天国のアルヴィンに謝ったら良いんだろう。
もう終わりだ。
オードリーは泣き尽くした・・・・
その頃地獄の門はいつものごとく混んで大変だった。
閻魔は振り分けの多さに切れそうになっていた。
オードリーとアルヴィンの息子の霊はその閻魔の横をふわふわと飛んでいた。
「おい、そこのガキ」
閻魔が目ざとく見つけて叫んでいた。
「この前地界に送り出したと思ったらもう帰ってきたのか。早すぎるではないか」
閻魔はブツブツ文句を言う。
「何、あのボケナスキャメロンに貴様の母が毒を飲まされたと。あのキャメロンの奴、許されんな。罪、一人プラスと」
閻魔は帳面に記載していく。
「あやつ、シャラなみに、人を殺しておるな。まあ、当然死んだら無限地獄行きは决定しておるが」
ブツブツ閻魔は呟いていた。
「何々、その方、もう一度母のお腹の中に戻りたいと申すか。しかし、その道は茨の道じゃぞ。良いのか」
閻魔がその魂を見つめた。
「母をこれ以上悲しませたくないと申すか。それはどうなるか判らんが、良いのじゃな」
閻魔は念を押すと杖を魂に向けた。
「まあ頑張るのじゃな」
魂は光ると同時に地界に飛んで行った。
そして、その魂は泣いているオードリーの周りを回る。
そして、お腹の中に宿った新しい生命の中に入っていった。
そして、今、天に召されたオードリーは閻魔の前にいた。
「オードリー、その方地獄に堕ちたいとのことだが」
不審そうに閻魔が聞く。
「はい。私はアルヴィン様に人として酷いことをしてしまいました。その罪は万死に値します」
「しかし、それは元々キャメロンが悪いのだろう。キャメロンは息子共々既に地獄に落とされて罪を償っておる。その方が堕ちる意味はない」
「しかし、閻魔様。私は人倫劣ることをアルヴイン様に行いました。アルヴィン様との子供も亡くしてししまいました」
「ああ、あの魂の子供だろう。お前の所に再び帰りたいと申しておったから、そのまま貴様のお腹の中に返したが・・・・」
「えっ、ジェイクはでは元々アルヴィン様との子供の魂だったと」
オードリーは絶句した。
「そうじゃ。だからその方がアルヴィンに後を頼んだのは何も間違っておらんぞ」
「そうですか・・・・」
オードリーは心のつかえが一つ取れた気分だった。
ジェイクの事をアルヴィンに頼まざるを得なかったのは心痛だった。でも、アルヴィンとの子供の魂ならばアルヴィンも少しは面倒を見てくれるだろう・・・・。
そう思いたかった。
「そう言うことになる。そもそもアルヴィンはシャラと一緒にこの地獄を脱獄した重罪人である。そのような悪逆非道な重罪人に対する罪など儂が問う訳はないわ」
閻魔が言って、机を叩いた。
「オードリー、それほど苦労がしたいならば、再び地界で苦労するが良い」
「しかし、アルヴィン様に会わせる顔がありません」
「ふんっ、重罪人にそのような遠慮は不要じゃ。二人を夫婦にするわけにも行かぬが、いずれそのような機会も巡ってくるだろう。今世はその方らの息子共々悪逆非道な重罪人共を振り回すが良いぞ」
オードリーの反論を無視して、閻魔は杖を振った。
オードリーの魂はオードリーの意志に反して地界に飛ばされていった。
そして、彼女の魂は地上のとある妊娠に全く気づいていない女のお腹に宿ったのだった。
地界ではブリエントらから逃げ出したシャラは再びジャルカの庵の傍の村に帰ってきていた。
そこで農耕生活に戻ったのだが・・・・・
「申し上げます」
毎日のように早馬がマーマ王国の城があったところからやってくるのが鬱陶しかった。
その中には今日のようにアルヴィンやブリエント自身が来ることもあってシャラは本当に迷惑していた。
「アルヴィン、そもそもお前は元々王子なんだから、私の代わりに国王をやれば良いだろう」
吐き捨てるようにシャラは言った。
「まさか。シャラの姉御を差し置いてそのような事は出来るわけもなく」
アルヴィンはそのシャラの前に跪いていた。
「誰がなんと言おうと私は・・・・」
突然、シャラを吐き気が襲った。
「オゥェ・・・・」
思わず、吐き出していた。
「げっ」
もろにそれは跪いていたアルヴィンにかかる。
「姉御どうされたのですか。毒でも飲まされたのか」
自分の被害はさておいてアルヴィンが心配して駆け寄る。
吐き気がおさまらないシャラは手を上げてそれを止める。
「おっほっほっほっ」
後ろからジャルカの笑い声がした。
「笑い事ではないですぞ」
「シャラは毒など飲んでもびくともせんて」
アルヴィンの怒った声に笑ってジャルカが言う。
「ジャルカ様」
非難を込めた視線でアルヴィンはジャルカを見る。
「それよりも、おめでたではないかの」
ジャルカはここで爆弾発言をした。
「お、おめでた?」
アルヴィンが固まる。
「ええええ」
全員絶句した。
「姉御に赤ちゃんが出来た!」
思わずステバンが叫んでいた。
「そんな馬鹿な」
「相手は誰なんですか」
周りの面々がびっくりして言う。
ただ一人真っ赤になったアルヴィンが固まっていたのを除いて。
そして、シャラは相変わらず、口を抑えて吐き気と戦っていた。
まさか、考えられるのはあのクローディアに酷いことを言われて酔った勢いで意識をなくしてしまいアルヴィンと寝てしまったのだ。
無かったことにしようとしていたのに、子供が出来るなど想定外だった。
シャラにはそれしか覚えがなかった。
蜂の巣をつついたような側近共の問い詰める声の騒ぎの中、シャラは口を抑えて、どうやってこの場を誤魔化すか心の中で頭を抱えていた・・・・
**************************************************************
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
オードリーがかわいそうとの意見多数あり、少し話し続けました。みなさんのご要望を満たせたとは思いませんが、多少なりとも良かったと思っていただければ幸いです。
この話はしばらくお休みします。
娘の命を救うために生贄として殺されました・・・でも、娘が蔑ろにされたら地獄からでも参上します 古里@3巻発売『王子に婚約破棄されたので @furusato6
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます