第二章 赤と青の少女(5)
一瞬、言葉が詰まった。見抜かれてる…!
ラスタスは、身体中の血の気が一気に引いていくのを感じた。しかし必死に平静を装う。
「う、うん…!そう!会ったの、女の子に」
セイファートは表情ひとつ変えず、一呼吸置いて、
「やはりそうですか…」
「でも、どうしてそんなことが判ったの」
「夢を、見ました」
「夢?」
「はい。あなたが、ふたりの少女と会う夢でした」
「……」
「そしてその少女は、赤と青のイメージが強烈でしたが…」
「そうそう! セイファートの言うとおり、青い髪と、赤い髪の女の子だった…」
ラスタスは驚いた。全てはフライング・カフェでセイファートが言った通りだ。ここまで正確に予知ができるマスターは、我が軍には他にいない。
さすが、総合レーティング・予知能力レーティング共に”A”のセイファートだ。
素晴らしい。そして、怖ろしい―
ラスタスは、彼に対して畏怖のようなものを感じ始めていた。
ふと、ラスタスの中である考えが浮かんだ。
セイファートなら、ミランダのことが判るかもしれない…!
彼の予知能力を使えば、ミランダの居場所も、安否も確認できるかもしれない。
ラスタスは一瞬、セイファートに縋りたい気分に駆られた。ここは思い切って訊いてみようか…
気がつくと、思わず声に出していた。
「あの、セイファート…」
「なんですか」
「あのね…」
一瞬、静寂が流れる。
「い、いえ…」
喉から出かかった言葉を、ラスタスは飲み込んだ。
「ごめん、なんでもない…」
落ち着けラスタス、冷静になれ!
ミランダのことはあくまでも私事。しかも、今や彼女は敵国の人。
ここは我慢して、極力、他人には漏らさない方がいいだろう。
否、漏らすべきではない!
「そうですか」
セイファートは特に勘ぐることもない様子で、さらりと言った。
「でも、なにかありましたら遠慮なく相談してください。力になれるかもしれません」
「あ…、ありがとう。じゃあ、今日はこれで。おやすみなさい」
「おやすみ」
青白い街灯の下で、ふたりは別れた。
夜も更けた頃、宿舎の寝台の上で、ひとりラスタスは考える。
(なにかありましたら、遠慮なく相談してください)
セイファートの言葉に、少し心がほっとする。ラスタスは思った。
(ゼアよりずっと、親切じゃない…)
しかしあの言葉は、裏返せばラスタスが何らかで悩んでいたことを察していたことになる。
やはり怖ろしい人かもしれない…、ラスタスはそう感じた。
翌日。
廊下を歩くラスタスを、ゼアが呼び止める。
「ラスタス、明日の訓練の件だけど…」
「あ、明日はお休みいただいたの。さっき休暇の許可もらったところ」
「えっ、ついこないだ非番だったじゃないか」
「うん…。でも行くところがあって…」
その「行くところ」をゼアはすぐに察した。
「また、教会か?」
「ん…」
ラスタスは頷いた。
ラストテレパシー -The Last Telepathy- 原田 実季 @PULSE_5
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