第37話 最終話 二人の忠臣

 信栄、俺はお前の態度にもどかしさを感じていた。追放処分を受けた時、どうしてお前は反論しなかったのだ。上様に今までの佐久間家の忠誠と戦功を述べ、揺るぎない忠義の心を書き連ねれば、上様は信栄をもう1度召し抱えるのではないかと思っていた。

 しかし召抱えられた後、信栄はどうなるだろう。 上様を取り巻く悪い家臣が黙っていまい。

 俺が信栄を守れない以上、信栄は何また失脚するであろう。 最悪、殺される可能性すらある。それを思うと信栄は、ここで気楽に生きた方が幸せかもしれない。

 今は、これで良かったと考えるようになった。 お前は、ここで生きて行くのだ。

 信盛は、信栄と心が通じたように思えた。信栄は、父がここ半年で急激に変わるのを目の前で見てきた。 父は追放処分がよほど心に堪えたのか、あっという間に手足が萎えて痩せ細り、 数日前から風邪をひき寝たきりになってしまった。

  しかし風邪が治り正気に戻れば、以前のようにまた元気になるであろう。信栄は、父と二人で以前のように茶の湯を楽しもうと心待ちにしていた。

 今、父がここで生きようと語りかけてくれ、信栄は力強さを感じここで生きようと希望が生まれた。

 信盛は信栄と語り合った後、急に空を飛び気付いた時には寝ている上様の側に立っていた。

 信盛は、上様にも語りかけた。

 

上様、上様の人情味のない強引なやり方では、人々は付いて来ませんぞ。

 上様、どうか考え方を変えてくだされ。


しかし、上様にその声は届かなかった。

 信盛の意識が再び戻ったのは、 燃えている寺の部屋の中だった。

 上様は、白い和服に血糊が付き小刀を持って立っていた。

 上様は、明智に謀反されても強気だった。 明智に対して戦う決意を固め、自分の首は絶対に渡さないと覚悟を決め、寺に火をつけさせていた。

 上様は、見事に切腹した。

 彼の闘志は意識があるまで続き、切腹の後も前を向き、声を上げて目は睨み怒り続けていた。

 ふと、上様は目の前に佐久間信盛と平手政秀の二人が立っているのに気がついた。

 上様は、やっと自分の非を悟った。

  二人は織田家のために尽くしてきた忠臣で、彼らの忠告を無視した結果こうなったのだ。


「信盛、政秀、与は、、、。」


 上様は腰を浮かせたが、柔らかく信盛はこれを遮った。


「この期に及んで、申されますな。

今は浄土にて、再び上様に見えることのみが楽しみ。続きは、浄土にて。」


 上様は途切れる間際、二人の幻を見た。

 

 彼は、2人に導き導かれて浄土への道を迷うことなく歩み出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

炎の本能寺 @michiseason

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ