畑を見に行ったら地面にマグロが突き刺さってた話

安川某

青森のとある日の出来事


 あれは夏の始まりのある日のことだった。


 おらがいつものように畑さ行くと、マグロが地面に突き刺さってた。


 マグロはまだ生きてるみてえで、びったんびったんって尻尾を振り回しながら地面に垂直にそびえたってた。


 あれはどう見ても100キロ以上はありそうな見事なクロマグロで、ついさっきまで海で泳いでたんじゃねえかってくらい元気だった。


 でも畑さ突き刺さってた。


 おらびっくりしちまって腰を抜かして、その場さへたり込んだんだ。


 したら急にマグロが、「頼む、起こしてくれ」って話しかけてきた。


「誰じゃおめえは」


 っておらが思わず言うと、奴は「マグロ以外に見えるか? 起こしてくれ」って言ってきたんだ。


 珍しいこともあるもんだ、マグロが日本語で話しかけてくるなんて。


 そう思っていると、おらの考えを読んだのか「インドマグロはインド語で喋るぞ」って奴が言った。


 おめえそんな馬鹿な話があるかそれにインドはインド語じゃなくてヒンディー語だっつーのっておら思わず吹き出したんだけども、まあこれも縁というやつだし、ここは助けてやるかー思うて、マグロの尻尾を掴んだんだ。


 そしたらヌルって滑ってさ、そりゃ魚だから当たり前なんだが奴は全身ヌルヌルのネバネバで。尻尾握った手を上下に擦るとヌルヌルヌルヌルしよるやろ?


 ヌルヌルクチュクチュヌルヌル……。


 おらもうなんだかエッチな気分になっちゃってさ、しばらくその場でヌルヌルシコシコやってたんだ。


 したらマグロの奴怒ってさ。


「それ以上シコるなら許さない」


 とか言ってくるもんでおらまた吹き出しちまってさ。


「何言ってんだおめえマグロのくせに刺身にすっぞ」


 って力任せに尻尾をシコったら、より深く地面に刺さっちまって。


 身体の半分くらい畑に埋まっちまった。


 ちょっとやりすぎたかなっておらも思って謝ったんだけども、マグロの奴意外とへっちゃらみたいで、「そういえば」って何か思い出したようにこう言ってきたんだ。


「友達を見なかったか、私と同じクロマグロで目がぱっちりした可愛いメスのマグロだ」


 そんなんどっかの市場で競りに出されてるんじゃねーかって答えてやったら「ええ……」ってドン引きしよるやろ。


「ところでここはどこだ?」


 ってまた聞いてきたから、ここは青森の王間だって教えてやったんだ。


 したら「王間イガー」とか駄洒落言い始めるからいよいよ末期だなって思ったのよ。


 ここ青森じゃマグロなんて珍しくもねえし、正直飽きてきたんでこの日はこれで家に帰ったんだわ。


 んで次の日また様子を見に行ったんだけどよ。


 そしたらなんか増えてた。


 地面にクロマグロが二匹突き刺さってんのね。さすがのおらもびっくりしちまって、呆然としてた。


 したらクロマグロが話しかけてきて、「産んだ」って言うのよ。


 産んだって何? 子供を産んだんか? って聞いたら「そうだ」って言うの。


 おめえどんな繁殖力して……野生のセックスモンスターですらそこまで早く増えないってのになんでまたってびっくらしたわ。


 このままじゃ明日には三匹、四匹ってどんどん増えて青森がマグロにやられちまうっておら思ったからよ、地面から引っこ抜いて海に帰してやることにしたのさ。


 んで二匹の尻尾を掴んで引っこ抜こうと力んだんだけど。


 ヌルヌルネバネバ引っこ抜けないわけ。


 もう、またエッチな気分になってきちゃって、しばらくそこでヌルヌルシコシコやってたんだ。


 そしたら警察が通りかかってさ。たまたまおらが”イイ顔”してるときにばっちり目が合っちまったんだ。


 もうすぐに応援呼ばれてさ、気がついたら青森県警の取調べを受けてたんだ。


「おめえあそこにマグロ植えたろ」


 って言うもんだから、「いやあ、あれは最初からあそこに植わってたんだ」「嘘つけえ、柴漬けにすっぞ」って水かけ論議の前田のクラッカー。


 日が暮れるまでそんな調子でわいのわいの言って疲れちまった。


「ところであのマグロの奴はどうなったんだ?」


 っておらが聞いたら、警察はこう言ったんだ。


「あのマグロなら競りに出した。今頃は寿司屋のまな板の上よ」


 おめえ、なんてことするんだって……! マグロとはいえ心通わせたあいつを、まるでマグロのように扱うなんて非情にもほどがあるだろ……!


 おら涙出てきちゃって。こんなに泣いたのはいつぶりだろか、昨晩ネットフリックスでウミガメの産卵見てたらあいつら泣きながら卵産んでたからおらも真似して泣いたっけ、じゃあ昨日ぶりだ。


 じゃあ別に大したことないわって思っておら開き直ったんだ。


 結局おらは変質者として処理され、厳重注意で釈放された。


 別に変質者って言っても、男はみんな潜在的に変質者だからどうってことないべな。


 んでマグロの話だけど、もちろん翌朝例の畑さ見に行ったんだ。どうなったと思う?


 三匹に増えてた。


 おめえ出荷されたんじゃねーのかって聞いたら、「へそから上の部分だけ出荷された」って言うのよ。警察も器用なことするなって感心したわ。


「じゃあおめえへそから下だけでなんで生きてるんだ」って聞いたら、「時間が経てば生えてくる」っておまえはカニの足かなんかかって思わず突っ込んだのよ、ビンタで。


 そしたら根本まで埋まっちゃって。


 もう身体の9割以上が地面に埋まっちまって。尻尾の先だけまるで若葉のように地面から顔を出してるのよ。

 このまま水でも与え続けたら花でも咲かせるんじゃないかって。「マグロの花が咲きました」ってやかましいわ。


 やべえやりすぎたかもって思ったんだけど、よくよく考えたらもうこれはこれでアリなんじゃないかなって思い始めて。そういうもんだと思えばそれほど気にならないと言うか。


 残りの二匹も根元まで埋めたんだ。


 心なしかマグロたちが「ありがとう……ありがとう……」って言ったような気がしたな。


 そんなこんなでもう、十年が経った。


 あの日以来、畑にマグロが刺さってたことはない。


 今日も青森は平和だし、おらはかーちゃんと毎日ヤってる。


 それでも思い出すんだ、あいつのことを。


 マグロが地面に刺さっていたのは、愚かな人類が自らのエゴに溺れて地球環境を侵食し続けた結果なのではないか。


 人々が生きるということ、そして自己の存在と生こそが母なる大地にとっての大病であるという大いなる矛盾、無自覚の大罪を背負っていることにいつの日か気づくことそれがこの宇宙で人類が人類であることから脱却し新たなコスモユニバースへの一員としての資格を得ることができるかどうかという問いに対する答えなのである。



 士魂を讃えよ。空へ嘆け。


 堕ちてこい。青森、そこはまるで千葉。


 ユニバース イズ アテンション。


 ユニバース イズ アテンション ナウ。


 to be continueed...

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畑を見に行ったら地面にマグロが突き刺さってた話 安川某 @hakubishin

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