第11話






魔王部屋の隣の部屋で僕たちは水晶玉を眺めていた。


水晶の中には外の世界の景色が映っている。


空から見下ろすような角度で、ちょうど4人組の冒険者が歩いている所を水晶玉が映し出す。


新しい勇者が、国からうけた大義名分を背負って、この城の近くまで来ているそうだ。


水晶の玻璃はりの中に青い瞳を映したユシアが、メティナに尋ねた。

「もしかして私がレイカを殺した所も見てたの?」


「レイカはやはりユシアが殺したんですか⁉」

僕は『レイカが魔物にさらわれた』と言っていたユシアを思い出す。


「過ぎた事よ。レイカはバルドラグ人だったし、手が滑っちゃったの。 それが事実よ」

ユシアはメガネを外して水晶玉が置かれている台にコトンと乗せた。


メティナは不思議そうに僕を見つめて、眉を細めながらつぶやく。

「あれ?確かグランも男の人を────


「蘇生が間に合わなかったんです。魔力切れが運悪く起こってしまって。 本当ですよ?」


ユシアは髪を軽く整えて、メティナに指をさしてその指先を振ってみせる。

「天罰って奴よ、て ん ば つ」


「そうです、そうです。それに、ここだけの話なんですが、ジェイクは魔王が勇者一党に送り込んだスパイだったんですよ」


ユシアは軽く笑って口を開いた。

「勇者の系譜けいふを継いでいたジェイクが? グラン、冗談っていうのはオチが必要なのよ?」


メティナは顔を歪ませてユシアに指をさし返す。

「ユシアって勇者じゃなかったの⁉」


斜に構えたユシアは演技じみた態度をとってふざけてみせる。

「ええそうよ。私が勇者だなんて名乗った事あったかしら?私の職業はそもそも【盗賊バンディット】よ」


それを聞いたメティナはまるで頭の悪い子供のように驚いて叫んでいた。



水晶に映る新しい勇者たちが、丁度メティナと僕が出会った場所を通っていくのが見えた。


僕はメティナの手を取って、新しい勇者たちを迎えにいく。


なんだか不思議な感じだ。


世界の全てを敵に回しても僕たちは、なんら怯える事なく、食い詰める日々を過ごす事も無く、意味の無い復讐に身を投じている訳でも無かった。


「グラン、アタシの事を好きになったのっていつなの?」


僕はその問いに答える事は出来なかった。ただ手を強く握って笑顔で返した。



今を尊んでいた。

雲のない空に、眩しい夕日が沈んでいく途中だった。


僕らの前に立ち向かっている彼ら、新勇者たちは剣を構え、杖を掲げ、弓を引き絞り、拳を向けてくる。



「卑怯だぞ!5対4なんて!」

剣を構えた勇者らしき男が僕たちを糾弾きゅうだんしてくる。


その男にユシアは2刀の剣を差し向けてこう言い放った。


「何故そう言い切れるの?あなたたちが敗北する確証なんてないでしょう?」


さすが、副魔王のユシアだ。言葉の圧だけで相手の勢いを殺してしまった。


澄んだ空に沈んでいく夕日が、新しい四天王の僕たちと新しい勇者たちを照らした。


僕たちの影を遠くへ、遠くへと伸ばしていく。



「かかって来なさい勇者共!アタシたちの愛と復讐の力を超えられるものならやってみなさい!」

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偏影 三屋久 脈 @MyakuMiyaku

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