第20話…鈍感
気持ちを伝える前には、
あれだけ見えていたものが、
途端に見えなくなるのは。
俺がやっぱり下手くそだから。
20……鈍感
「悪い、遅くなったっ!」
[遅いなぁ、正人。練習しろってうるさいお前が、遅刻かぁ??でも、今日は全然良いよ、おかげで楽しい時間過ごせたし。]
ニヤニヤしながら、シゲが目線を送る先。
「えぇ?!…何でいんの??」
夏休み最後のバンド練習。
珍しく遅刻した俺に待ち構えていたのは。
『ごめん…突然。』
紙袋を抱えた彼女で。
[一番乗りしたら、まりなちゃんが居てさー。正人に用事だって言うから。待ちな待ちなっつってさ。]
『あの、これ……。』
紙袋を差し出されて。
中身は安易に分かってしまって。
「いや、学校始まってからで良かったのに。」
『でも…学校で渡すと、なんか…。ありがと、助かった。』
紙袋を受け取ると、
彼女は少し照れたように笑った。
髪を撫でたい衝動にかられるけれど。
シゲ達の手前、
どうにも上手く出来なくて。
『じゃあ…またね。』
「あ、うん……わざわざありがとね。」
当たり障りのない会話を、
紡ぐことでしか出来なくて。
彼女が部屋を出ていく瞬間。
一瞬だけ、こっちを振り返って。
小さく手を振った。
あの日と同じ光景に、胸がきゅっとなる。
[おいっ!なにやってんだよっ!]
ぼんやり彼女の姿を見送ってると。
扉が閉まった瞬間、
シゲの手がパシッ!っと、
俺の頭に命中。
「痛ってぇ!なんだよっ?」
[お前なー、だから、ダメなんだよっ!]
「何が…?!…っ痛ってぇ。」
[それ、夏休み終わった後に返す予定だったんだろ?]
「ん、……ん?なに?」
[あ゛〜…なんか分かったわ。お前が結局、女の子と何も起きない理由。]
「ほっとけ。」
1人頭を抱えて、でも、納得してるシゲが、
よく分かんなくて。
とりあえず、ギターをケースから取り出して。
「あっ、なにすんだよっ!」
練習しようと、肩にギター掛けようとしたら。
シゲが俺からギターを奪って、
[今日はバンド練習なんてさせねぇよ。]
「何でだよ、バンド練習に来てんだけど。」
[今日はお前、女心勉強した方がいい。今から俺が教えてやるから。]
「シゲに聞いても、役立つのかよ?(笑)」
偉そうなシゲに笑ってしまう。
[少なくとも、俺はお前よりは女心は分かる。恋愛レベル底辺にいるお前よりはな!]
そんなん言われたら、何も言えなくて。
素直に近くのソファに座った。
「じゃあ、聞こうじゃん。お前の恋愛講義。」
[よしっ、まずは…さっきの。何がダメだったか、言ってみ?]
「さっきの?……なにがダメだったか。」
シゲの言葉に、さっきの自分を思い起こしてみる。
わざわざトレーナー持ってきてくれて。
ありがとう、だし。
まさか、あそこで髪撫でてぎゅって?
いやいや、シゲ達いるし。
なんで、そんな辱め受けなきゃいけないんだって話で。
[タイムアップ。あのなー、学校で渡せばいいそれを、わざわざ夏休み最後のバンド練習の場に来て、渡す彼女の意味、分かんないの?]
「学校だとマズイからだろ?」
[お前、その鈍感さでよく過ごせるな。……お前に逢いたくなったんだろ?]
「………っ?!」
[花火…一緒に見たんだろ?]
「……いや、あの……」
あの日のことを、
あれこれ言えるほど、
俺はまだ、あの日が現実味帯びてはいなくて。
[正人が、花火の日、すげー優しくて、ずっとずっと優しくて、で、気づいちゃったんだって。正人がずっと傍に居てくれてるって。そこに気づいたら、途端に不安になったんだって。]
「不安……?」
[お前ら、何かあった?……正人が女慣れしてるって。]
「はぁ?んな訳ないっつーの。……あの日、花火の日。彼氏さんと別れて泣いてるの見つけて…一緒に花火見て。で、まりな、心細いのか、すげー自信なさげにしてて。…だから、つい…気持ち言っちゃって…。俺はずっと彼氏さんに浮かれてたあいつも、浮気されて泣いてたあいつも、知ってて、見てきて。…でも、彼氏さん居なくたって、こんなにあいつを想ってるヤツがいること、分かって欲しくて。」
[……(笑)お前からしたら、好きな女にただただ優しくしてるだけなんだろうけど(笑)手紙の誰かに対してもそういう風に出来るから、モテてるんだって腑に落ちたみたい。]
「俺、そんな器用じゃない。」
[だよなー(笑)女慣れしてる、って、お前のどこをどう見たらそうなるんだろうな(笑)?]
「………。」
[だから、逢いたくなったんじゃないかな。]
「ん?」
「正人の気持ち、確かめたくなる、みたいな?俺、言ったよ?正人は誰に対しても優しく出来るような器用なヤツじゃない、って。そしたら、まりなちゃん、『私もそう思う、正人くんは器用じゃない。』って言うから。」
「分かってんじゃん。なら……。」
[でもさ、正人が頭抱えてる手紙の山を、まりなちゃん知ってるし、そういうの見ちゃうと…正人が自分を見てくれてるとは、思えないんじゃない?自分より可愛い子がいたら、そっちいくんじゃないか、とか。正人には自分よりもっといい人がいるんじゃないか、とか?多分、花火大会以降、すげー正人のことあれこれ考えたんだと思う。]
「………。」
[不安だから逢いたくなったんじゃない?夏休み明けでいい、って正人に言われても、花火の日のこと、ちゃんと現実だったのか、正人が自分を好きっつったのは、ホントなのか。…不安だから、またすぐに逢いたくなる。]
「まりながそう言ったの?」
[話してたら分かるよ、そんなん(笑)!正人の好きなタイプとかさ。手紙の誰かから告白されて付き合ったことある?とか。むしろ、してる話の8割、お前の話だし(笑)]
「………っ!///」
シゲの言葉に
思わず、照れてしまって。
顔を両手で隠して、小さく息を吐いた。
[だから、…さっき!何で「ありがとう、また!」で終わってんだよ?!そこは、「バンド練習すぐ終わらすから待ってて」だろ?「そのまま練習見てく?」だろ?……お前、ホント女心分かってねぇな!お前だって、逢いたかったくせに。]
「連絡くれればさ…。」
[お前は連絡出来たのかよ、花火の日からこの数日。出来てねぇだろ?(笑)まりなちゃんにそれ求めてどうすんだよ。まだ別れたばっかで、すぐお前にいけるほど、傷癒えてないし、好きだって言われても、余裕ないし。だから、余計不安になる。正人なんて、只でさえ、ケータイ見ない男なんだから。連絡くれれば、とか…お前が彼女引っ張ってやんないでどうすんの?お前は、俺についてこい!ってタイプではないけど、ちゃんと全部を受け止めてあげられるよ!って包容力が武器だろ?お前の!]
シゲにド正論投げられて、
俺は手も足も出なくて。
鈍感すぎる自分が嫌になる。
「じゃあさ…さっき気持ちのまんま、引き止めて良かったってこと?」
[俺が彼女と話してる限り、お前のこと、かなり気にしてるから、このまま必死に気持ち見せたら、振り向いてくれる率は高いな。気にしてるうちに、一気にいくんだよっ]
「荷が重いわ、それ。」
[俺がいるから大丈夫って、態度で言葉で伝えてみ?必死に。]
「声と手と…捉え方が好きって言われた。でも…まだ元カレのこと…頭に在るんじゃないかな、って。だから、これ以上、踏み込めないっていうか…。」
後悔してない、って言った、
あの日の体温ですら、
今、この瞬間に、
彼女の中に残っているか、曖昧だから。
[……(笑)お前の好きなとこ、もっともっと増えたら、彼女になるんじゃねぇの?]
俺を気にしてくれてる、って。
体温交わしたあの瞬間には、
確かにその感覚があって。
俺に意識向けてくれてる、って。
少し自信が出てたりもして。
でも、それは、
逢わなくなると、途端に小さくしぼんで消えていく。
彼女も同じなのかもしれない、って。
シゲの言葉でようやくそれに気がついた。
***
『シゲくん、アイスこれで良かった?』
………!!!
そんな話をしてると、
彼女がアイスの袋を抱えて戻ってきた。
[あー、ありがと。アンプの機材とか多くて、すげーここ暑いからさ。助かる、サンキュ。]
シゲはニヤッとして、
俺の背中をバシッ!と叩いて。
彼女が買ってきたアイスを物色し始めた。
なんか…シゲ見習いたいけど、
そんな器用にはなれねぇな、とも思う。
恋愛に関しては、シゲのが経験値が高くて。
アシストの上手さ、すげー絶妙すぎて。
ビビるんだけど。
[正人は?なに食う?]
何事も無かったかのように、
俺に話しかけるシゲは、
俺のこと、やっぱりよく分かっていて。
心許してしまう。
「んー、ガリガリ君ある?」
『ごめん、ガリガリ君無い。』
「そっか、じゃあ…」
何があるか聞こうと。
彼女が持つコンビニ袋を覗き込もうとしたら。
『うっそー!(笑)シゲくんに言われて買ってあるよ。正人くん、ガリガリ君好きなんでしょ?』
また得意げに笑う彼女がいて。
「その一回落とす意味分かんねー(笑)」
差し出されたガリガリ君を、
受け取りながら、つられて笑う。
[皆でアイス食べてから、しょうがないから練習すっか。暑いからやりたくねぇなー。]
『マンガ三昧してると、正人くんの練習の邪魔だからね?!』
[怖っ!正人、監視役見つけてくんなよー(笑)]
『正人くんから、直々にお願いされてるので、ビシバシいくよ!ドラムはリズム隊の要だからね?』
………それ、俺が前に饒舌に話した言葉の受け売り(笑)
シゲと彼女の会話に、ついはにかんで笑ってしまう。
「まりな、ここ居て。」
機材の端のソファに座らせて。
一瞬、彼女の頭を撫でて、髪をクシュとして。
『……っ!///』
ギターを肩からかければ。
やっと出来上がった曲のバンドスコアを
皆に配った。
「侘び寂び効かせて、メリハリ作って。シゲ、細かくリズム刻んで。」
頭の中のメロディが、しっかり具現化するように、
リズム隊に指示する。
彼女はジッと俺を見つめていた。
♪♬カツッ…カツッ…カツッ…カツッ……♪♬
静かに始まるスネアドラムのリムショットからの、
ストラトキャスターのギターリフ。
彼女の視線を独り占めしたくて。
アルペジオを重ねて、指を細かく動かす。
頭の中にしかなかったメロディが、
耳に届く瞬間は、やっぱり興奮してしまう。
彼女の身体が音に乗って小さく揺れるのを見て。
やっぱりこれがやりたいと思った。
それと同時に、
どうすれば、彼女の欲しい安心を
あげられるんだろう、って。
そこばかりを気にして。
俺にはあの日が精一杯で、
それを言い訳にして、
鈍いヤツでごめん、って。
彼女に心の中で謝っていた。
爆音エモーショナル 柚葉 @and_rock
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