第19話…残り香
これを抱えて過ごすには、
やっぱり、どうしても。
俺は不器用すぎて。
耐えられないの、分かってて。
欲しがって、しまった。
………しまった。
19……残り香
「…んー…。」
『………???』
「……何でもない。」
彼女と向かい合って、
横になって。
彼女の肩に腕を乗せて。
首元でロックかけたまま。
彼女の頭の後ろで、緩く自分の手を絡めた。
これは夢、なのか。
はたまた、どっか別の場所の話、なのか。
とにかく、必死に現実を探して。
時折、ちょっと不安になって。
彼女を引き寄せると、髪に軽くキスをして。
体温交わした後、俺はまどろむ様にぼんやり過ごした。
「うー……ん」
『ん……?』
「あのさ、……何でそんなにさぁ……」
言いかけて、やめた。
彼女の可愛さを議論する、意味が。
特に見当たらなくて。
無意識に心臓バクバクさせる、
彼女の仕草の意味、なんて。
きっと彼女ですら、分かってないと思うから。
「うぁ……。」
『何ー…?さっきから。』
「……むり。」
『え?何が?』
俺のこと、チラッと上目で見つめてきて。
不思議そうな顔するから。
目が合ったら、全て悟られそうで。
思わず、枕に顔をボフッと埋めた。
「お前…可愛すぎた……。」
指に残る感覚、だとか。
さっきまで色気爆発させてた表情、だとか。
俺を呼ぶえろ…い声、だとか。
思い出しては、1人悶えて。
つい、トータル。
感じたこと呟けば。
『………っ///心の声、出てますけど。』
「出さなきゃ、俺、心臓モタねぇもん。何でさ、そんなに……っ」
そう言いながら、顔を上げて、
彼女を見ると、また。
ぎゅってなる、表情してくるから。
「……可愛…すぎんだけど。…うぜー…っ」
完全に俺は負け犬、彼女に負けんのも、
悪くない、とか思ってる時点で、
先に惚れた方の完全敗北。
『うぜーってなによ(笑)』
クスクス笑って、はにかんで。
彼女は俺の重い前髪に触れた。
彼女の目をジッと見つめると、
はにかんで、見つめ返してきて。
ちょっとは俺、好かれてんの?って。
一瞬、自惚れそうになる。
頭の中の思考を、好きすぎてたまらんそれを、
前髪を軽く上げられて、読み取られそうで。
ほんの少し、緊張した。
「自惚れそうになるからやめろ。」
『可愛い、正人くん、目ぇキレイ。』
「そんな表情、他の男に見せたら、お前信用しない。」
『意味分かんない…(笑)』
「俺だけ。…分かってんの?」
ジッと見つめて、念押して。
だって、彼女のその視線に、
ほんの少し、愛しさが乗っかってる、
そんなん、他の男にしてたら。
俺は、また。
嫉妬を抑えなきゃいけなくて。
独占欲、って。
時に、すげー厄介すぎて、
しんどい。
『ねぇねぇ、浴衣また着れない…どうしよ』
ふわふわと緩い時間が流れてたから。
頭が上手く働かない。
「んー…俺の着る?」
『着れそうなのある…?』
俺はムクッと起き上がると、
ベッドから下りて、
彼女が着れそうな、トレーナーと短パンを探した。
「風呂入ってから、これ着な?風呂は…階段下りた右。バスタオル、洗面所の横の棚にあるから。」
彼女にトレーナーのセット渡すと。
彼女は下着を探して掴むと、
浴衣で身体を隠して。
立ち上がった。
「……(笑)」
浴衣を小さく掴んで、ヒラっと上に捲ってやると。
浴衣捲りには、男のロマンがあるのに。
『ちょっ……変態っ!///』
って。
バッと浴衣を抑えるから。
「なに隠してんの?今更だって(笑)」
『見るなー。』
そう言いながら、彼女は念入りに浴衣を抑えて、
部屋を出て行った。
近くのコーラを手に取って、
ゴクゴク飲んで、喉を潤す。
「はぁ……。」
途端に、今までの甘い時間からの、
この静けさの落差に、
ひどく、怖くなって。
何かを振り切るように、
服を着替えて。
ギターに逃げるように、
ギターを抱えて、思いっきり指を弾いた。
ジャカジャカ、指を細かく動かすと、
震えるような音が出た。
彼女が戻ってくるまでの40分が、
とてつもなく長く感じる。
早く逢いたくなって。
声が聞きたい。
俺がこんな気持ちになってる、なんて。
彼女は知らないんだろうな。
***
『お風呂、ありがと。ドライヤー借りたよ?…サッパリした。』
「………っ!」
『メンズってやっぱりちょっと大っきいよね…(笑)』
手を広げて、その場でクルクル回って。
女の子がメンズ着るときの、
ちょっとダボつくシルエットが、
トレーナーの裾から覗く指先が、
すごく可愛い、って感覚。
今まではよく分からなかったけど。
これかー、って。
妙に納得してしまって。
俺、完落ち。
「学校始まったら、返してくれればいいから。」
『ん、助かった、ありがとう。』
俺の隣に座って、
彼女はまだほんのり濡れてる髪を、
手櫛で整えて。
「……っ」
その仕草に、思わず。
肩を抱き寄せて、きゅっと抱きしめた。
『……(笑)』
小さく俺の服を掴んで、
それを受け止めてくれるから。
彼女の肩口に顔を埋めて、力を込めた。
小さく息を吸うと、
ふんわり、彼女の香りがして。
俺、いつからこんなに。
彼女を独占したくて仕方ないんだろう。
ホント、どうしようもないな。
そんな本音は、やっぱり言葉にはならなくて。
ただ、その腕に力を込めるだけで精一杯。
『正人くんの…そういうとこ好き。』
「ん?」
『いっぱい考えまくるんだけど、どうしようもなくなって、諦めちゃうの。…すごく正人くんらしい。心がキレイだから、目もキレイ。』
「褒められてんのか、分かんない(笑)」
『褒めてる、褒めてる。無責任なことしないし、言わない。』
「いや、言ってるって。矛盾だらけだもん、俺。自分で分かる。」
今、だって。
独占欲のかたまりなのを、
隠そうと必死になって。
彼女を帰さないで済む方法を、
必死に考えて。
でも、いつかは帰ってしまうもので。
もうすっかり困り果てているから。
「心細さ、消えた…?」
そう聞いたのは、
心細さが消えてしまったら。
俺は彼女の中に残ってられるか、
ほんの少し、自信がなくて。
あの、自惚れそうになった瞬間を、
ひどく取り戻したくなった。
甘い空気は、きっと。
それくらい甘くしてないと、
その後に襲う、ほんの少しの酸っぱさや、
しょっぱさが耐えられないからで。
俺は彼女の帰った後の1人の部屋に、
耐えられるか、自信がない。
***
「ホントに送らなくて平気?」
『うん、大丈夫。』
玄関先まで送って。
バイバイの瞬間。
「……っ」
『……正人くん?』
俺の手は、また1人になることに、
ひどく抵抗して。
彼女は不思議そうに、俺の名前を呼んで。
きゅっと引き寄せると、
その華奢な身体を抱きしめて。
小さく彼女の香りを吸い込む。
忘れてしまわないように。
少し離れると、
………ちゅっ。
軽く優しくキスをして。
小さく頭をポンポンと撫でた。
『バイバイ。…また連絡する。』
「ん、俺も。気をつけてな?」
玄関の扉が閉まる瞬間。
彼女は振り返って、小さく手を振った。
分かってる、こんなに。
記憶に残してしまうような出来事を、
一気に重ねてしまっては。
全てが鎖のように、繋がって。
ボロボロと溢れてしまうことくらい、
安易に分かるはずなのに。
俺が器用じゃないせいで。
バカなせいで。
幾つも幾つも。
彼女の抜け殻を重ねた。
部屋に戻ると。
彼女の残してった匂いに、
たまらなくなって。
「あぁーーーーっ!///」
ベッドにダイブして。
枕に顔を埋めて、押し殺したように叫んだ。
今年最後の花火。
からの、これ。
忘れられないな…一生、多分残ってくんだろうな。
それがたまらなくドキドキした。
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