君への遺書

哘 未依/夜桜 和奏

君への遺書

那乃へ


 君の澄んだ目で見つめられると、私の心は黒く染まっていく。ごめんね、ごめんねと何度も呟いていた。この手に滴る赤く少しドロッとした液体は何を意味するのだろうか。

 それは出来心だった。一回だけ、一回だけならと自分の心を揺らした。それはいつものこと。叶わない願いを目の前にすると私の瞳は輝きを失う。

 大勢の人の前で君は叫んだ。私の可笑しなところ、不思議なところ。そしてはにかんだ。君のその笑顔は一生忘れることはない。いつまででも私の中に住み続ける。私のことを喰らい殺そうとする。

 私は、生まれてくるべきじゃなかったんだ。なぜ二つの種は出会ってしまったのか。なぜ、私たちは出会ってしまったのか。

 私は自分勝手だ。君は言ってくれた。確かに君の個性は不思議だ、未知だ、正直よくわからない。だけどねと君は続けた。それは君にしかない、君だけの唯一無二のものなんだ。たとえ何万年、何億年待ったとしても君よりも魅力的な個性を持っている人は存在しえない。

 キラキラした君の笑顔とその奥底にある黒い闇。本当は闇なんて存在しなかったのかもしれない。けど、そんなことは関係ないんだ。私は君のその闇が嫌いなんだから。

 それからは簡単だった。君の驚く顔には闇が浮かんでいた。あぁ、君はやっぱり闇を隠し持っていた。私は本当に嬉しかった。不思議と瞳がぼやけていく。でも、それ以上に嬉しかった。私と同じなんだって。

 

 私はね、自分勝手なんだよ。君の気持ちなんて本当は一度も考えたことない。だからこそ最後まで貫かせてもらうとするよ。


 

 さようなら         

  

                  知佳  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君への遺書 哘 未依/夜桜 和奏 @Miiiii_kana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ