3章

3−1 入学

 豪華な飾りは無いが一見して高価とわかる馬車が門を通り抜ける。

 ここはライアート学園、国内の最高学府。

 その大きな正門を抜け、これまた豪華な建物の前に着く。


 馬車が停止したと同時に2人の騎士が飛び降り、ドアの前に台座を置く。

 先に出たのはエルマ。後から降りる私が転ばないよう手さしたしてくれる。

 その手を取りゆっくりと降りた。


 建物の前には華やかな一団が待っていた。

 彼女達の中央には姉であるエドマイアが微笑んでいる。


「エドマイアお姉様、おはようございます」

 ドレスをつまみ、貴族の女性としての軽い挨拶をする。


 エドマイア姉様も同じように応じる。

「ようこそリイティアちゃん、これからは学園でも会えますね。さあ私の部屋に行きましょう」と建物の中に案内する。

 公爵家の長女である彼女には学園内に専用の部屋が当てられている。

 と言うか、親が伯爵以上だと無条件に部屋用意されてしまう。無論私にも。

 ライアート学園は建前上身分に関係なく誰もが通えるとなっているが、実際には厳しい身分社会が存在するようだ。


「リイティアちゃん、もしかしてお付きの人はそれだけですか」

 一緒に中に入ろうと近づいた私にエドマイア姉様が聞いて来た。


 そう言われて振り返る。

 私の周りの世話をしてくれるエルマと護衛のケリとフォンシータ、ちゃんと3人いる。

「はい」


「リイティアちゃん、自分の立場をわかってますか。そんなふらふらした格好で出歩いたら公爵家の名が笑われるのですよ」

 お付きの人数も"格好"に入るのですか。

 私は四子だし、そこまで人を連れていなくとも。第一めんどうくさいです。


 それに対しお姉様の周りには着飾った女性が4人と、エルマみたいな飾りのない服をきた人が10数人。

 後、隠れているけど周りに護衛が数名いるはず。

 ケリに聞けば、涼しい顔をして「何人」と正確に答えるのだろう。悔しい。


「でも、あまり焦って変な人を選ばないようにね」

 ですから必要ないんですと心の中で答えた。


 ーーーーー


 お姉様の部屋でいただいたお茶は美味しかった。

 そのために専任で1人、あの人数になる理由を理解した。

 とはいえ、エルマはなんでもしてくれるし、私は彼女のいれてくれるお茶で十分満足している。必要を感じていなかったから連れていないのだ。

 私が人を避けていいるわけではない、逆に残って欲しかったフギズナはお父様にとられてしまっている。


「リイティアちゃん張り切っているのはわかるんですが、こんなに早く学園にくるとは。始め冗談だと思いました」

 この時間は早かったのだろうか。朝食をすませた後ゆっくりと出て来たはずだが。

「お姉様。こんな早くになってしまい申し訳ありません」

 お姉様が早いと言ったのならば、早かったのだろう。申し訳なかった。


「学園内を案内すると言ったのは私なのでリイティアちゃんが気にする必要はありません」

 その言葉どおり、その後私つれ建物内を案内してくださった。


 わかった事はここが上級貴族の子息が休息すための建物で、毎週パーティが行われているそうだ。

 公式な社交界以外で相手を見れる良い機会らしい。

 はぁ、と返事をしたが、何故そんな事に目を輝かせ熱を持って言われているのか理解できない。


 用意された昼食をご一緒し「またお会いしましょうと」と送り出された。


「ん〜食べた気がしない」

「そんな目をしても俺たちの分はお渡ししませんかね」フォンシータは冷たい。

「だいだい兵の食事を欲しがる主人なんて聞いたことがありません」とケリまで。

「仕方ないじゃない、サヤの焼いたパンが美味しいんだから」

 サヤには普段から多めにパンを焼いてもらっていて、お腹が空いた時摘んでいる。

「たしかにリイティア様のご提案で美味しくなってますが、本来は保存もできる固いパンです。普通貴族が口にするものじゃありません」

 つまみ食いをしているのはエルマも反対なのだ、彼女の場合はドレスが入らなくなくなるという理由でだが。

 それに正しくはヨンゼからの助言だ。


 午後の授業のため教室に行くと、教師が出迎えて

「このようなところにおいで下さいまして、ありがとうございます。この教室の生徒は優秀な者達です。どうぞよろしくお願いいたします」

 やけにかしこまって、教室とは別の部屋に案内された。

 そこは一団高くなっておて、教室全体が後ろから見渡すことができた。

 授業が始まると、教師の案内で生徒が一斉に立ち上がり全員で深々と頭を下げた。


「なにこれ」思わず呟いてしまう。

 身分が違うとはいえ、差がありすぎる。

 家に来ている家庭教師はあそこまで謙っていないぞ。


 ヨンゼの希望を聞いて世界の授業を受けたが、世界にはどのような国や地域があるのかを学ぶ。

 彼は地理と言っていたが、教えているのはメチャクチャな内容はだ、空想や伝承が本当として教えられている。

 家で読んだ旅行記きろくされている普通の港街まで、泥人の住むところだと教師まで信じている。


「ヨンゼこれって」

「すまん。情報がこの世界でいかに価値あるものか理解していなかった。公爵家にある本と言うものは私の考えている以上の価値が有るみたいだ」

 事前の予想と現状の違いをヒソヒソと2人で話し合った。


 授業が終わり教師が部屋の外で待っていた。

「どうでしょうか、お眼鏡にかなった生徒はおりましたでしょうか」

 頭を下げながら聞いてきた、後ろに並ぶ生徒もそれに習い頭を下げている。

 私の言葉を待っているようだ。


「今回お嬢様は色々なところを見て回ろうとのお考えです。今すぐ取り立てることはいたしません」

 エルマが私の代わりのその場を収めてくれた。その言葉で全員が一気に気落ちしているのがわかる。

 私が何を間違えているのかわかったような気がした。エルマの目が冷たい。


 次の授業は商才。商いを行うために必要な知識を教えている。

 出迎えた教師の対応は前のものと同じだった。通された部屋や教室内に漂う彼らの期待も。

 その日の内容は売り買いに関係する計算だった。教えていた内容は世界とは違いちゃんとしたものだった。

 ただ正しい理解できるほど全部知っている内容だった、今ヨンゼに教えてもらっている内容よりレベルが低い。


 また、エルマに応えてもらいその場を後にした。


 自分用に用意された部屋に戻り、エルマにお茶を入れてもい一息。何故かどっと疲れが出た。

 隣に使用人用の部屋もあったが、十分に広いので全員がこの場にいる。

 ケリとフォンシータは笑いを堪えているし、エルマの目は冷たい。


「こんなに早く教室に行くとおしゃられたので、公爵家に仕える者をそのような品のない選び方をしてはどうかと思っておりました。しかし、やっと人を増やそうと考えをお変えになられたのは良いことだと黙っておりましたが」

 エルマは怒っている。

「学校は自分の知らない事を教えてくれる場所だと」

「それは私たち下の者の場合です。公爵令嬢に必要な教育は他の者には必要ありません、貴族は各家で身分に応じた知識を学ぶのです。その間違えた学園の在り方は誰にお聞きになったのでしょうか」

「ヨンゼ」とエルマに聞こえない声で反抗してみた。

「何か言いましたか」聞こえなかったはずだが聞き返されてしまった。

「誰だったかな、忘れた」

「またいつもの妄想だったのでは。お嬢様の妄想はたまに確信を持って語られることが多いです。お気をつけ下さい」


「すまん」これもエルマには聞こえない声で謝られた。

 許さない、あんなに楽しそうに学園生活を話して期待したじゃない。

 ヨンゼの語る学園祭や部活を私もやってみたかった。

 世界が違うから無いかもしれない、その時は私が始めればいいととも言ったよね。

 これ、それ以前だと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

右手がウルサイ 〜召喚した精霊が凄くてズルいんですけど〜 野紫 @nomurasaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ