今更後悔してももう遅い~だって私死んでるから~

菜花

アドルナート家の悲話

 地方貴族アドルナート家の主人の息子に仕えるメイド、エレナ。彼女は元は平民の身で、流行り病でメイドが減ったアドルナート家が健康なら誰でもいいと募集し、運良く働くことが決まった。

 平民らしく素朴で人の良いエレナは己の仕える主人――ブルーノに見初められて恋仲になる。

 そこまではシンデレラのような話だった。

 しかしブルーノの乳母と姉は平民ごときがブルーノに近づいたのを極度に嫌い、アドルナート家の秘宝、皇帝から賜った金色の刺繍の入ったハンカチを隠し、それをエレナが盗んだのだと濡れ衣を着せた。

 ブルーノとエレナは深く愛し合っていた。それだけに裏切られたと思った時の反動も大きかった。

「在り処を言うまで拷問しろ。死んでも構わん」

 使用人に押さえつけながらも涙ぐんで否定するエレナに、ブルーノはそう吐き捨てた。


 アドルナート家には地下に独房があり、エレナはそこで三日三晩皮膚が裂けるほど鞭で打たれた。女の身ではその怪我に耐えきれず、ついにエレナは犯行を否定したまま亡くなった。

 死んだと聞いて一瞬胸が苦しくなったブルーノだが、それでも家宝のハンカチを失ったままなのは対外的にも痛いとすぐ気を取り直した。

 エレナ。目をかけていたし、愛し合っていた。母親に楽させたいと殊勝なことを言うからこっそり大目に給与も渡していた。もちろん自分のポケットマネーから。それなのに盗みなんて働いて恩を仇で返した。悪いことをしておいてそれを認めず反省もしないなら死んで当然だ、とブルーノはエレナの死を正当化した。

 そのひと月後、たまたま用があって赴いた姉の部屋で、ブルーノは金色の刺繍のハンカチを見つけてしまった。

 どういうことだと姉に問い詰めると「乳母がやれと言った」 と言う。

 乳母に問い詰めると「姉殿がエレナを思い知らせてやりたいと仰ったから」 と言う。あまりの責任転嫁ぶりに怒鳴りつける。

「僕はたった一人の姉と、生まれた時から一緒にいた乳母の二人が言うからこそ信じたんだぞ!? お前達は人の信頼を踏みにじったんだ! エレナを殺したのはお前達だ!」

 そう怒り狂うブルーノを見て乳母は冷ややかな目でこう言った。

「確かに私達は盗みの罪を着せました。けど殺したのは貴方でしょう。ブルーノ様以外の誰がエレナを拷問しろだなんて言ったのです? まさか恋人だった貴方様があそこまで信じないなんて思いませんでしたよ」

 ブルーノは正論でしかないその言葉に押し黙った。そして静かに自室に戻った。そして、一人になった時に机に突っ伏して慟哭した。


 愛し合った人間を、無罪の、それも濡れ衣だったのを疑いもせずに自分が殺したなんて。


 そんなブルーノの様子をじっと見つめるメイドがいた。――亡霊となったエレナだった。


 エレナは気がついたら幽霊となって立っていた。でも自分のことは誰にも見えないようだった。自分がどうしてここにいるのかは分かっている。濡れ衣を着せて拷問したこの家が憎い。そして恋人同士だったのに信じてくれなかったブルーノ様が憎い。復讐してやる。

 まずは自分の冤罪を晴らすことから始めた。

 人には触れられないが物には触れられたので、ブルーノが姉の部屋に入るタイミングをみて、机の中に隠されていたハンカチを床に落とす。メイドが盗んだはずの家宝が姉の部屋から出てきた。バカでなければ無実が分かるだろう。


 真実を知ったブルーノは、まず人を殺した罪に慄いた。翌日、アドルナート家の敷地内にある小さな教会で一心不乱に祈る姿が目撃された。

 朝から何も食べずに祈る様子を心配し、執事がメイドに言いつけて簡単な軽食を持って行かせる。

 メイドの軽い足音が背後から響いたのを聞いたブルーノは「エレナ!?」 と叫んで振り返った。当然エレナではない。軽食を持ったメイドはバツが悪そうにしていた。このメイドは濡れ衣事件の時、まだ新人で宝物庫の位置も知らないようなエレナが犯人な訳がないと薄々感づいてはいたが、内心将来の当主と恋仲のエレナを羨んでいたので助けることはしなかった。それに姉や乳母が怖かったというものある。それはこのメイドに限らず、姉と乳母以外は全員が同じような気持ちだった。

 振り返ったブルーノはエレナでないのを知り、間違いを誤魔化すように薄い笑みを浮かべたあと、ボロボロと大泣きした。

 軽食を持っていたメイドは弱ったところを慰めて私のものに、という下心もあって優しく接するが、ブルーノに振り払われる。「気づいてたんだろう、エレナは無実だって。同僚だったくせになんで黙っていたんだ、お前らも同罪だ!」


 その様子をじっと見つめていた亡霊のエレナは、少しは後悔してくれたのね、と溜飲を下げた。

 けどこれで終わるものか。今更後悔してももう遅い。鞭で打たれていた三日間。ブルーノ様はきっと無実だと気づいてくれる。そうしたらここから出してくださるはず、そんな希望にすがっていたが、三日間飲まず食わずで暴行され続けて結局死んだ。助けなんて来なかった。信頼していた相手は自分を信用なんかしていなかった。

 少し後悔したからなんなの。泣いたからってなんなの。反省だけだったら猿でも出来る。涙なんかあくびでだって出る。信じていた相手を裏切って許されようなんて思うな。


 それから姿は誰にも見えないが、物には触れられるという特性を生かして、夕暮れになると捨てられていたストールを被り、いつも掃除していた場所を箒とちり取りで掃き清めた。目撃したメイドの悲鳴が響く。

「見た! わたし見たの! エレナがいつもの場所で掃除していたのを!」

 それを聞いたブルーノは飛び出してその場所に駆けつけるが、エレナはその時には掃除用具も片付けて引っ込んでいた。


 静まり返った庭で完全に日が落ちるまで呆然とするブルーノ様を見るのは楽しい。

 叶うことなら謝って許されたいって思ってるんでしょう? でもそんなの駄目。夢枕に立って恨み節をぶつけてやろうかと思ったけど、そんなのブルーノ様みたいな自己中にはかえって悪手よね。済んだことにいつまでねちっこい人間だな、こんなやつのためにいつまでも悲しむことはないで終わってしまうもの。

 そうやって夕暮れになると時々仕事の手伝いをして自分の存在をアピールした。なぜ夕暮れかって? 明るいところではっきり見たらただ物が浮いてるだけだもの。蜘蛛の巣にでも引っかかってる? で終わってしまう。視界がきかなくなる夕暮れ以降じゃないとね。

 ブルーノがメイドから聞きつけるたびに飛んでやってくるのが楽しい。もしいつものことだ、とか言って来なくなったら……その程度の不実な人間として堂々と呪い殺してやるから。


 やがてブルーノ様は気づいたようだ。私がいつも掃除していた場所。それは庭の片隅にある東屋。小さい屋根に、小さな二人掛けの椅子がついている簡単な休憩所。周りを木に囲まれているから、こっそり逢引きしたい人達に人気だったけど、ブルーノ様と付き合ってからはもっぱら私達が使っていたのよね。……死ぬ前までは、毎日ここに来るのが楽しみで、生きる糧だった。

「エレナ。君は、まだここを大事に思ってくれてるのか……?」

 勘違いしないでほしい。無実で死なせた女の思い出の場所を他の女に使うなよって警告よ。

 だけどブルーノ様は勘違いしたまま、その日から時間さえあればその東屋に入ってボーっとしていた。

 死なせた女への自責の念に駆られて? でもいつまでもつかしらね。


 エレナの予想に反して、ブルーノは毎日毎日、雨の日も風の日も雷の日も雪の日もその東屋に一人で入った。敷地内だから入ること自体は簡単ではあったが。

 しかしそうすると幽霊騒ぎを起こすのに都合が悪いので、エレナも次の嫌がらせの手段を考えた。


 そして命日の日。エレナは夢枕に立った。ブルーノに見せるのは幸せだった時の幻影。

 ブルーノは懐かしい夢を見た。

 エレナと少しだけ遠出をして花を摘み、エレナがその花を押し花にした日があった。「ブルーノ様をイメージして作りました」 と青い花の栞を彼に何個か渡す。ブルーノも恋人の手作りを嬉しがって早速馴染みの本に差し込んで使った。

 エレナが地下室行きになった日、犯罪者の持ち物なんて胸糞悪いと全部捨てたのだとブルーノは眠りながら涙を零す。

 朝、ブルーノは飛び起きて本棚をひっくり返す勢いで探す。

 どこかになかったか。一個だけでも。一個だけでいいから。

 そして一冊の本に差しっぱなしになっていた栞を見つけた。その日からブルーノは東屋に行くのにその本と栞を持っていった。

 毎日毎日、その本を読んでそこに座っている。誰かを待っているかのように。

 太陽の照り付ける日に屋外で本なんか読んだら、色褪せてしまうだろうにとエレナは思う。

 案の定、覗き込んだ本はかすれてところどころ読めなくなっていた。それでもブルーノはその本のページを愛おしそうにめくっている。


 幸せだった頃の夢を見て現実とのギャップに苦しめと思ったが、まさかこうくるとは。さすがに心動かされるものがあったのか、エレナは一旦ブルーノへの嫌がらせを停止した。憎いのはもう二人いる。乳母と、ブルーノの姉。

 幽霊騒ぎを起こしてからは罪悪感があるのか縮こまって過ごしているのが笑える。そんなんで許しはしないから。

 手始めに乳母の娘にちょっかいをかけた。娘も別な貴族の家で働いていたのだが、そこの主人の持ち物を娘の部屋に隠してみた。私は鬼でも悪霊でもない。された以上のことはしないのだ。乳母の娘の勤め先は良心的な家で、娘を首にするだけで終わった。首にされた娘は母親に泣きついたが、乳母は過去の罪を彷彿とさせる事情を嫌って娘を追い出した。娘は仕方なく街に出て治安の悪いところで働くようになった。

 その時はふーんで済ませたが、何年か経った後、乳母は娘が子供を産んだと人づてに聞いて初孫が見たいあまり家を尋ねたのだが、今更なんだと追い返されていたらしい。自分が追い返されるとは微塵も思っていなかったし、なんなら「こんな私を見捨てないお母様素敵!」 となると思っていた乳母はショックを受け、さらに「初孫に会うのよ」 と周りに吹聴していたのにそれが叶わなかった事実が恥ずかしく、それから一気に老け込んで、最終的には認知症になってしまった。アドルナート家でも面倒を見きれないとブルーノの鶴の一声で教会の養護施設に預けられた。貴族の乳母の終の棲家が養護施設。ブルーノの不興を買わなければきっと今でもアドルナート家にいられたんだろうな。まあこれでも恵まれてるほうだけど。施設に入ってからはさらに認知症が加速し、人形を「ブルーノ坊ちゃま」 と呼んで可愛がるようになった。老いると思考が全盛期か一番楽しかった時に戻るとは聞くけれど。そこまで可愛がった坊ちゃまは貴方を捨てましたよ。もっとも、「全部忘れてへらへら笑っている姿を見たら憎くて何するか分からない」 とブルーノは言っていたから、守るためでもあるんだろうけど。それでも実質乳母を捨てたという事実は変わらない。エレナがざまあみろと思っていると、人形をお世話している乳母は思わぬことを口にした。

「まあ坊ちゃま。いけませんよ嘘なんてついては。皆不幸になるんですから。この私も、ずっと、ずっと後悔してるんですから……」

 エレナは聞かなかったことにして立ち去った。こんな老人にもう用はない。


 濡れ衣を着せたもう一人。ブルーノの姉はほとぼりが冷めるとさっさと嫁いでしまったが、この人にもその家の家宝を部屋に忍び込ませて濡れ衣を着せてやった。人にやったことを自分がされる気持ちはどう? 姉は身に覚えのない罪、だが他人に同じ濡れ衣を着せた記憶のあるこの事件に終始慄いていたようだった。

 そういえばこの人実家でも騒ぎを……と家中で問題視され、トカゲの尻尾を切られるように離縁話が進んでいたのだが、初婚でしかも一週間で離縁されたらあとはもうまともな結婚先などないと悲観した姉は首を吊った。夫だった人が第一発見者だったが、「片付けておけ」 の一言で悲しむそぶりもなかった。これでこの人も信頼する相手に裏切られた訳だけど、私みたいに化けて出てくるかなと思ったが一向に出てこなかった。どうして? 私みたいに未練はないってこと? こうなっても仕方ないって思ったんだろうか。

 ともあれ二人への復讐は完了。まあ、因果応報ってところかな。



 アドルナート家に戻ると、ブルーノは相変わらず、すっかり色あせて文字も消え、もう何も読めない本をじっと見ていた。

 少しだけ胸がうずく。

 ……こいつへの復讐はどうする? こんなに気に病んでるなら……もうやめる?

 エレナは首を振る。

 冗談じゃない。私は惨たらしく殺されたのにはこいつは生きてる。聞いた話では恋愛感情が持つのは三年。そうなったらこいつも次期当主なんだから嫁を取るはず。私のことを隠蔽するつもりなら殺してやる。私を殺しておきながら自分だけちゃっかり子供をもうけたら殺してやる!


「跡継ぎは親戚から取るよ」


 ブルーノは執事にそう言った。


「しかしそれでは……」

「ごめん。僕はどうしてもそんな気になれないんだ。それに姉や乳母の件でエレナのことは公然の秘密状態。嫁に来てくれる子なんていないよ」


 結婚することなく世を去ったエレナを気にしてか結婚しない宣言。エレナは振り上げた拳を下せなかった。

 いやまだ分からない。時間が経てば気も変わる。最愛の妻に亡くなられて一年経たずにやっぱ若い嫁さん欲しいわーって言う男は地元でも何人も見た。こっちは幽霊だから時間はたっぷりあるもの。ブルーノが少しでも私を軽んじることをしたら呪い殺すんだから。


 一年後。

 養子にした子供に教育を施す傍ら、毎日あの東屋に通っている。


 二年後。

 地方貴族の仕事をしながらやっぱりあの東屋に通っている。養子に「どうしてそこに毎日行くのか」 と聞かれて「エレナという女性との思い出が残る大切な場所だ。ここが無くなったら死んでしまう」 と答えていた。大切に思ってくれている、と思う反面、そこまで私が好きだったならどうしてあの時信じてくれなかったと恨みも増してしまう。


 三年後。

 ふと両親のことを思い出したエレナは、今年の夢枕に自分が鞭を打たれて徐々に弱り、最後に「寒い、寒い」 とうわごとを言いながら死ぬ様を見せてやった。

 ブルーノは執事が止めるのも聞かず、エレナの実家には「ご息女が高価な物を盗んだのでこちらで処罰した」 と説明していたのだが、それを取り消すために詫びの品を持って両親に真実を教えていた。


「……だから、私はエレナは盗みなんてしないって言ったのに!!」

 激昂したのはエレナの母だった。

「今更なによ! 謝罪したんだから許してねって? バカじゃないの! ごめんって言ったらエレナは帰ってくるっていうの!? ふざけるのも大概にして!!」

「よさないか、貴族の前で」

 父親がとめるけど、母親の怒りは収まらない。

「このお金と品物はこれでチャラにしてくださいってことですよね? 死んだ娘の代金なんですよね? いらないわよ!!!!」

 母親は金貨をブルーノに叩きつけた。それでもブルーノは机に額をこすりつけて謝る。

「申し訳ないと思っています。遅くなったことも、一度はもみ消そうとしたことも」

「そう思ってるなら死になさいよ! ホラ! 死ね! 死ね!! 私の娘を殺したんだからお前も死ね!!! できないんだろこのクソッタレ!!!!! 人の娘をむごたらしく殺しておいて!」


 余りにも見苦しいと思った父親が必死で母親を押さえつけ、ブルーノは近所迷惑にもなるから早く帰ってくれと言われて帰らざるをえなかった。

 ブルーノに着いて行きながらも、エレナはちらりと実家を振り返る。

 父も母もとりあえず元気そうで良かった。幸い子供は自分だけでなく、都会に働きに出た姉がいる。

 今の自分を知ったらきっと応援してくれるだろう。引き続きブルーノに憑りつくことにした。


 金貨が当たったところを抑えながら、ブルーノは乗ってきた馬車に戻る。家に戻ったブルーノは、もう夜も遅いのに東屋によってぼんやり風景を眺めていた。遠くを見ながら呟かれた言葉。

「今僕が死んだら、家に仕える使用人は一斉に路頭に迷う……。この家もどこぞの成金に買われるのだろう。そうしたら……エレナのことを語り継ぐ人間はいなくなってしまう。それだけは出来ないんだ」



 もういいんじゃないか。エレナの中でそう声がする。

 悪いことしても反省しない人間は大勢いる。ブルーノはずっとましだし、反省もしているほうだ。これ以上はさすがに気の毒ではないか。結婚しないと言って養子も取った、実家にも謝りに行った。生涯罪を抱えて生きていくつもりだ。これ以上何をどうしろというのだ。

 もう一人のエレナが言う。

 でも彼は生きている。私は死んでいる。生きている限り私を裏切ったブルーノは苦しむべきだ。大体そんな後悔するなら初めからもっと考えてものを言えばよかったんだ。私は純然たる被害者なんだから、加害者のこいつは永遠に苦しんで当然なんだ!


 分からない。これ以上、私はどうしたいんだろう。ただ、一度は愛した人に忘れられるのだけは嫌だと思った。



 十年後。

 相変わらずブルーノは東屋通いをやめない。


 二十年後。


 三十年後。





 すっかり年老いた男性となったブルーノが東屋に入った。

 頭には白髪しかなく、歯も無くなってスープしか飲めなくて、杖無しじゃ歩けない身体になっても東屋通いをやめないでいる。いつも持っていた本はボロボロになってとても持ち運びが出来なくなっていた。だから今は栞だけ持ってきている。それも手が震えるからと最初からポケットに入れて。


 もう、いいかなとエレナも思った。


 椅子に座ったブルーノは目を閉じる。老人は眠る時間が多いのだ。


 ブルーノは今夢を見ているのだなと思った。エレナがあの頃の姿のままで駆け寄ってきたから。


「ブルーノ様、お仕事が全て片付いたので来ました」

「エレナ……あ、ああ、ご苦労様」


 あの頃の夢だ。だからあの頃のように振る舞う。突然謝ったりするとどうしたのだと心配されるだけなので。


「もう、大丈夫ですか?」

「え?」

「私と一緒に出かけてくれないんですか? 私はそのつもりだったんですけど」


 栞を作った日の夢だろうか。いやでもあれは早朝から馬車で家を出てたような……いや、何でもいい。

 エレナが誘ってくれるところが自分の行く場所だ。


「ああ、うん。もう大丈夫だよ。待たせてごめんね。行こう」

「はい」


 二人は手を取り合って花畑に駆けていく。もうずっとここに行くのを待っていたような気がするな、とブルーノは感じていた。




 数時間後、東屋で亡くなっているブルーノが発見された。メイドによると苦しんだ様子もなく穏やかな顔で、まるで眠っているようだったという。

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