観測日記 〜同じ空の下で〜

-2021年 7月26日

 今日は特別な日だ。棚の奥にあった観測日記をこうして取り出すぐらいには。

私は今、この本片手に数ヶ月ぶりに観測所に向かっている。

 数ヶ月ぶりに訪れるというのに観測所は暖かく迎えてくれた。そっと扉を開ける。キラキラと輝く思い出たちがそこにあった。


 一年前の今日、6つの星が輝きはじめた。瞬く間に光り輝いた星たちは私たちに多くのものを与え、残してくれた。そこには痛みや辛さもある。それでも観測者が集まり、口を出るのはキラキラした思い出ばかり。それほどまでに彼らを見ていた時間は甘くて、濃厚で、濃密な時間だった。あの日の偶然の出会いから始まった彼らのストーリーはきっと奇跡だ。

 ふと空を見上げる。

今日も様々な星が燦々と輝いている。しかし、そこに彼らの星はない。やはりどこか寂しさがある空だ。

 観測所にあるアーカイブに手を伸ばす。ちょうど一年前の七月二十六日の日記だった。

 この頃は全てが新鮮に見えて、これから先の未来に期待をしていた。世界に色が灯り、全てが輝いていた。彼らの一つ一つの観測に一喜一憂していた。

 私が残した彼らの初印象の文章があった。今では考えられない文章がある。思わずクスリと笑ってしまった。この時から随分と印象が変わったものだ。

 一つ一つアーカイブを開いていく。その度に押し寄せる感情が胸をキュッと締め付ける。出来れば感じたくない痛み。だけど、それすらも受け入れてしまうほどに今日は特別だった。

 胸が締め付けられると同時になぜか背筋も伸びる。彼らの声に、歌に、なにか力があるのだろうか。いや、力があることは観測者が一番よく理解しているだろう。“胸を張れ”と言われている気がした。ここにある星空は彼らが零した奇蹟の跡だ。

 観測所を一度出て目の前に広がる草原に寝っ転がる。

空をじっと見つめ思う。僕らはなんにために生まれたのか。

観測者は、観測する星があってこその観測者だ。輝く星がいたから生まれてきた。観測する星があるなら夜が明けるまで近くにいよう。


 もしもの夢を見る。

もしもあの時、緑の星とオレンジの星が何もしなかったら。もしも今ここに6つの星があったら。もしも、今もこの星空で輝いていたら。

「もしも私に魔法がつかえたなら、夜空超えて会いに行けるのに…」

思わず口を出た言葉。一粒の涙と一緒に胸へと仕舞った。

 緑の星とオレンジの星は運命を見つけた二人だ。全ては偶然じゃない。


このセカイで出会えたことキセキじゃない。


 私のつま先は今も前を向いている。彼らもきっとそうだ。いつだって彼らは私たちの背中を押してくれた。それは彼ら自身が前を向き、頑張っているからなんだ。彼らは最後の一秒まで前を向いている。ならば、私たちも前を向いていこう。

 五つの流れ星が輝いた。遠くで一つの星が海に反射して煌めいた。

彼らがどんな姿になろうと、どんな名を名乗ろうと、彼らは彼らだ。何度でも繋がろう。何度でもその輝きを追おう。たとえ、この夜空で輝いていなくても、彼らは観測者たちにとっての一番星だ。いつまでもキラキラと輝いている。

 もう一度流れ星に祈り、立ち上がる。この一年はあっという間だったが、この両腕で抱えきれないほどの思い出がある。その時間を過ごした観測所に感謝をして帰路につく。

 今は海の近くにある少し大きめの洋館で過ごしている。そこには5体のお人形がいる。未知の世界へ風を切っている。今はその5体のお人形が見せてくれる夢を共に追いかけるとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

甘く輝く星たちの観測日記 湊谷愛澄 @uruka0926

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る