観測日記 〜紫の星に願いを込めて〜

 紫の星が消えて何日が経ったのだろうか。他の星たちと違い、彼はもっと遠くの軌道へと行ってしまった。彼らのようにそう簡単に見つかることはない。

 彼が軌道を変えたことで生まれた悲しみや辛さ、心にぽっかりと空いたいこの穴は彼が想像しているよりもでかい。時間経過とともに薄れていく気配もなく、ただそこに耐えきれぬ空白があるだけだ。


 ある日、観測者間で考察が始まった。彼が残した言葉と私たちの記憶を頼りに、彼の軌道を探そうと意見を出し合った。しかし、そこには早々見つかりはしないだろうという微かな絶望がある。この観測日記を書いている私自身、見つかるのは早くても半年またはそれ以上はかかると考えてる。

 僅かに残された希望、彼が残した「表現をすることはやめない」というその言葉だけを頼りに私たちは新たなる星の軌道を探し続けた。この有限の同じ空の下で生きている。探し続ければいつかは見つかるだろう。それだけが私たちの希望だった。しかし、私は少しだけ疲れてしまった。永遠に続く終わりの見えない希望は果たして“希望“なのか?


 その日から数日後、一人の観測者が電子の海へと出かけて行った。どうやら友人とおしゃべりをしにいくようだ。当時赤色の星の観測があったため、小さな望遠鏡を片手にるんるん気分で海へと出かけて行った。

 そのすぐ後のことだ。出かけに行った観測者が慌てた様子で観測所へと戻ってきた。友人と何を話していたか知る由もないが、話をしている中であるものを見つけたとかなり焦って喋り出した。片手には一枚の写真。そこから何かを感じ取った多くの観測者は電子の海へと向かっていった。


 この日記で見つけたものを述べるのは彼に対してあまりにも失礼だろう。詳しいことは省かせてもらう。ただ、一生忘れることの出来ない日のことを記しておきたかった。これは私のエゴであるが今回ばかりは許して欲しい。

私たちはこの日のことを一生忘れることはない。


 さて、紫の星の観測日記はここで一度閉じることにしよう。

新しい日記を始めるためにー

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