第3話 生まれ変わった日

 この関西弁のおっさんが僕の頭の中に出現してからというものロクな事がないと今更ながらに気づいた。この1日、否、この2日か。頭の中のおっさんのせいで僕は僕じゃないことに気づいた。


 女性軽蔑とも思えるこのおっさんの言葉。いくら僕の頭の中だけしか聞こえないからといって、これは明らかに脳内セクハラだ。

 そう思った僕は、おっさんを撃退すべく今眠っているであろうおっさんを起こすため、脳内に向けて声を張り上げるように念じた。


『おっさんはよ出て行けや! はよう出て行け!』

 と繰り返す言葉におっさんは言い返してくる。


【お前、いつから関西弁になったんや? 俺に感化されてんちゃうか】


 ぐうの音も出ないとはこのことだった。これまで必死で自分の未来のためと思い封印してきた関西弁がこのおっさん出現のせいでしゃべり始めだしたからだ。


「くそっ!」

 思わず目を開けて声をあげた。すると看護師がおもむろに近づいてきて声をかける。

「山本さんどうされましたか?」


【あかん! 目を瞑れ! さっきとは違う戦闘力あるぞ、この看護師!】

 何かと言えば戦闘力などと、と思っていると急に体の硬直が始まった。それに自分自身に驚き、一瞬目を閉じた。すると……。


【そ、それでええ! そうしとけば相手の戦闘力は見なくて済む!】

 なんのことかさっぱりだったが、おっさんの言われる通りに目を瞑る。すると看護師が「あらあら、寝たふりですか?クソがどうのってなんですか?」


【やめとけ!対話するなよ。こいつの戦闘力半端ないぞ! お前やられる!】


 何かといえば戦闘力などといういうので、どういう意味かと思い目を開けた。するとあることに気づいた。


 その看護師の顔面は、とてもじゃないが僕でもわかるぐらいに平面お亀のブサイク看護師女性、否、口厚の平目の豚鼻で口ひげがよく似合いそうな顔つき。

 まるで男かとも思えるそのおたふく顔に思わずビックリして、目を瞑った。それでなんとなくわかった気がした。


『頭の中の関西人のおっさんは女性を美とし、その美はおっさん好みでなければ戦闘力が高いと言う設定なのだと』


【あれ? バレた? そうやで?】


『そうなんかい!!アホやこのおっさん!』


 そう思った瞬間だった。


【アホはお前や! 戦闘力に負けてるお前こそ、女性を顔で判断しとるやんけ!】


『あっ……そうか。このおっさんが出現してからちゅうもんは、俺は女性を顔で判断してるんや。そうかそれで気に入らん女性がおったら倒れるようになってしもうたんか』


【そうやで?今、お前全て関西人になったな?なったよな? 良かったな! ほな俺はもうオサラバや! バイバイなあ!】


 このおっさんが出現してから僕は身も心も真の関西人へと変貌した瞬間だった。

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僕の中に関西人のおっさんが住んでいる 睦月椋 @seiji_mutsuki

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