第2話 名もなきおっさんと僕
僕の名は、山本孝之。とある俳優とよく似た名前だけど、あんなに濃い顔でも毛深い訳でもないし、イケメンでもない。どこにでもいる普通の学生だ。平日の昼間は、普通に専門学校に通い、声優とナレーションを勉強をするための、アニメーションスクールに通っている。授業の後は、駅前のファミレスでバイト漬けの日々を送っている単なる学生な僕。
学校でも何一つ冴えることなく、周りに完全に溶け込み、居るか居ないか微妙なラインを辿っている。ファミレスのバイトでも存在感はほとんど無く、いつも正社員やパートの陰で、ひっそりと穏やかに働いているのだ。
だけど、そんな僕にも夢がある。ここは大阪だけど、将来は声優として、アニメや吹き替え、ナレーションなどを中心に活動できるようにと、今必死で勉強中の身なのだ。だから、大阪に来た時も、僕は関西弁を憶えることを辞めた。本来は話せるし、普通にしていたら、多分混じり合い溶け込むだろう。だけど、僕の夢は声優として、活躍すること。それを念頭において、僕はあえて関西弁では話さない。だけど、関西人として浮かないようには努力もしているつもりだ。
だけど、妹曰く、単なるカッコつけ、弱虫兄貴の癖に、見掛け倒しなどと言われる始末なのだ。
そんな僕だが、憧れの声優陣と呼べる人たちがいる。勇者ダムダムで主人公のタムラを演じていた古谷アムロさん。その敵役のイケメン仮面役の池村秀逸さん。そしてラーラ役の井上陽菜さんには、昔から憧れ、声優を目指す事になった。そんな僕が、一生懸命関西弁を隠し、話してこなかったプロ意識の高い中で、関西弁のおっさんが突然現れたのだ。
屈辱的見解。どうにかしてこれを撃退するべく僕は今、考えている。否、今この状況は暗闇の中だ。そうなのだ。たしか……。近所のおばさんを見た直後にだ……。
そんな風に考えて思っている時だった。頭の中に急にあの関西人のおっさんが現れたのだ。
【必死に考えんのエエけど、お前気絶してんの判ってる?】
「……」
【動かれへんって】
「……」
【そやかて、これ金縛りの術やで?】
「……」
【お前を今、全て改造した。これからは、俺がお前の主人やで】
薄っすらと何か声が聞こえ、その声が遠くへ行くようにも思えた。
『誰? 誰の声?関西弁……』
目を開けると白い壁に見知らぬ場所のベッドの上。一瞬で何処かとわかった。どうやら病院だ。
「あっ! 動いた! お父さん、お母さん!」妹の彩が手招きで、親父と母親を読んでいる。
「大丈夫? 孝之!?」
「どれ?お目覚めかな?」
母の声と混じり、おっさんの声。白衣を着た先生が顔を覗かせ診察をする。
「脈拍、瞳孔、心拍ともに問題無しだな」
「ありがとうございます」母と父が白衣のおっさん先生に会釈した。
「孝之!あんた大変やってんからね?わかってんの?」
「あっ、あぁ、ごめん」
「本当にこの子ったら……」
「じゃあ、山本君、気持ち落ち着いたら、帰っていいから!」
「あっ?え?」
「あぁ、単なる過労な?心配いらんわ。一日寝たんやし大丈夫!」
「えっ?」
「何お兄ちゃん、今日、月曜日ってことわかってるん?」
「月曜?」
「そうや、あんた、一日うなされとったんや!もう大丈夫言うし、ちょっとゆっくりしたら帰っておいで」
「じゃあ、私は戻るから、何かあったら看護師に言いや?」
「はっ……。はい……」
僕は一日も寝ていたと気付いた時、呆気にとられ気の抜けた返事をしていた。
「さぁ、山本さん、もう少し寝ましょうか?」
【オイッ!この看護婦お盛んやノウ!寝ましょうか?やって】
僕は頭の中でその言葉が流れた時、看護師に向けて大きく目を見開いた。
「どうしたんですか?びっくりしたような顔で?」
「あっいえ……」
【この看護師は大丈夫や、戦闘力ないで】
『嘘や……』思わず関西弁で思った。
偶々、偶然に聞こえたと感じていたおっさんの声が明らかに聞こえた時、僕はまた堕ちるように眠りに就いた。
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