突夢

さとすみれ

1話完結

 何も起きない日常。その中でふと頭をよぎる映像。

「あっ。これ見たことある」

「……えっ? なんか言った?」

「あっ、ううん、何でもない」

由莉は頭を横に振りながら、ネット配信者の話に夢中になっている沙羅に応えた。


⚪︎月×日 晴れ

 今日から日記を書こうと思う。理由は特にないけど。強いて言うなら、いつか「アレ」を見なくなった時に自分の見たものが夢ではないと思わせるためかな。実のところ、書けって夢で言われている気がしたから。とにかく、私の気が向いた時に書くことにする。書くことはもちろん「あのこと」。わたしの予想もしていないタイミングでふと頭に映像が出てくる、アレ。忘れたとき用に、あれについて説明しておこうと思う。この後どうなるのかの妄想ではなく、夢で見たワンシーンが急に頭で流れる。夢で見た時にはモヤがかかっていて、朝起きたら忘れている。似たようなものに「予知夢」とか「幻夢」があるが、わたしの場合、両方にも当てはまらない……。夢を覚えているわけでもないし、何かの予兆でもない。その時が来ないと夢で見たのかわからないんだー。だから、わたしは自分に起きているこの現象を「突夢とつむ(ダサいのは気にしない)」と呼んでいる。「突然くる夢」略して「突夢」。今は一ヶ月に二、三回のペースで起きている。今起きたので三回目か……。最初は自分だけに起きているとは知らなかった。みんなにもあると思ってた。書いていたら疲れてきた……。もう寝る。わたし、三日坊主だから次に書くのは一週間後とかかなぁ……。


一ヶ月後。

△月□日 雨

 結局、一ヶ月経ってしまった。まぁ予想はしてたけど。それよりおかしい……。月に二、三回だった突夢が今は二、三日に一回のペースで見る。一月あたり十回以上……。その映像も前より長く出てくる。言葉も聞こえる。自分に何が起きているのだろう。不安だ。


次の日。

△月☆日 晴れ

 突夢って何なんだろう。今日起きたものをメモすることにする。

・朝九時過ぎ、沙羅の携帯が鳴って先生に怒られるもの

 →実際に怒られた。沙羅どんまい……。


また次の日。

△月♪日 晴れ

 沙羅とケンカ。理由は私が突夢について話したのを「そんなモノあるわけないじゃん」って完全否定されて、その後も他の人に言ったり馬鹿にしてきたから。バラされたくない秘密を私はよく沙羅に言う。しかしみんなに言いふらしたりバカにされたのは初めてだ。私は悪くない……。ただ、沙羅はわたしに謝ってくれるのかなぁ。友達だから謝ってくれるよね……。


 「あっ、おはよ」

沙羅はやばい人を見る目で私の横を無言で通り過ぎて行った。謝ってくれないんだ……。確かに話の途中で「これ見たことある」とか言っていつも話止めちゃったし。そりゃあ、あんなこと急に言われたら無視するよなぁ。おかしいよなぁ。謝る気ないかぁ……。


「放課後、話があるからちょっと残ってもらってもいい?」

「いいけど。昨日の」

「う、うん」

「あっそう」

えっ? あっそう? なにその冷たい態度。やばい人とは距離取りたいっていう感じ? 私の頭の中の何かが切れた。そして次には沙羅のネクタイを掴んでいた。周りから悲鳴が上がった。人々は徐々に私達から離れていった。


『「やめて……ごめ……ん……バカ……にして……ごめん……許し……て」

「許せるわけがない」

(手に力を入れる)

「うっ」

(沙羅の顔が歪む)

「何をしているんだ」

「手を離すんだ。飯島大丈夫か。おい。救急車!」

(先生の声)

「は、はい!」(バタバタと先生が走る)』


私の頭の中で映像が出現した。このままいけば私は沙羅を殺してしまうかもしれない。この通りになってしまったら。それは絶対に嫌だ。

 私は沙羅のネクタイから手を離した。ゾッとした。この突夢がなければ、沙羅は今頃……。


 その後、私は一時的に警察に保護された。そして精神科に入院させられた。突夢についても話したのに信じてくれなかった。今も入院しているが、あの事件以来、突夢を見ることはなくなった。

沙羅は私の病室に毎日来てくれる。あんなことがあったのに……。「ありがとう」と心の底から思う。沙羅の雰囲気からして、もうそろそろ退院できるらしい。刑事処分はなかった。不起訴になった。妥当な判断だったらしい。私の精神状態が悪く見えたからだと沙羅は言っていた。日記は燃やしたほうがいいんじゃないと母に言われて、拒否したが燃やされた。あれは結局何だったのだろう。沙羅が初めて私の病室に来た時に私は言った。

「沙羅ごめん……私どうかしてたわ。そんな沙羅を殺そうとするなんて……。ごめん。本当にごめん」

沙羅は少し泣きながら、

「由莉の顔、別人みたいだった。由莉の話、嘘じゃなかったんだね。ばかにしてごめんね。今思うとさぁ、多重人格だったんじゃない? 沙羅とは違う誰かだったんだよ」

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