6.彼の戦い
最後の一節の後、声の響きはなくなり現実へと戻された。
何かが自分の中にある。
兵士たちが目前にやってきた。
「なんだよ、このガキ。俺の矢を避けやがって!」
怖くて泣きそう・・・
「おい、放っといて早く行くぞ。どうせその子に何かできるわけでもあるまいし。」
怖いけど恐れるな。あの力があるんだから!
「ま、待て!」
「あ?」
「こ、ここはぼくの村なんだ!」
勇気を振り絞って手を広げて大声を出した。
「そうか!じゃあ殺してもいいですか!?隊長!!!」
そのいかにも殺しが好きそうな兵士は愉悦を孕んで隊長に正当な殺しを願う。
「•••はぁ、しょうがない。せめて痛みなく殺してやれ」
「了解ぃ!!!」
許しを得たその兵士は一瞬で殺すことは考えなかった。矢で足を穿ち手を穿ち足から火を灯して悲鳴を聞こうと弓を構えた。
それと同時に、マサヤは己に授けられた力を解放しようとしていた。力の使い方はもう知っていた。
彼の願いは両者とも血を流さないための力。戦いを拒む力。
「固有魔術”
それが発動した直後、矢が飛来してきた。だがその矢は彼の周りで曲がった。
この魔術は単純だった。あらゆる物質が彼の周りに存在することを拒絶する。それを成すためならば物理法則すらも歪ませる。
「あれ?外した?この俺が?まぁいいや。じゃあ剣で串刺しにしますかぁ!」
そうして、彼は走り出す。剣で彼の足を刺すために。
射程範囲に入った。剣で足めがけて刺そうとするが、剣が空を突く。
「は?」
こればかりはおかしいと感じた。今までにこのような挙動をしたことはなかった。
「おい、ガキィ!これはなんだよ!説明しろ!」
他の兵士からはその兵士が遊んでるように見えていた。だがその怒号を聞いて何かおかしいと感じていた。
「急いでるんだ。はやくしろ」
「くっ...了解...!」
もう彼はその少年を即座に殺すことにした。己が快楽のために隊長命令を無視するほど妥協はなかった。
「死ね!!!」
剣や弓では何故か彼に攻撃できないと知った。だから別の手段で攻撃する。一部のものしか持たない魔法という手段で。
「命を滅する炎よ、その使命を果たすため、彼を燃やし尽くせ」
「”
魔法によって出現した炎の槍は対象を燃やし灰にするため、凄まじい勢いでマサヤへと向かっていった。
そして彼に触れる前に、突然炎は消え去った。
「なっ!?」
こればかりは少年が何かをしたのだということがはっきりとした。自分の知らない未知な力、これには恐怖しかなかった。だから恐怖を取り除くため、再び炎槍を放つが同じ結末を迎えた。
「なんだよそれ!?ふざけやがって!」
思考もなく、ただ本能的に一直線に進む。そして身体を掴もうとするが、まるで手が独立した意識を持って動くかのように彼には触れられなかった。
何度も何度も試すが、触れられない。ごく稀に感じる圧倒的な才能の差。相手にとって自分はアリのような、いやそれ以下かもしれない。
「というかお前は何で攻撃しねぇんだよ!舐めてるのか!?」
「•••」
「答えろよ!」
「もういい。そいつの力は脅威だが攻撃はできないのだろう。ならば足止めして俺たちは村に行くぞ。」
兵士らの隊長はマサヤにとって厳しい命令を下した。そう、彼は攻撃ができないのだ。彼の意思ではない。
固有魔術を手に入れるために、【攻撃する権利】を手放したのだから。
力と代償 いちげつとーか @bellRIN
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