農村の青年は。

5.力を得た。

「お兄ちゃん!こっち!きれいなお花がいっぱい咲いてるよ!」

「ちょっとまってぇ・・・つ、疲れたから休ませて・・・」


 とある農村に二人の兄弟がいた。

 兄の名前をマサヤ、妹の名前はマリー。

 

「もぉ~遅いっ!」

「マリーが早いんだってぇ」

「お兄ちゃんが遅い!早く来てっ!」


 妹が活発なのに対して、兄は温厚であった。

 さらに、兄は血肉に過度な嫌悪感をもっている。


 小さいころから肉はあまり食べれなかった。

 動物が狩られるときを考えてしまい、かわいそうだと思ってしまった。

 それ故、人一倍体が弱くて体力も少ない。

 

 そして、マリーが連れてきたところは一面の花畑だった。


「はぁはぁ・・・きれいだねぇ・・・」

「そうでしょ!前に山菜取りに来た時に見つけたんだ!」


 突然マリーが花畑に手を突っ込むと、彼女の手には整えられた花の束があった。

「これは?」

「お兄ちゃん、明日誕生日でしょ?だからプレゼント!」

「ありがとう!」


 いつものように平和な日常。

 争いのない穏やかな日々。


 だが、平和は相反するものがあるが故、存在する。

 いつまでも平和ではいられない。


 ある日の朝、一人で森に来ていた。

 理由などなかった。

 ただ来なければならないと思っただけだ。


 すると、遠くに複数の兵士が見えた。


 マサヤが住んでいる村はどこの国にも属していない。

 だから狙われるのは必然だった。


「は、早くみんなに伝えなきゃ・・・!」


 そして、走り始めた。

 ただ、走ることに体が慣れていなかったせいか、盛大に転倒してしまった。


「痛た・・・」


 再び立ち上がろうとすると、一筋の矢が横を通貫した。


 そこに生まれるは絶望。

 死への招待状。

 戦うことすらろくにできない自分は矢に穿たれ、遂には剣で首をはねられるだろうという想像。


 だが同時に、生への渇望も生まれる。


「生きたい」


 血を流したくないから生きたい。

 村を助けるために生きたい。

 妹を悲しませないために生きたい。

 

「あぁ、どうか僕に力を・・・」


 こんな状況いままでにもあったはずだ。

 叶うはずない。

 現実は非情なのだから。


 だが、タイミングが良かった。

 つまり、運がよかったのだ。


「少年よ、ならば力を与えよう。汝の望む力を」


 いきなり、声が響いた。

 時が止まっているように感じた。


「はは・・・都合のいい幻聴だ・・・ほしい力かぁ。なら、無敵の盾が欲しいなぁ。そうすれば血を見なくても戦える」


「そうか」


 その声が彼の願望に反応すると、それとは別の異質な声が響く。

 それと似た声は聞いたことがあった。

 彼の父親は”魔法”というものを使うことができた。

 父がある不思議な声を発すると光がほとばしり、火の玉がどこからともなく出たり、水がいきなり流れ出したりしたものだ。


 だから何かその声も魔法を使うのかと感じるのも当然だ。

 だが、時間が経つにつれてそれは違うものだと実感する。

 己の体に流れてくる快楽。

 己の体から出ていく何か。


 そして、その声はこの一節で終わった。


「”代償”」



 

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