TS転生したので理想の女性を目指したら女の子にモテはじめた。

朝昼 晩

第1話

 大崎智おおさきさとる、無職・男性。

 享年三十一歳。

 散歩の途中で車に跳ねられて死亡。

 生活費はバイトをして稼いでいたが、どれも長続きしなかった。

 根は優しいが、かなりのスケベ。自室には沢山のエロ本がある。

 人と関わることに嫌悪感はない。が、積極的に関わりたいとも思ってない。友人はいるにはいるが、現在の大崎智を知っているのはほとんどいない。

 両親のためにも就職したいとは思っているものの、うまく職が見つからずに今に至る。

 好きな食べ物はかんぴょう巻き。

 好きなタイプは身体が引き締まった女性。

 座右の銘は「人に優しく」。

 最期の言葉は「ぐぇ!」

 生前にやり残したことは、童貞を捨てることと、周囲の人間を安心させられなかったこと。特に、家族にはとても迷惑をかけた。

 どうせ死ぬなら、もっとちゃんとした大人になってから死にたかった。


 ・・・


 以上が私、エルザ(五歳)が思い出した記憶である。どうやら前世のものらしい。

 信じられない、と言いたいところだが、妙に納得している自分がいる。生まれた頃から感じていた違和感の正体がわかったからだ。成人男性がいきなり女児になれば、そりゃ体も動かしにくくもなるだろう。当たり前にできていたことができないのが、こんなに辛いとは。

 五歳の女児がここまで思考を巡らせることができるのは、成人の記憶を手に入れたからか。だが、しょせんは五さいの脳。これいじょう、むずかしいことは、かんがえられそうにない。

「お嬢様!」

 めいどのあかねが、かけよってくる。ころんだわたしのことを、しんぱいしているんだろう。

「大丈夫ですか、お嬢様! ……ああっ、鼻血が!」

 かのじょのてが、わたしをやさしくつつみこむ。ここでようやく、あたまをつよくうったことをしった。たしかにこれはいたい。

「お嬢様、どこか痛いところはありますか?」

 あかねが、しんぱいそうに、こちらのかおをのぞきこむ。それにしても、かのじょがこんなにうろたえるのは、はじめてみる。いつもは、れいせいにわたしのあいてをするから、しんせんだ。こんなびじんにしんぱいされるとは、ぜんせではいったいどんないいことをしたのか。にしてもホントに痛

「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ・・・


 その日の夜、私はこれからのことを考えていた。五歳にとってはもう寝る時間だが、いろいろと記憶を整理しているうちに目が覚めてしまったのだ。でもそのお陰で、とあることに気付くことができた。

 それは、エルザの中に大崎智の思考回路があることだ。

 まるで二重人格の様ではあるが、簡単に言えば、物事を俯瞰した見方を持つということ。これは五歳に限らず、人として大きなアドバンテージになるだろう。

「……ちしきにかんしては、あまりきたいできそうにないけど」

 記憶を整理するに当たって、私の知る世界と俺の知る世界が別のモノであることが判明した。こちらは魔物や魔法が存在するという世界で、あちらみたいに車や電話等のような機械はない。おそらく魔法があるおかげで、科学はあまり発展しなかったのだろう。そんな世界で、俺の持つ常識が通用するとは思えない。

 まあ、今の私は五歳児だから、ゆっくり学んでいけばいい。

「……ふぁあ」

 さて、そろそろこの体の眠気も限界だし、今後の振る舞い方について考えよう。

 第一として、前世の記憶を持っていることを、他人に話すのはナシだ。正直、私はめちゃめちゃ話したいけど、俺からすれば余計なことはしない方が良い。五歳の娘がいきなり「前世の記憶がある」なんて言い始めたら、確実におかしくなったと思われる。最悪、病院送りだ。よしんば、信じてもらえたとしても、どんな扱いを受けるかわかったもんじゃない。家族のことは信頼しているけど、本性がはっきりしない限り伝えない方がいいだろう。

 とりあえず今のところは、「今まで通り、五歳の娘のように振る舞う」というのが今後の方針になる。でも、

「……それじゃあ、つまんないよねー」

 せっかく女性に生まれ変わったのだ、前世ではできなかったことをしたい。だがスケベなことをするのは、さすがに良心が痛むし、自己嫌悪にも陥るだろう。というか、俺も五歳は守備範囲外だ。

 この身体がせめて、高校生ぐらいの年齢だったら、

 いや待てよ。

 今五歳ということは、これから俺好みの女性に成長できるのではないか?どう過ごせば理想に近づけるかわからないが、前世の記憶を使えばある程度は叶うかもしれない。全部ネットの知識だけど。

「………………」

 もう駄目だ、眠い。

 とにかく明日からはいつも通り、もしくはより活発に過ごそう。

 そうすれば、きっと、うまく……い……く……………。

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