終焉より
目が覚めると、そこは白紙の世界でした。以前、そう最初に訪れた世界と同様のものがそこにあります。やはり、一面が真っ白で何もありません。地の果て、空の先に至る全てが真っ白です。しかし、そこに存在しないはずの物音が聞こえます。誰かの足音が近づいています。振り返ると、そこには一人の男がいました。薄汚れたボロボロのローブに黒い髪を肩まで伸ばした男が微笑み、と話しかけてきます。
「やあ、ようこそ。こんな最果てまで訪ねてくれた酔狂な君に一つお願いが……あれ?君もしかして、まだ途中かい?」
彼は少し驚き、面白そうに僅かに顔を傾けます。
「どこまで見ましたか?ふむ、6番目まで。次は誰かの独白だった、ですか。なるほど。ネズミ君が観測を休憩したせいか。いや、後ろに隠れていた彼かな?どっちが原因だろう。おや、どうしたのですか。まるで、そこに誰かがいるかのように周りを見渡してもここには僕とあなたしかいませんよ?えぇ、あなたです。私はあなたと話しているのですよ」
そう、彼はずっとあなたに語りかけています。あなたを、見えているわけがない?いえ、この文を通してあなたを、彼は見つめています。
「私の名は●●●●。多くの者の行く末を見守った者。調停者として失敗し、探索者にあらず、観測者として旅をしました。そして、私は此処にいます。君には私の旅の軌跡を辿ってほしいのです。そのうち、彼らは観測の続きをするでしょう。その時、旅の続きが始まります。残念ながら、君は観ることができても、その現場に干渉することは出来ません。私も幾度となく試しました。どうにかしたいと願わずにはいられない悲劇がありましたからね。旅の数だけ出会いと別れがあり、時々惨劇と稀に奇跡がありました」
彼は旅の思い出を振り返るようにしばらく目を閉じた後、あなたを真っ直ぐに見つめます。
「全てにおいて、それは叶いませんでした。あぁ、最初に旅した5番目の世界は特殊な環境でしたが。まぁ、当時の私は魔術なんて使えなかったですし、あれ以降あの世界へは行ってないので関係ないですね。出会いと別れは一方的なもの。惨劇は止められず、奇跡の喜びを分かち合うことも出来ませんでした」
そこまで言うと、しばらく何か考えたのか沈黙した後、お願いがあると語り始めた。
「私の旅の軌跡を、順番はご自由に、なんなら全てでなくても構いません、辿っていただきたい。何も知らないと少しでも知っているとでは天と地の差がある。私は■■■■との対話後様々な時代を観てきました。そして、一つの結末に辿り着きました。世界を滅ぼしかねない最悪の事件の黒幕にね。なぜそのような旅をしてほしいのか、ですか。今はまだ言えないんです。申し訳ございません。そうですね、次私たちが再び出会うことが出来たら、その時に全て話しましょう。なので、時が来たらまた会いに来てください。待っています」
そこまで話すと彼はニッコリと笑い手を振ります。白い白い世界に彼が一人、あなたを見上げています。あなたの意識はフワフワと浮かんでいく。体は気付けば半透明になり、空へ宙へと浮かんでいき、そしてあなたの意識は、徐々に暗転していきました。
「大丈夫ですよ。どういう訳か、あなたは旅を終えた私を観た。これが確定したのなら、後はここまで雪崩れ込むだけのこと。私たちはいつの日か再び会うことになるでしょう。どうか、その時は一緒に——」
ミライヘノキセキ 野々山嵐 @YAMAARASHI_0922
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