④-1 新美、斯くして暴走中

 自宅に帰って新美にいみからもらったジップロックを電子レンジにぶち込み、あたためのボタンを押してから、シャワーを浴びに行く。

 新美のやつ、逃げた時顔真っ赤だったなぁ。しかも俺の為に律儀に昼の定食をジップロックに入れてまで残しといてくれるって……そこまでするか普通?

 でもあのアワアワしていた顔は、普通に可愛いので反則だと思う。だがしかし、歳の差、何より相手が部下……いや、キモいキモい。

 こんなん考えちゃう時点でキモいってマジで。

 無心だ無心。こんな時はどうすればいいか。

 風呂から出て、髪を適当に乾かし、電子レンジからジップロックを取り出して、冷蔵庫からビールを取り出す。

 そして右手に箸or酒を、左手にiPadを。さぁ始まる。俺の最強のエンペラータイムが。

 飯で栄養補給しながら、iPadを操作してカクヨムのサイトのホーム画面へ飛ぶ。

 俺の読み方はまず当然右上の通知欄をチェック。いや本当ネット作家さんってすげぇよ。

 大体の方が普通に仕事しながら、こうやって更新する為に小説書いてるんだよな?

 普通に会社行って朝から夜まで働いたら後は残された時間で普通はゲームやらネットやら見てたら真夜中。ってなるんじゃ無いの?

 だのに、しっかり毎日更新! とか、一回の投稿に10000字とかやってる先生を見つけると尊敬の念しかない。

 だって10000字って、原稿用紙25枚分だぞ?

 俺中学の時の読書感想文の3枚分で死にそうだったのにさ。

 そりゃ感想と、物語じゃ文字数の伸びは違うだろうけど、文字をそんだけ積み重ねられるのがすげぇよ。

 俺には出来ない。出来なかった。

 そりゃこんな趣味をしてるぐらいだ。

 自分で一回物語を書いてみようと思った事も無くはない。無いのだが……、書いてから投稿ボタンを押すまでに読み直したら、途端に納得出来ないんだよな。謎のこだわり、キャラが固まってるかどうか、そして何より書いてから、これ、面白いか?? となるのである。

 その瞬間、書く価値が途端に無くなったような気がして全消去。という経験が今までに3回ある。

 いや本当に、自分の書いたものを面白いと信じて、誰が見るかも分からない、衆人環視の下に晒せてしまう書き手の皆んなを褒めてあげたいという謎の上から目線を発動してしまうんだよ。

 さて、そんな皆さんの中の誰の作品を読ませていただこうかと選ぼうとしたら、一番好きな作家の更新通知。

 勿論、古美小春先生だ。


「おー、シルコレ更新してんじゃん。待ってたぜ」


 なるほど、作者先生にリアルで会って「読んでます。更新してください」は、古美先生相手にはかなり効くようだな。確かに、待ってるの言った時あいつ大人がしちゃいけない顔してたしな。

 古美先生が中学、高校陸上の世界を書いた小説なのだが、主人公が走っててぶっ倒れたところで半年以上更新が止まっていた。

 いや、そこからの展開!! ってところで止めちまう作者本当どうかしてるぞ……まぁ、そのどうかしてる奴は新美だったんだけど。

 ……けど、これ、俺との大須での取材必要だったか?

 主人公が何故倒れたのか、理由が分かる過去について、ヒロインに語ってるだけだし……。

 その辺ちょっと聞くか。と、大須での取材前に交換したLINEにて、古美先生に尋ねてみる。


『最新話読みました。とても良かったのですが、聞きたいことがあるのですがよろしいですか?』


 我ながら丁寧過ぎるかなーなんて思ったら、直ぐ既読がついて、ヒュポッとコメント通知音がなる。


『あのぉ、とても良かったについての内容をカクヨム内で応援コメントして貰ってもいいっすか?』


 何だこいつ……(ドン引き)しっかりと感想をもらおうとしてやがる。上司相手に。


『え、LINEで伝えて応援付けたのに?』

『応援は嬉しいですが、応援コメントが多い作品ってだけで、他の人が面白いのかもと思う確率が0.001%でも上がるので。協力お願いします』


 何だこいつ……(2度目)

 それにしても返信はやっ! 何でこの文字数、数秒で来んだよ!?

 そういや取材の時、スマホでメモってる時もめちゃめちゃ早かったしな……。

 言われた通り、律儀に応援コメントをすると、LINEで何かのアニメのキャラの満面の笑みのスタンプが飛んできた。

 こいつ……カクヨムの更新通知はリアルタイムではなくて数分のタイムラグがある。

 つまり、こんな一瞬で感謝の旨を返信してきたって事は、カクヨムのサイトのワークスペースを監視していたに違いない。ずっと更新ボタン押しまくってたとかだろう。何それこわっ!


『とりあえず、感想に飢えすぎじゃない?』


 おっ、既読がついたのに返信が中々来ない。

 怒ったのだろうか……やべっ、ちょっと調子に乗り過ぎた……いや、明らかに新美の方が最近調子こいてる気がするんですけど! 俺は謝らない。絶対に謝らないんだからね!

 と、一人謎ツンデレ中に、通知音が鳴った。


『いいですか、課長。曲がりなりにも小説家であれば、誰しもが自己顕示欲があり、カクヨムであれば、PV、応援、フォロー、応援コメント、星、星レビューの順番で作者のテンションはどんどん上がっていきます。そして星とレビューは既に課長からはもらってるので、私のテンションを上げるには応援コメントをし続ける事でしかない事を深く心に刻みつけておくようにお願いします」

『調子に乗んな』


 俺史上最速での返信をしてから、LINEの通知を切り、他の人の作品を読み始めたのであった。

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読み専上司はつらいよ。 TOMOHIRO @tomohiro56

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