いつか王子様が

上田 直巳

いつか王子様が


アタシは今日も空を見る。

遠い空。届かぬ想い。


アタシはここに囚われて、どこにも行けない。

アタシの心は籠の中。


ねえ、助けに来てよ、王子様……。




窓の外を二羽の鳥たちが飛んでいく。

鉄格子の向こう側、青い自由を謳歌して。


「鳥っていいなぁ……」


あ、そういやアタシも鳥だった。


カゴの鳥。

飛べない鳥は、ただの鳥。


はぁ。

溜息がくちばしからこぼれ落ちる。



まあでも、これが「籠入りムスメ」ってやつよね。うん!


……まあ実際、大事にしてもらってるとは思うけどさ。


こうして三食昼飯付きで、贅沢させてもらってるわけだし?


え? 三食昼飯ってのは、朝食・昼食・夕食・夜食よ。

言っとくけど、三時のおやつは、別だからね。


ダイエットなんてしないわよ。

どうせ痩せて細くなったって、籠の隙間から出られるわけじゃないんだし。


アタシはただの、カゴの鳥。


「テッペン、ハゲタカ!」


あらやだ、また言っちゃった。

もう、ご主人様が変なこと教えるから。



ふぅ、水でも飲もうっと。


え? バカにしないでよ。

いつでも餌があるからって、いつでも食べてるわけじゃないわよ。


そりゃあ、一応気遣ってんのよ。

だってほら、いつか王子様が来るかもしれないし?


よっこいしょ。

ああ、やっぱりここが落ち着くわ。



鉄格子って、近づけば近づくほど、視界に入らなくなるのよね。


そのまま、心はどこまでも飛べそうな気がしてくる。

だけど身体は囚われる。


ちょっと身を引けば、やっぱりそこは、籠の中。


ねえ、どこにいるのよ、王子様……。




あら、誰かと思えば。


「スズメさんじゃない。ごきげんよう」


「え? また電柱が撤去されたの? あんたたちも大変ねえ。電線はとっくに地中に埋まったし、これからどうすんのよ」


「……あ、そう? まあ、頑張んなさいよ。アタシにはこの止まり木があるから、関係ないけどね」


どう、羨ましいでしょ? 崇めるがいいわ。

あらもう行っちゃうの。忙しい鳥ねえ。



あんなに世界は広いのに。

アタシに許されたのは、この籠の中だけ。


1LDK一羽暮らし。三食昼飯付き。

いいご身分だと思うわよ、我ながら。


でも、アタシの世界はこの中だけ。

この世界の中にはアタシだけ。


ねえ、いつまで待たせんのよ、王子様……。


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