ヒーローというにはあまりにも壮絶な

 盲目かつ聾の剣士、『戌の陣内』が、生き別れた姉を探して海を渡る物語。
 いわゆる時代小説、あるいはエンタメ的な時代劇です。風変わりな設定を備えた強いサムライが、半ば人智を超えた強さで悪漢なんかを斬ったりする、ケレン味たっぷりの爽快感あるお話。
 いかにもエンタメらしい〝強いヒーロー〟としてのワクワク感が主軸の作品、には違いないのですけれど、実はそれだけにはとどまらないというか、終盤の展開の分厚さがもう最高に好き。
 こういうのを思わぬ展開と言うのか、
「もうこのキャラと設定だけで十分成立しているのに、その上ここまでぶち込んでくる!?」
 というような、強烈なパンチをお見舞いしてくれる姿勢が最高でした。やっぱり小説は作者に殴られてナンボ!
 時代ものとしての背景の手堅さと、そこからの飛距離(というか「かまし方」)の大胆さ、それらのバランスの釣り合いが心地いい、極太のエンタメ時代劇でした。