ルバイヤート:生きるとは罰ゲーム

 井伏鱒二の訳詩は、内容や読みやすさから、ルバイヤートを連想させる。

 ウマル・ハイヤーム、11世紀イランの天文学者の書いた詩を。

 このペルシア語の詩は、訳が青空文庫に入っており、ただで読める。

 分量は短い。伊勢物語もそうだが、本は薄いのが一番だ。


 ルバイヤートで最も好きなのは、次の詩。


『二つ戸口のこの宿にいることの効果は

 心の痛みと命へのあきらめのみだ。

 生の息吹きを知らない者が羨ましい。

 母から生まれなかった者こそ幸福だ!』


 生まれたのを何かの罰ゲームだと解すれば、納得はむりだが、つじつまは合う。

「いや、君はそう言うが、世の中には生を謳歌している者もいるではないか」

 という人は、この罰ゲームのいやらしさをわかっていない。

 周りが同じ罰を受けている者ばかりでは、ゲームとして深みがない。

 苦しんでいる者のとなりに、楽しそうにしている者を置いたほうが悪質になる。

 そして、この罰のいちばん嫌な点は、参加させられた理由がわからないところだ。


 自らの魂、肉体、世界。

 生という檻は三重なうえ、死への恐怖という番犬もついている。

 そのような中で、私たちはどう過ごして行けばよいのか。

 ウマル・ハイヤームが歌うように、酒を飲むのもいい。詩を楽しむのも一案だろう。

 最後に、好きな句を挙げて話を閉じる。


『もともと無理やりつれ出された世界なんだ、

 生きてなやみのほかに得るところ何があったか?

 今は、何のために来り住みそして去るのやら

 わかりもしないで、しぶしぶ世を去るのだ!』


『この万象の海ほど不思議なものはない、

 誰ひとりそのみなもとをつきとめた人はない。

 あてずっぽうにめいめい勝手なことを言ったが、

 真相を明らかにすることは誰にも出来ない。』


『時の中で何を見ようと、何を聞こうと、

 また何を言おうと、みんな無駄なこと。

 野に出でて地平のきわみを駆けめぐろうと、

 家にいて想いにふけろうと無駄なこと。』


『いつまでも一生をうぬぼれておれよう、

 有る無しの議論になどふけっておれよう?

 酒をのめ、こう悲しみの多い人生は

 眠るか酔うかしてすごしたがよかろう!』

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本の感想:小説15冊 青切 @aogiri

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