第43話 雨に阻まれ
「きた! これは!」
釣り上げた魚はフナだった。
「……フナかぁ。だったら甘露煮ってところだけど」
持ってきた調味料では無理ね。っていうか塩しかない。塩焼きで食べる計画だったからそれに向いてる魚を釣り上げたいところ。
「あれ? マスター逃がしちゃうの?」
「ちょっとね」
私は水の中に手を入れる。
「水は冷たい。そして綺麗。なら塩焼きに適した魚もいるはずなんだけど……」
「私なら今のでもいいわよ? 生でそのまま」
私は再び竿を振りながらアオイに言う。
「まぁまぁ。きっと美味しい魚を釣り上げてみせるから……っ!」
すぐにグンとした手応えがきた! これは大きい! かかった獲物はジャンプしてその姿を水面上に晒す。
「この抵抗の仕方は……やっぱりニジマス!」
塩焼きには持ってこいの魚だ!
「が、頑張ってマスター!」
「任せておいて!」
私はこの後さらにもう一匹ニジマスを釣り上げかまどで塩焼きにして皆で食べた。
「く、マスターの料理を食べれぬこの身が口惜しい」
「大丈夫だってグラハム。その分アタシ達が食べておいてあげるからさ。うーん美味しい!」
ジョンも一心不乱に食べている。グラハムは終始アオイに見せつけられて悔しそうに震えていたけどこればかりはどうしようもないものね。
どうしようもないというならアオイの食べる姿もかしら。人の腕にあたる部分が羽だから魚を掴めず、脚を使って器用に食べている。女性のとるポーズとしてはなんとも。
ちなみにはこ丸もこういった食事はできない。いや、身体を貸せば出来るのかもしれないけど、でもそれは私な訳で……うーん、どうなんだろ。
この日は夜空の星を見ながら私が眠くなるまで皆と語り合った。新鮮な気分で楽しい時間を過ごせて嬉しい。またやりたいな。
パタ……パタタ……
明け方からは雨が降りだしていた。私は気付かずテントの中で眠っていた……
「ひゃっ!? 冷た! な、なに?」
飛び起きて確認する。周囲の音で結構な雨が降っているとわかった。その水がテントの中に侵入してきているのを把握。冷たかったのはこのせいね。でもなんで?
「あ!」
本にはこうならない様に敷いたシートに沿って適当な溝を掘っておく事が書いてあったはず。私はその溝を堀り忘れていた。
「あー……もう朝から最悪ー」
外に出て対処を完了させ、全身びしょ濡れの姿から着替えを済ませた私はテントの中で愚痴をこぼす。
(まぁ、これくらいの失敗ならかわいいものだ。これで今後は注意する事になるだろうしな)
「まぁねぇ。でも……」
雨がテントを激しく叩く。入り口の隙間から外を見る。
「これは足止めされるレベルだわ。湖の水も濁るのは確実ね」
私はテントの中でどう過ごそうか考えた。結局、明け方から降り続いた雨は夕方になってもやむ気配がなく、一応持ってきていたリ・将棋を手引き書を見ながら触って過ごす状態になっていたのだけど……
(そこにそれを動かすのはどうだ?)
「ここに? あー、なるほどそう来るのね。じゃあ私は……」
はこ丸も一緒にルールを覚え、二人で遊べる様になってしまったのは予想外だった。
自分の駒を動かした後、はこ丸の指示に従って打つ。確かにこれは軍隊同士が戦っているように見立てた戦争ゲーム。
でも私には召喚士が仲間の魔物を従えて相手の召喚士に立ち向かっている様にも思えた。
相手の魔物を説得、味方にして召喚する。こんな想像をしたらすんなりとルールを覚えてしまった。もちろん完璧にじゃないだろうけど、このゲームが大流行したっていう話も分かる気がしたのよね。良く出来てるもの。
ただ……私の居た村では誰もやってなかったのよ。だから大流行っていうのは多分言い過ぎ。でもまたあの集会所になってる酒場に行って見るのも面白いかもね。
「雨の音が気にならない位遊べるっていうのはすごい事かも」
(そうだな。ヨーダは見向きもしなかったので知らなかったが中々面白い)
「あなたが直接動かしてくれればもう少し楽なんだけどねー」
笑いながら外の音に聞き耳を立てる。雨に予定は潰されちゃったけど、思わぬ発見もできたから良しとしよ……ん?
(どうしたリノ)
(ちょっと静かに)
今妙な? ……集中する。
ザー……パタタ……ピチョン……ケロロ……ズリズリ。
! やっぱり妙な音が混じって聞こえる!
「なんだろ。雨音やカエルの鳴き声に混じって何かを引きずっている様な音が聞こえるんだけど……」
私は入り口の隙間から周辺の様子をうかがう。暗くなってきてて良くは見えないけど特に怪しい所は……
ズリ。
!? な、何あれ? 植物が移動してる?
確かに私には小さな緑色の葉っぱのようなものがズリズリと音を立てて少しずつ移動しているような光景が見えた。
箱を狩る少女 ~アイテムボックスは人を喰らう~ 乙彗星(おつすいせい) @orznaburu
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